経済

医療・介護保険料、なぜ住む場所で異なるのか 4制度の地域格差を検証

協会けんぽ・国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険の保険料は、いずれも都道府県や市町村ごとに水準が異なる。4制度の直近データを横並びで整理し、格差の構造と是正の行方を検証する。

Newscoda 編集部

概要

日本の公的医療・介護保険は、加入する制度によって保険料の決め方が異なるだけでなく、同じ制度の中でも住んでいる都道府県や市町村によって金額・料率が変わる仕組みになっている。中小企業の従業員らが入る協会けんぽ、自営業者や年金生活者らが入る国民健康保険、75歳以上が対象の後期高齢者医療制度、65歳以上が支払う介護保険料の第1号保険料は、いずれも都道府県単位または市町村単位で水準が決まる建てつけであり、膨張する医療費と世代間格差が続くなかで地域差そのものが政策論点になりつつある。本稿では2026年度前後の最新データをもとに、4つの制度の地域格差を横並びで整理し、格差の構造と是正の方向性を検証する。

1. 協会けんぽ ― 都道府県単位の保険料率、最高と最低で1.34ポイント差

中小企業等の従業員とその家族が加入する協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)は、都道府県ごとの医療費水準を反映した「都道府県単位保険料率」を採用している。全国健康保険協会が公表した令和8年度(2026年度)の保険料率では、全国平均が9.9%となり、前年度の10.0%から0.1ポイント引き下げられた。全国平均の引き下げは34年ぶりである [1]。

都道府県別にみると、40都道府県で保険料率が引き下げられ、引き上げとなった県はない。青森・秋田・山形・栃木・神奈川・島根・沖縄の7県は、本来の算定では引き上げとなるところを、複数年度で増減を平準化する激変緩和措置により据え置かれた [1]。個別の水準では、最も高いのが佐賀県の10.55%、最も低いのが新潟県の9.21%で、その差は1.34ポイントに達する。また全国一律で適用される介護保険料率(40〜64歳の第2号被保険者分)は1.59%から1.62%に引き上げられ、2026年4月分(5月納付分)からは新たに「子ども・子育て支援金」の徴収も始まる [1]。協会けんぽは都道府県単位とはいえ、保険料率の差は医療費水準の違いをある程度反映した「緩やかな格差」にとどまっている点が特徴といえる。

2. 国民健康保険 ― 市町村ごとの格差から「県内統一」への移行

自営業者・非正規雇用者・年金生活者らが加入する国民健康保険(国保)は、2018年度(平成30年度)の制度改正で都道府県が財政運営の責任主体となったが、保険料(税)率そのものは引き続き市町村が個別に決定してきたため、同じ都道府県内でも自治体によって保険料が大きく異なる状態が長く続いてきた。この構造は地方交付税制度の岐路で論じられる自治体間の財政力格差とも重なり合う問題である。

こうした格差を是正するため、厚生労働省は「保険料水準統一加速化プラン(第2版)」(2024年6月公表)を策定した。同プランは2024〜2029年度を都道府県内の保険料水準統一に向けた加速期間と位置づけ、2033年度までの完全統一を目指しつつ、遅くとも2035年度(2036年度保険料算定)までの移行を目標に掲げている [2]。

先行事例としては大阪府が挙げられる。大阪府は2024年度(令和6年度)から、府内の全市町村で国民健康保険料の水準を完全統一した。同じ所得・世帯構成であれば、府内のどの市町村に住んでいても同じ保険料額となる仕組みで、府の統一運営方針に基づいて実施された [3]。全国的にはなお市町村ごとに保険料算定方式や料率が異なる自治体が多数を占めており、統一の完了時期は都道府県ごとにばらつきがある。

3. 後期高齢者医療制度 ― 75歳以上、東京と青森で月5,000円超の開き

75歳以上(一定の障害がある65歳以上を含む)が加入する後期高齢者医療制度は、都道府県単位で設置された広域連合が保険料率を決定する。厚生労働省が集計した2026・27年度(令和8・9年度)の保険料率によれば、被保険者一人当たりの平均保険料額(月額)は全国平均で7,989円となる見込みで、前期(2024・25年度)の7,411円から578円(7.8%)増加する [4]。

都道府県別では、最も高いのが東京都で10,352円、次いで神奈川県9,842円、愛知県9,045円と続く。最も低いのは青森県の4,990円で、岩手県5,496円、福島県5,744円が続く。東京都と青森県の差は5,362円で、倍率にして約2.1倍にのぼる [4]。この差は所得水準と一人当たり医療費水準の双方を反映したものであり、都市部と地方で構造的に生じやすい。なお2026年度からは、医療分の保険料率に子ども・子育て支援金相当額(全国平均で月194円)を上乗せして徴収する仕組みも始まっており、地域差の絶対額は今後さらに広がる可能性がある [4]。

4. 介護保険料(第1号被保険者)― 大阪市と小笠原村で2.7倍の格差

65歳以上が支払う介護保険料(第1号保険料)は、市町村(一部は広域連合)が単独で基準額を設定する仕組みであり、4制度の中でも最も細かい単位で格差が生じる。厚生労働省の集計によれば、第9期計画期間(2024〜2026年度)の全国平均基準額(月額)は6,225円で、第8期(2021〜2023年度)の6,014円から211円(3.5%)増加し、過去最高を更新した [5]。

都道府県単位でみると、最も高いのは大阪府で7,486円、最も低いのは山口県で5,568円である。さらに市町村・広域連合単位(全国1,573保険者)でみると格差はより顕著で、最も高いのは大阪市の9,249円、最も低いのは東京都小笠原村の3,374円となり、その差は5,875円、倍率にして約2.7倍に達する [5][6]。大阪府の集計資料によれば、府内市町村の基準額にも高低差があり、独居高齢者比率や介護サービスの利用状況の違いが基準額を押し上げる要因になっているとみられる [6]。第8期から第9期にかけては、712保険者が引き上げ、585保険者が据え置き、276保険者が引き下げとなっており、市町村ごとの財政事情や高齢化の進み方の違いがそのまま保険料に表れている [5]。

共通点と相違点

4制度はいずれも「保険料水準が地理的単位によって異なる」という共通点を持つが、決定主体・格差の大きさ・是正の方向性は異なる。

制度主な加入者保険料を決める単位直近の地域差格差是正の方向性
協会けんぽ中小企業等の被用者都道府県単位(全国健康保険協会)最高10.55%〜最低9.21%(1.34ポイント差)医療費実績に応じた算定を継続、激変緩和措置で急変を回避
国民健康保険自営業・年金生活者・非正規等市町村単位(財政運営は都道府県)統一済みの自治体(大阪府等)と未統一の自治体が並存2033〜2035年度までに都道府県内での完全統一を目指す
後期高齢者医療制度75歳以上都道府県単位(広域連合)東京都10,352円 対 青森県4,990円(約2.1倍)医療費・所得水準の構造差が要因、抜本是正の予定はない
介護保険料(第1号)65歳以上市町村単位(一部広域連合)大阪市9,249円 対 小笠原村3,374円(約2.7倍)保険者単位を維持、広域化の動きは限定的

共通しているのは、いずれの制度も「同じ所得・世帯構成でも住む場所によって負担が変わる」という点である。相違点は、協会けんぽが都道府県単位に統一されているのに対し、国保と介護保険料はより細かい市町村単位が基本であり、格差の絶対値・倍率が大きくなりやすいことにある。後期高齢者医療制度は都道府県単位でありながら、医療費水準の地域差が大きいために格差が縮小しにくい構造を抱えている。

注意点・展望

第一に、国保の「保険料水準統一加速化プラン」は法的な強制力を伴う一律の期限設定ではなく、都道府県ごとの検討状況に委ねられている部分が大きい。大阪府のように早期に統一を実現した地域がある一方 [3]、市町村間の医療費水準や財政事情の違いが大きい地域では、統一に伴って保険料が上昇する市町村が生じるため、住民の理解を得るプロセスに時間を要するとみられる。

第二に、介護保険料は高齢化の進行とともに全国平均自体が上昇を続けており、第9期の6,225円は今後も更新される可能性が高い。市町村単位の制度である以上、独居高齢者比率やサービス利用率の地域差がそのまま保険料差として残りやすく、日本の社会保障世代間バランスの観点からも、現役世代・高齢世代双方の負担の地域差にどう向き合うかが論点であり続ける。

第三に、後期高齢者医療制度・協会けんぽともに、2026年度から子ども・子育て支援金の徴収が保険料に上乗せされる形で始まっており、今後は従来の医療費・介護費の地域差に加え、支援金の負担配分をめぐる公平性の議論が加わる可能性がある。

Newscoda の見方

Newscodaとしては、4制度の地域格差を単独の制度ごとに見るのではなく、「保険料が決まる地理的単位の粗さ」という共通の軸で捉えることが重要だと考える。都道府県単位で決まる協会けんぽや後期高齢者医療制度は格差が比較的緩やかである一方、市町村単位で決まる国保と介護保険料は格差が大きくなりやすい。単位を広域化すれば格差は縮小するが、その分だけ地域の実情に応じたきめ細かな運営は難しくなるという、トレードオフの構造がある。

他の解説との違いとして、本稿は個々の制度のランキングや家計への影響額の試算ではなく、4制度を横断してその制度設計上の共通点・相違点を比較する視点を重視した。国保の統一加速化プランと介護保険料の市町村単位維持という対照的な政策選択は、いずれも同じ「地域の実情に応じた運営」という理念から出発していながら、結果として異なる方向に向かっている点が興味深い。

今後6〜12か月で観察すべき変数は次の通りである。

  • 国保の保険料水準統一に着手する都道府県の数と、統一に伴う保険料の変動幅
  • 介護保険料の第9期後半(2026年度)における市町村単位での改定動向
  • 協会けんぽの令和9年度保険料率における激変緩和措置対象県の扱い
  • 後期高齢者医療制度における子ども・子育て支援金の負担額の地域差
  • 各制度の統一・広域化議論が国保以外(介護保険等)にも波及するかどうか

まとめ

協会けんぽ・国民健康保険・後期高齢者医療制度・介護保険料はいずれも、加入者の住む都道府県や市町村によって保険料水準が異なる。協会けんぽは都道府県単位で1.34ポイント差、後期高齢者医療制度は都道府県単位で最大約2.1倍、国保は市町村単位のまま2033〜2035年度に向けて統一が進められており、介護保険料は市町村単位で最大約2.7倍の格差が生じている。格差の大きさは保険料を決める地理的単位の粗さに比例する傾向があり、今後の制度改革は「どこまで単位を広域化するか」という一点に集約されつつある。

Sources

  1. [1]令和8年度保険料額表|都道府県毎の保険料額表 — 全国健康保険協会
  2. [2]国民健康保険制度 — 厚生労働省(保険料水準統一加速化プラン〔第2版〕掲載)
  3. [3]令和6年度から大阪府内の市町村国民健康保険料を統一しました — 大阪府
  4. [4]後期高齢者医療制度の令和8・9年度の保険料率について — 厚生労働省
  5. [5]第9期介護保険事業計画の第1号保険料について — 厚生労働省
  6. [6]大阪府内の第1号被保険者の保険料基準額一覧(第9期 令和6から8年度)— 大阪府

関連記事

最新記事