国内投資19.7%増・海外投資1.9%減 DBJ調査に見る日本企業の二極化
日本政策投資銀行の2026年度設備投資計画調査によると、大企業の国内投資は中東情勢の緊迫下でも前年比19.7%増となる一方、海外投資は1.9%減とコロナ禍以来のマイナスに転じる。両者の対照的な動きの構造を比較分析する。
はじめに
日本政策投資銀行(DBJ)が2026年8月4日に公表した「2026年度設備投資計画調査」は、日本の大企業(資本金10億円以上)の投資行動における顕著な対照を映し出した。資本金10億円以上の大企業2,756社を対象に実施され、国内設備投資については1,598社(回答率58.0%)、海外設備投資については556社(回答率20.2%)から回答を得たこの調査によれば、2026年度の国内設備投資計画は前年比19.7%増となり、前年度計画の伸び(14.3%増)を上回る旺盛さを示した [1]。一方で海外設備投資計画は前年比1.9%減となり、新型コロナウイルス感染拡大下だった2020年度以来、6年ぶりのマイナスに転じる見通しとなった [1]。
中東情勢の緊迫が長期化する中でこの二極化が生じている点は示唆的である。DBJ調査では、サプライチェーン見直しの契機として「中東情勢」や関連リスクを挙げる企業の割合が前年から大きく上昇したことが確認されている一方 [2]、国内投資計画そのものへの下押し効果は限定的にとどまった [1]。国内設備投資額(全産業)は前年比19.7%増となる24兆7,551億円規模に達する見通しであり、非製造業の伸び(22.9%増)が製造業(13.2%増)を上回る構図も特徴的である [1]。本稿は、この「国内堅調・海外後退」という対照的な構図を、投資の仕組み・メリットとデメリット・主要指標の3軸から比較分析する。
国内設備投資の構造
国内投資が堅調な仕組み
2026年度の国内設備投資計画(大企業・全産業)は前年比19.7%増と、2025年度実績の7.3%増(4年連続増)から一段と加速する計画である [1]。牽引役は業種によって性格が異なる。製造業は前年比13.2%増となり、AI・データセンター関連の半導体・部材投資が非鉄金属、化学、電気機械といった幅広い業種に波及していることが背景にある [1]。非製造業は前年比22.9%増とさらに高い伸びを計画しており、電力における送配電網投資の継続と原子力関連投資の本格化、運輸・不動産における駅前再開発や鉄道新線建設、インバウンド需要の増加に伴うホテル・空港機能拡大などが積み上がっている [1]。
この堅調さの土台には、経済安全保障上の要請と純粋な需要拡大という二つの異なる動機が併存している。DBJ調査では、国内投資を増やす上で重要な要素として「成長期待の高まり」や「政府支援への期待」の割合が高く、製造業では技術・人材面の優位性も重視されている [1]。加えて、戦略17分野に沿った政府の産業政策が、AI・半導体やデジタル・サイバーセキュリティ分野を中心に、3年以内の追加投資を予定する企業の裾野を広げている [1]。
デジタル化投資の伸びもこの傾向を裏付ける。2026年度のデジタル化投資は前年比23.3%増の計画で、製造業では一般機械を中心に22.0%増、非製造業では運輸・卸売小売を中心に24.1%増という高い伸びが見込まれている [1]。実際に、NTTデータグループは日本国内のデータセンター能力を2033年までに現状の4倍となる1ギガワットへ引き上げるべく、90億ドル規模の投資を計画していると報じられており、通信・AI関連企業による国内投資の積み増しが統計上の伸びを下支えしている構図がうかがえる [3]。
国内投資のメリット・デメリット
国内投資の利点は、地政学リスクの遮断効果が明確なことにある。海外拠点が抱える関税・輸出管理・現地政治リスクから距離を置きつつ、政府の財政・税制支援を直接享受できる。一方でデメリットも無視できない。人手不足という供給制約は国内投資の実行を妨げる要因として調査でも指摘されており、円安環境下での輸入資材費や建設コストの上昇は「投資コストの先高感」として1割以上の企業が意識している [1]。また、国内市場は人口減少局面にあり、内需依存の投資が中長期的な需要縮小リスクと表裏一体である点も構造的な弱点として残る。
海外設備投資の構造
海外投資が後退する仕組み
2026年度の海外設備投資計画(連結ベース)は前年比1.9%減で、地域別に見るとその内実は一様ではない。中国向けは22.6%減と大幅なマイナスとなり、製造業を中心とした減少が継続する見通しである [2]。北米は5.2%減、欧州は1.5%減とそれぞれ前年から反転し、化学や不動産分野での大型案件の一巡が響いている [2]。対照的に、中国を除くアジア向けは19.6%増と拡大しており、自動車関連投資などが下支えしている [2]。つまり海外投資の減速は「グローバル投資からの一律撤退」ではなく、中国リスクの顕在化と大型案件の循環的な一巡が重なった結果としての選別的な後退である。
この動きに中東情勢が与えた影響は間接的だが無視できない。DBJ調査では、製造業企業の44.5%が事業上のダウンサイドリスクとして中東情勢を挙げており、物価上昇に次ぐ主要なリスク要因として意識されている [2]。サプライチェーン見直しの契機として「中東情勢」や「ウクライナ情勢」を挙げる企業の割合も、2025年度の8.3%から2026年度には25.5%へと大きく上昇した [2]。それでもなお、こうした企業の対応の中心は「海外仕入れ調達先の分散・多様化」であり、海外拠点そのものを削減する動きよりも調達網の多元化が優先されていることが読み取れる [2]。IMFは2026年4月の世界経済見通しで、地政学的分断が中期的な投資配分を歪める要因になっていると分析しており、日本企業の対中国投資減速もこの構図の一部として位置づけられる [4]。実際、2026年2月末の米・イスラエルによるイラン攻撃を契機にホルムズ海峡の商業航行が長期にわたり事実上停止する事態となり、2026年8月にはイランとオマーンの間で新たな航路に関する枠組み合意が報じられるなど、情勢の先行きは8月時点でなお流動的である [5]。
海外投資のメリット・デメリット
海外投資の利点は、現地市場への直接アクセスと需要地生産による為替・関税リスクの軽減にある。中国を除くアジア向け投資が増加基調を保っている背景には、現地の消費市場拡大を取り込む狙いがある。半面、デメリットとして、地政学リスクへの直接的な曝露が挙げられる。中国向け投資は米中対立や自国産業政策強化の影響を受けやすく、中東・北アフリカ経由の物流・エネルギー供給網は軍事衝突の影響を直接受ける立場にある。海外投資比率の低下が続けば、将来の海外市場での競争力維持に必要な投資が先送りされるリスクも生じる。
両者の比較
主要指標による横並び
| 比較項目 | 国内投資 | 海外投資 |
|---|---|---|
| 2026年度計画増減率 | 前年比19.7%増 | 前年比1.9%減 |
| 直近のトレンド | 4年連続増、加速中 | 3年連続で伸び鈍化、6年ぶりの減少 |
| 主な牽引分野 | AI・データセンター、電力、都市再開発 | 中国除くアジアの自動車関連 |
| 主なリスク要因 | 人手不足、建設コスト上昇 | 中東情勢、米中対立、中国景気 |
| 政策的後押し | 戦略17分野など産業政策の直接支援 | 相対的に限定的 |
| 回答企業数(大企業) | 1,598社(回答率58.0%) | 556社(回答率20.2%) |
水準面でもこの対照は鮮明である。国内設備投資額(名目値、2019年度=100とした指数)は、物価上昇分を含めても2025年度実績でバブル期以来の高水準に達しており、非製造業に至ってはバブル期の水準そのものを上回った [1]。これに対し海外設備投資は、国内投資に対する比率(海外投資比率)の低下が続く見込みであり、研究開発拠点についても中長期的に国内拠点を強化する企業の割合が上昇する一方、海外拠点強化の割合は低下している [2]。投資の「量」だけでなく、将来の研究開発機能の配置という「質」の面でも、国内シフトが進行していることになる。
適合ケースの違い
業種・企業規模によって、この二極化の受け止め方は異なる。電力・通信・不動産・運輸など内需完結型の非製造業は、国内のAI・データセンター需要や都市機能強化投資の恩恵を最も直接的に受けており、22.9%という高い伸びに象徴される。半導体・電子部品関連の製造業も、国内でのAI関連投資拡大により一定の追い風を得ている。
一方、自動車・化学など従来から海外現地生産比率の高い業種では、中国向け投資の減速と北米・欧州の大型案件一巡が重なり、海外投資の絶対水準そのものは高いまま伸び率だけが鈍化する構図になっている。中堅企業(資本金1億円以上10億円未満)は大企業よりも中東情勢や物価上昇、人手・後継者不足を強くリスクとして認識する傾向があり、規模が小さい企業ほど地政学リスクへの耐性が相対的に低いことも調査から示唆されている [1]。
選択判断の軸
企業が国内投資と海外投資のどちらに資源を配分するかを検討する際の軸は、大きく三つに整理できる。第一に、需要の所在地である。AI・データセンター、電力インフラのように需要そのものが国内で急拡大している分野は、国内投資の合理性が高い。第二に、地政学的な曝露度である。中東・中国など地政学リスクが集中する地域への依存度が高い事業ほど、調達先の分散や国内回帰を検討する動機が強まる。第三に、政策支援の有無である。戦略17分野に連動する政府支援は国内投資の実質的なコストを引き下げており、この非対称性が投資配分の意思決定に影響を与えている。
いずれの軸でも「国内か海外か」の二者択一ではなく、事業ごとにリスクと成長機会を切り分けた上での資源配分の最適化が実態に近い。DBJ調査が示す海外投資比率の低下は、海外事業からの撤退ではなく、相対的な重心の移動として理解する必要がある。
OECDは2026年の対日経済審査で、日本の生産性向上には国内投資の質の改善が不可欠だと指摘している [6]。設備投資の量的拡大が続く局面だからこそ、AI・データセンターのような高付加価値分野への集中投資が実質的な生産性押し上げにつながるかどうかが、今回の国内投資ブームの持続性を左右する分水嶺になる。
Newscoda の見方
本サイトが注目するのは、今回のDBJ調査が示した「国内投資の押し上げ要因」の中身が、地政学リスク回避だけでなく、AI・データセンター関連投資という需要側の急拡大と重なっている点である。中東情勢というリスク要因と、AIブームという成長機会が同時に国内投資を押し上げているため、地政学リスクが仮に沈静化しても、国内投資の高い伸びが持続する可能性がある。
他の論調との違いとして、本サイトは「デリスキングによる国内回帰」という単線的な説明よりも、需要地の変化(中国減速・アジア増加)と大型投資案件の循環的な一巡という複数要因の重なりを重視する。海外投資の減少幅(1.9%減)自体は国内投資の伸び(19.7%増)に比べて相対的に小幅であり、構造転換というより調整局面と捉えるのが妥当である。
今後6〜12か月で観察すべき変数は以下の通りである。
- ホルムズ海峡を巡るイラン・オマーン間の航路合意が実際の商業航行正常化につながるかどうか
- 中国向け投資の減少が2027年度計画でも継続するか、それとも反転するか
- AI・データセンター関連投資が2026年度計画から実績に落ちる際の下方修正率
- 戦略17分野に連動した政府支援策の具体化状況
- 中堅企業における中東情勢・人手不足リスクの実際の投資行動への波及度合い
まとめ
DBJの2026年度設備投資計画調査は、日本の大企業が中東情勢の緊迫という共通の逆風の下で、国内投資では19.7%増という高い伸びを計画する一方、海外投資では1.9%減とコロナ禍以来のマイナスを見込むという対照的な選択をしていることを明らかにした。この二極化は単純な「デリスキングによる国内回帰」では説明しきれず、AI・データセンター需要という成長要因、中国向け投資の構造的な減速、大型案件の循環的な一巡という複数の要因が絡み合った結果である。国内投資と海外投資のどちらが「正解」かという二者択一ではなく、需要の所在地・地政学的曝露度・政策支援の有無という三つの軸で、業種・企業規模ごとに異なる最適解を探る局面に入ったと言える。
国内ではAIが突き動かす電力需要の方程式が示すように電力・インフラ投資の需要が拡大する一方、高市政権「17の重点分野」完全解説が示す産業政策が国内投資を後押しする構図がある。他方で海外投資の抑制は、海外M&Aに立ちはだかる経済安全保障の壁が指摘する対外投資への規制強化とも軌を一にしており、次年度以降の調査でこの構図がどこまで持続するかが焦点となる。
Sources
- [1]2026年度設備投資計画調査(全国調査・大企業)
- [2]2026年度設備投資計画調査 調査結果概要(PDF)
- [3]NTT Data Plans $9 Billion Investment to Expand Japan Data Center Capacity
- [4]World Economic Outlook, April 2026 — Global Economy in the Shadow of War
- [5]Iran, Oman Reach Agreement on Proposed Strait of Hormuz Shipping Route
- [6]OECD Economic Surveys — Japan 2026, Reigniting Productivity Growth
よくある質問
- 国内投資と海外投資、日本企業はどちらを優先すべきか
- 一律の正解はない。AI・データセンターや電力インフラなど需要が国内に集中する分野は国内投資の合理性が高く、現地市場アクセスが不可欠な業種は海外投資を維持する必要がある。DBJ調査が示すのは平均的な配分変化であり、個別企業の判断は事業構造に依存する。
- 海外投資の減少はグローバル展開からの撤退を意味するのか
- 現時点では「撤退」ではなく「伸び率の鈍化・逆転」である。海外設備投資額自体は積み上がった水準にあり、2026年度計画の1.9%減は前年までの横ばい傾向からの延長線上にある調整とみるのが実態に近い。
- 中東情勢が落ち着けば海外投資は再び増加するか
- 中東情勢は一因にすぎない。中国向け投資の減少や北米・化学分野の大型案件一巡など複数の要因が重なっており、地政学リスクが後退しても他の構造要因が残る限り、海外投資比率の低下傾向は続く可能性がある。
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