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シルバー(銀)市場の供給不足と太陽光・EV需要2026:第三の貴金属の再評価

銀市場が2026年に6年連続の供給不足を記録し、太陽光パネルへの使用拡大と中国の記録的輸入増が価格を史上最高値圏に押し上げている。金・銅に隠れた「第三の貴金属」としての銀の構造的需給逼迫を多角的に分析する。

Newscoda 編集部
テーブルの上に積み上げられた複数のシルバーバー(銀の延べ棒)

はじめに

金の最高値更新や銅の「スーパーサイクル」論が市場の注目を集めるなか、貴金属・産業金属の交差点に位置する銀が、より深刻な需給構造の変容を経験している。シルバー・インスティテュートは2026年の銀市場について、6年連続の供給不足(マーケット・デフィシット)が継続するとの見通しを示しており、不足量は前年比15%増加して4,630万トロイオンスに達すると推定されている [1]。これは銀市場全体の供給量の4〜5%に相当する規模であり、商品市場の供給不足としては無視できない水準である。

需給逼迫の中心にあるのは太陽光発電産業の急拡大である。太陽電池(ソーラーセル)の接続部分(バスバー・フィンガー配線)に使用される銀ペーストは、現行技術における代替が難しい素材であり、設置パネル枚数の増加とともに銀使用量も増大する。IEAのデータによれば再生可能エネルギーの設備投資は世界的に拡大を続けており [5]、その最前線に位置する太陽光が銀需要の構造的押し上げ要因として機能している。金(ゴールド)が5,000ドル突破の話題で注目を集める一方で(詳細は金市場分析を参照)、銀の供給不足の深刻度は市場における認識を上回っている可能性がある。

銀の需給構造:6年連続の供給不足

供給側の制約:採掘量と生産コストの現実

銀の採掘は主要産出国であるメキシコ・ペルー・中国・ロシアなどに集中しており、「銀専用」の採掘鉱山は少なく、多くは銅・鉛・亜鉛・金の副産物として産出される。この構造が銀の供給を硬直化させる根本的な要因である。銅や金の価格が上昇して関連鉱山の稼働率が高まれば銀の副産物供給も増えるが、銀の需要増に対して独立した意思決定で増産できる余地が乏しい [4]。

シルバー・インスティテュートの世界銀サーベイによれば、2025年の一次銀産出量(原鉱石からの採掘)は約8億2,000万トロイオンスで、2024年とほぼ横ばいだった [4]。採掘コストの上昇も増産の障壁となっており、エネルギーコスト・人件費・環境規制対応費用が採掘事業者の収益を圧迫している。メキシコとペルーという二大産出国では、地域コミュニティとの許認可交渉や政治的不安定性が採掘プロジェクトの新規開発を難しくしており、中期的な供給増加余地は限定的とされる。

リサイクル銀(二次供給)については、工業廃材・写真フィルム・エレクトロニクス部品からの回収が一定量を維持している。しかし太陽光パネルからの銀回収については、パネルの設計上、銀ペーストの分離・精製が技術的に難しく、回収率が低い状態が続いている。パネルの大量廃棄が本格化するのは2030年代以降であり、リサイクル銀の増加が需給逼迫を緩和するには時間を要する。

需要爆発:太陽光から電子機器・投資需要まで

需要サイドでは、太陽光発電が圧倒的な成長ドライバーとなっている。2023年時点で太陽光パネル1枚に使用される銀は約20mg(ミリグラム)とされたが、高効率セル技術(TOPCon・HJT等)への移行により1枚あたりの銀使用量が増加傾向にある。シルバー・インスティテュートの推計では、太陽光産業向けの銀需要は2026年に2億トロイオンスに迫る水準に達しており、これは世界の銀需要全体の約22%に相当する [4]。

価格への影響は既にコスト面で顕在化している。太陽光パネル1枚の製造コストに占める銀の割合は、銀価格が1トロイオンス30ドル前後だった2023年には3.4%程度だったが、2026年に90ドル超の水準に上昇した局面では29%近くに達したと試算されており、パネルメーカーの収益を直撃している [2]。銀コストの上昇がパネル価格の下落トレンドを打ち消す「コスト構造の逆転」が、太陽光産業にとって2024〜2026年を通じた最大のコスト問題として浮上した。

工業用途では電子機器・車載センサー・5G通信機器・医療機器向けの銀需要も根強い。電気自動車(EV)1台あたりの銀使用量は内燃機関車の約2倍とされており、EV普及の進展が銀の工業需要を底上げする構造が続いている。またバー・コインなどの投資需要も、地政学的不確実性を背景としたリスクヘッジ需要として相応の水準を維持している。銅のスーパーサイクル論と並んで、銀もまたエネルギー転換のインフラ素材として再評価の局面にある。

中国の記録的銀輸入と市場への影響

2026年3月の月次輸入最高記録の背景

2026年4月に公表された中国税関統計によれば、同年3月の中国の銀輸入量は836トンと月次ベースで過去最高を記録した [3]。この急増の背景には二つの需要層が存在する。第一は個人投資家・小口投資家による投資目的の購入増加であり、金価格が高騰するなかで相対的に割安感のある銀へのシフトが起きたとされる。第二は太陽光産業での需要増であり、中国が世界最大の太陽光パネル生産国であることから、国内製造需要の拡大が輸入増を促した。

中国の銀輸入急増は、グローバルな銀の物理的フローに大きな影響を与えている。ロンドン・ニューヨーク・チューリッヒといった伝統的な銀取引市場から中国への移送が活発化しており、欧州・北米の倉庫在庫が減少傾向を示している。この物理的な供給タイトネスが、銀の先物価格だけでなくスポット価格(現物価格)のプレミアムにも影響を与え、デリバリー(現物決済)に伴うコストが上昇する局面が観測されている。

投資需要の面では、中国の個人投資家が銀を「小口の金」として位置づける傾向が強まっているとされる。不動産市場の低迷が続くなかで資産の分散先を模索する中国家庭にとって、貴金属は株式・債券に次ぐ選択肢として浮上しており、金よりも単価が低い銀は少額資産での投資参加を可能にするという特性が支持される背景となっている。

中国の太陽光産業と銀の相互依存

中国は世界の太陽光パネル供給の80%以上を担う圧倒的な生産大国であるが、その製造において銀は不可欠の素材である [5]。中国政府の再生可能エネルギー普及政策のもとで、国内での太陽光設置容量は年々拡大しており、国内消費に加えて輸出向けパネルの製造需要も銀を押し上げている。

ただし中国の太陽光産業は2026年に入り、BNEFが予測した「世界の太陽光新規設置量が初めて減少する年」という見通し [6] という逆風に直面している。米国・欧州での輸入関税強化、インド・東南アジアでの現地生産シフトが、中国製パネルの輸出を抑制しつつある。この結果、輸出向け需要の一部がキャンセルされる一方で、中国国内での太陽光設置拡大が銀の国内消費を下支えする構図が続いている。太陽光の設置量増減とは独立した形で、中国の銀輸入は国内投資需要という別の柱によっても支えられている点が、単純な「産業需要の増減で銀需要を予測する」アプローチの限界を示している。

価格動向と市場構造

史上最高値圏における価格形成メカニズム

銀の先物価格(COMEX銀先物)は2026年4月に1トロイオンスあたり93ドル超の水準に達し、史上最高値圏で推移している [1]。この価格水準を支える要因は複合的であり、単一の需要・供給変化では説明できない。需給のファンダメンタルズ(供給不足)に加えて、金価格高騰に連動した貴金属全体のリスクオフ需要、地政学的不確実性を背景とした投機的ポジションの積み上がり、そして前述の中国需要急増が複合的に作用している。

金銀比価(金1オンスに対する銀のオンス数)は、2020年代前半の120〜130倍という歴史的高水準から、2026年には70〜80倍程度に縮小している。歴史的には金銀比価は50〜70倍が「正常値」とされており、比価の縮小は銀の相対的割安感が解消されつつあることを示す。ただし過去の局面で比価が30倍台まで縮小したことも歴史上あり、「正常値」の判断には幅がある。

COMEX銀先物市場では、非商業トレーダー(ファンド・投機筋)のネットロングポジションが高水準を維持しており、価格が下落した場合のポジション解消による急落リスクも内包している。ファンダメンタルズの需給逼迫が下値を支える構造がある一方で、投機的ポジションの集積が価格変動率(ボラティリティ)を高める。銀が「貴金属と産業金属の二面性」を持つことは、価格形成に独特の複雑さをもたらしており、金や銅のどちらのモデルでも完全には説明できない動きを示すことが多い。

太陽光産業の銀依存と代替技術の現状

太陽光パネル製造における銀の使用を削減するための技術開発も進んでいるが、現在の量産技術では代替の選択肢が限られている。銀の電気伝導性は全金属中最高であり、この特性がパネル効率に直結する電流収集効率を左右する。代替として銅ペーストが研究されているが、銅は酸化しやすく、銀と同等の信頼性を量産ラインで実現するための製造プロセスの確立に時間を要している。

銀使用量の削減(省銀化)は各パネルメーカーが優先的に取り組む課題であり、バスバーの細線化・マルチバスバー化・銀含有量の低いペーストへの切り替えなどの手法が採用されている。シルバー・インスティテュートの推計では、省銀化技術の普及により2025〜2030年のパネル1枚あたりの銀使用量は漸減する見通しだが、パネルの総設置枚数の増加ペースが省銀化の速度を大きく上回っており、絶対量としての銀需要は拡大を続ける見通しである [4]。

原子力エネルギーの需要増大を含む電力インフラ全体の拡張が進む世界では、太陽光パネル以外の電気設備・送電網の部材にも銀が使用されており、エネルギー転換という大きなトレンドが産業用銀需要の裾野を広げていることも見逃せない。

注意点・展望

銀の需給逼迫が解消される可能性として、いくつかのシナリオが考えられる。第一は技術置換(銅ペーストや導電性カーボンへの切り替え)の加速であり、仮に2028〜2030年にかけて太陽光パネルの銅ペースト採用が量産レベルで普及すれば、銀の産業需要に構造的な下方圧力が生じる。第二は太陽光設置の伸び鈍化であり、BNEFが2026年の世界太陽光新規設置量の減少を予測したように [6]、価格高騰・政策変化・消費者需要の頭打ちが設置量を抑制する可能性がある。

供給サイドでは、銀価格の高騰が新規鉱山開発を経済的に可能にするという機制が働くが、採掘から生産開始まで最低でも5〜7年の期間を要することから、短期的な供給増加には結びつかない。中期的な供給増加の中心として期待されるのは、銅鉱山の稼働率向上に伴う副産物銀の増加と、既存鉱山での採掘深度の拡大であるが、いずれも増産ペースは緩やかにとどまる見通しである。

為替リスクも日本の投資家には重要な変数である。銀はドル建てで取引されるため、円安の局面では円換算での価格がさらに押し上げられる一方、円高転換時には逆の効果が生じる。国内の貴金属投資家にとって、銀価格の評価は銀のファンダメンタルズに加えてドル円相場の見通しを合わせて行う必要がある。

まとめ

銀市場の2026年における6年連続の供給不足 [1] は、単年の需給変動ではなく、エネルギー転換という構造的なトレンドに根ざした長期的な不均衡を反映している。太陽光パネル向け銀使用量の急増 [2] と中国の記録的輸入 [3] が複合的に需要を押し上げるなか、採掘の副産物依存という供給の硬直性が不足を恒常化させている [4]。

価格が1トロイオンス93ドル超の史上最高値圏で推移するなか、パネルメーカーのコスト構造は変質しており [2]、省銀化技術の進展と設置量の動向が今後の鍵を握る。IEAが示す再生可能エネルギーの長期的拡大見通し [5] が維持される限り、銀の産業需要はベースラインとして高い水準を保ちつつも、技術代替の成熟度次第で2028年以降に需給バランスの転換点を迎える可能性がある。金や銅と並んで注目されるべき「第三の貴金属」として、銀は今後のエネルギー・産業政策の帰趨と不可分な動きを続けることになる。

投資家の視点から見ると、銀はその二面性——貴金属としての安全資産的性格と産業金属としての景気連動性——が価格形成を複雑にしている反面、両方の需要ドライバーを同時に持つという特性が中長期の需要の底固さをもたらす。景気後退局面では工業需要が落ち込んでも投資需要がある程度相殺し、景気拡大局面では工業需要が需要を底上げするという構造は、純粋な貴金属(金)や純粋な産業金属(銅・ニッケル)と異なる価格挙動を生む。シルバー・インスティテュートが指摘するように [4]、この「ハイブリッド型コモディティ」としての性格こそが、銀が市場参加者の注目を集め続ける根本的な理由であり、供給不足というファンダメンタルズと相まって、銀が2026年以降も主要な投資対象のひとつであり続ける背景となっている。

BNEFが2026年の世界太陽光新規設置量の初の減少を予測 [6] したことは、短期的な需要の頭打ちリスクを示唆するが、これは一時的な調整とみなす見方も強い。中国以外の市場——インド・東南アジア・アフリカ——での太陽光普及が中長期的な成長エンジンとして機能する可能性があり、これらの地域での銀需要増加が2030年代の需給構造に新たな局面をもたらすことが予想される。地域分散した需要の多極化は、供給集中という構造的リスクとともに、銀市場の複雑さをさらに増す要因となる。

Sources

  1. [1]Silver Market Set for Sixth Annual Deficit on Strong Bar, Coin Demand
  2. [2]Silver's Rally Slams Solar Makers Already Struggling With Losses
  3. [3]China's Silver Imports Jump to Record on Retail and Solar Demand
  4. [4]The Silver Institute - World Silver Survey
  5. [5]IEA Renewable Energy Statistics
  6. [6]Global Solar Additions to Fall for First Time in 2026, Says BNEF

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