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日本のデジタルトークン資金調達:VC出資との違いと制度設計の現在地

2026年に整備が進む日本のスタートアップ向けデジタルトークン販売制度を解説する。改正資金決済法・金融商品取引法の枠組み、従来のエクイティVC出資との比較、シンガポール・ドバイとの規制環境の差異、先行事例と残された課題を網羅的に分析する。

Newscoda 編集部
ホワイトボードを前に議論するスタートアップチームのオフィス空間

はじめに

スタートアップが株式の代わりにデジタルトークンを発行してVC(ベンチャーキャピタル)から資金を調達する――2026年に入り、日本でこの仕組みが現実のものとなりつつある。2024年2月に日本の内閣が承認し、その後の改正手続きを経て2026年の実施を目指す一連の法改正は、投資有限責任組合(ILP:LPS形式のVCファンド)が暗号資産を取得・保有することを可能にし、スタートアップが国内でトークンを発行して資本を調達できる道を拓いた [1]。政府のスタートアップ育成5カ年計画(2022年度比で投資額10倍を2027年度までに達成)の第二の柱として位置づけられるこの制度改正は、日本のスタートアップエコシステムのあり方を根本から変える可能性がある [1]。

従来、日本のスタートアップがトークン販売で資金を調達しようとする場合、シンガポールやドバイに法人を設立して行うことが事実上の標準となっていた [1]。国内での暗号資産保有を投資有限責任組合に認めない規制の壁が、日本発のWeb3プロジェクトを「海外移転」に向かわせてきた構図だ。今回の制度整備はこの流れを反転させることを狙うが、規制の詳細設計と実際の活用実績は現時点でなお発展途上にある。以下では、改正の内容・従来型VC出資との比較・競合する海外の規制環境・残された課題の四つの観点から詳述する。

主要テーマ1:日本のデジタルトークン制度の全体像

サブ論点1-1:改正投資事業有限責任組合法と金融商品取引法の枠組み

今回の改革は二本柱からなる。第一の柱は、投資事業有限責任組合契約に関する法律(LPS法)の改正であり、これによりベンチャーキャピタルが設立するILPが、暗号資産(スタートアップが発行するユーティリティ・トークンを含む)を運用対象として取得・保有することが可能となった [1][2]。従来のLPS法ではILPが保有できる資産は「持分・株式・金銭債権・知的財産」に限定されており、暗号資産は明示的に排除されていた [1]。

第二の柱は、金融商品取引法(金商法・FIEA)の改正だ。2026年4月に内閣で承認された改正法案は、暗号資産を現行の「資金決済法」が定める支払手段の枠組みから外し、金商法上の「金融商品」として再分類することを骨子とする [5][6]。これにより、トークンを証券として販売する行為(STO:セキュリティ・トークン・オファリング)と、従来から存在する「電子記録移転権利(ERTR)」の枠組みが統合・整理される。金商法の監督下に置かれるトークン発行体は、株式発行体と同等の開示義務(技術・トークン供給量・リスク・資金使途の詳細説明)を負うことになる [5][7]。

サブ論点1-2:ユーティリティ・トークンとセキュリティ・トークンの境界線

日本の新制度で最も重要な実務上の争点の一つが、「ユーティリティ・トークン」と「セキュリティ・トークン」の区別だ [4]。一般に、ユーティリティ・トークンとは特定のプラットフォーム・サービスへのアクセス権を表象するものであり、セキュリティ・トークンとは株式・社債・ファンド持分を電子化したものだ。後者は金商法の適用を受け、登録・開示・勧誘規制が課される [4]。

改正金商法は、セキュリティ・トークンを「電子記録移転権利(ERTR)」として定義し、証券取引所の取引ルールを準用する方向性を示している [5]。一方、ユーティリティ・トークンはFIEAではなく改正資金決済法の規制下に残る可能性が高いが、実際には経済的実態が証券に近い「グレーゾーン」トークンも多く、金融庁(FSA)による事例別の判断が必要となる場面が増えることが見込まれる [4]。NFT(非代替性トークン)については、財・サービスと紐づいたものは金融規制の適用から除外される見通しだが、金融的性格を持つNFTについては個別精査が求められる [5]。

刑事制裁の強化も注目点だ。無登録での販売に対する最大禁固刑は3年から10年に引き上げられ、罰金も300万円から1000万円に増額された。内部情報に基づくインサイダー取引は明示的に禁止されることとなった [5]。

主要テーマ2:エクイティ型VC出資との比較

サブ論点2-1:従来型エクイティ出資の構造的限界

スタートアップへの従来型エクイティ投資は、VC(投資家)がスタートアップ(発行体)の株式を取得し、株主として議決権・残余財産分配請求権を持つ形を取る。この仕組みはIPO(株式公開)やM&Aによるイグジットが前提であり、日本のVC投資の大部分を占める [9]。投資家は保有株式の価値上昇を通じてリターンを得る一方、流動性は低く、投資回収には通常5〜10年を要する。

エクイティ投資の最大の課題は「流動性の低さ」だ。日本のスタートアップ市場では、グロース市場(東証)でのIPOが主要なイグジット手段だが、近年のIPO後株価パフォーマンスの低迷や市場の評価基準の厳格化が課題となっている(関連記事:日本のIPO市場の復活と改革)。大型スタートアップが少なく、イグジットの選択肢が限られる中で、VCファンドの利回りは他の主要市場と比べて低水準にとどまっている [9]。

サブ論点2-2:トークン型資金調達の機能的優位性と固有のリスク

デジタルトークンによる資金調達が従来型エクイティと大きく異なる点は「流動性のタイミング」だ。上場前にトークンが二次流通市場で取引される場合、投資家はIPOを待たずにポジションを売却できる可能性がある。これはVC投資家にとってのロックアップ期間を短縮し、ファンドの資金効率を高める効果を持つ [3]。

スタートアップ側にとってのメリットも大きい。株式希薄化(ダイリューション)を最小化しながら資本を調達できること、プロジェクトの将来的なサービス利用権(ユーティリティ)をトークン化することでコミュニティとのアライメントを形成しやすいこと、さらには国内外の暗号資産投資家にリーチできることなどが挙げられる [2][3]。Web3プロジェクトにとっては特に、プロトコルのガバナンスや収益分配にトークンを用いる設計がビジネスモデルと整合しやすい。

ただし固有のリスクも大きい。トークン価格のボラティリティは株式を大幅に超える場合があり、調達資金の実質価値が大きく変動しうる。スマートコントラクトの技術的脆弱性・ハッキングリスクも考慮が必要だ。さらに、新制度下では独立した第三者機関によるコード監査が義務化される見通しであり [5]、コンプライアンスコストが増大する。

主要テーマ3:海外規制環境との比較

サブ論点3-1:シンガポールの「マネーアット・スケール」戦略

シンガポールの通貨金融局(MAS)は長年にわたりデジタルトークン規制の整備を進めており、現在はデジタルトークン・サービス・プロバイダー(DTSP)ライセンス制度のもとで交換業者・カストディ業者・ブローカーを規制している。スタートアップによるトークン発行については、セキュリティ性(証券性)のあるトークンは証券先物法(SFA)の適用を受け、開示・登録が求められる [10]。一方でユーティリティ・トークンの公開販売(パブリックICO)については規制が比較的柔軟であり、アジアのWeb3企業がシンガポールに集まる大きな誘因となっている。

シンガポールの強みは、規制の明確性と実績ある法執行体制、そして英語を共通語とする国際ビジネス環境だ。実質的な法人税率の低さ(一定の知的財産優遇スキームを利用すると実効5〜10%以下)、外国人専門家の就労環境の良さも相まって、日本のWeb3スタートアップが「第二の本拠地」として選択するケースが多い [10]。MASによるトークン発行の審査はFSAより迅速との評価もあるが、近年は審査厳格化の傾向が見られる。

サブ論点3-2:ドバイのVARA規制とゼロ税制の誘引力

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ仮想資産規制庁(VARA)は、2023年の創設以来、明快な「オプトイン型」ライセンス制度を設計・運用している [10]。VARUの主な特徴は、個人・法人ともに所得税がゼロである税制環境と、規制上の「自由区域(フリーゾーン)」を活用した柔軟な事業運営だ。ドバイはDAO(分散型自律組織)・トークン財団・大規模な仮想資産保有者の集積地となっており、グローバルなWeb3カンファレンス(TOKEN2049ドバイ等)の開催地としても確固たる地位を築いている [10]。

日本との最大の差異は「税制」だ。従来、日本では暗号資産の利益は雑所得として最大55%の総合課税が課せられており、これが海外への税務移住・法人移転の誘因となってきた [6]。2026年に実施が予定される改正では、暗号資産を金商法上の金融商品として扱うことに伴い、申告分離課税・20%税率の適用が検討されており、これが実現すれば株式投資と同じ税負担でデジタル資産に投資できるようになる [6]。

主要テーマ4:先行事例と国内エコシステムの変化

サブ論点4-1:国内初期事例と業界の反応

LPS法改正・金商法改正案の審議が進む中、国内ではいくつかの先行的な取り組みが進んでいる。ソフトバンク傘下のSBIホールディングスは、Startale Groupと連携して円ステーブルコインの開発を進めており、Web3エコシステムへの組織的な取り組みを加速させている [3]。また、フィンテック・Web3特化型のVCファンドが複数設立され、従来のVCがトークン投資機能を持つ新ファンドを設定する動きも見られる。

日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)は法改正を基本的に歓迎しつつも、トークンの評価基準・バリュエーション方法・報告様式の標準化が急務だとする意見を示している。会計監査上、未公開のトークンの公正価値測定には恣意性が伴うため、VC各社がファンドのNAV(純資産価値)算定に苦慮するケースが予想される [9]。企業会計基準委員会(ASBJ)は2025年度中に暗号資産の会計処理に関する改訂基準を公表する予定だが、VCポートフォリオへの適用指針はなお未確定だ。

サブ論点4-2:スタートアップ育成5カ年計画との連動

今回のトークン規制整備は、岸田・石破政権が掲げるスタートアップ育成5カ年計画のデジタル経済領域における核心的施策として位置づけられる [1]。計画では2027年度までのスタートアップ投資10倍(2022年度比)が目標値であり、現在の年間VC投資額約1兆円程度から10兆円規模への拡大が求められる(関連記事:日本のスタートアップとベンチャーキャピタル2026)。

従来のエクイティ投資だけではこの目標の達成が困難であることを政府も認識しており、トークンによる資金調達の合法的な仕組みの確立が「量的拡大」のための追加的な手段として期待されている。加えて、CBDCデジタル円の検討とデジタルトークン制度の整備は、日本のデジタル金融インフラの全体設計において相互補完的な関係にある(関連記事:日本のデジタル円CBDCロードマップ)。国内ブロックチェーンインフラの整備・利便性向上が進めば、トークン発行コストの低減とスケーラビリティ確保という実務上の課題も緩和されると期待されている。

注意点・展望

制度改正の効果が実際に現れるまでにはタイムラグが伴う。金商法改正案は2026年4月に内閣で承認されたが、国会審議・施行規則の策定・ガイドラインの整備を経て実際の制度運用が軌道に乗るのは2027年度以降になるとの見方が多い [5]。その間は、改正内容の詳細をめぐるFSAのパブリックコメント手続きや業界団体との協議が継続し、実務上のグレーゾーンが残存する見込みだ。

「ユーティリティ・トークン」と「セキュリティ・トークン」の境界をめぐるFSAの解釈は、今後の判例・行政指導の蓄積によって形成されていく。欧州のMiCA(暗号資産市場規制)が定める「資産参照型トークン」「電子マネートークン」の区分との整合性も、クロスボーダー取引が増える中で重要性を増す。日本が米国・欧州・シンガポールとの相互認証・同等性認定の枠組みを構築できるかどうかが、国内制度の国際競争力を左右する。

スタムト政府は暗号資産の20%申告分離課税化も同時に進める方向で検討が続いているが [6]、高い税収依存度から抜本的な税率引き下げへの政治的ハードルは依然高い。シンガポール・ドバイとのコスト比較において日本がなお不利な点は、制度の整備によって完全に解消されるわけではなく、優秀な人材や有望なプロジェクトの海外流出という課題は中長期的に残り続けるリスクがある。

まとめ

日本はLPS法・金商法の改正を通じて、スタートアップがVCファンドにデジタルトークンを売却して資金を調達する仕組みを国内で初めて合法化・制度化しようとしている [1][5]。従来型エクイティVC出資に比べてトークン型調達は流動性の早期確保と希薄化抑制という機能的優位性を持つが、価格変動リスク・技術的リスク・開示規制対応コストという固有の課題も抱える。

シンガポール・ドバイとの比較では、税制・審査速度・国際的な人材集積において日本はなお劣後するが、改正後の申告分離課税20%の実現と国内法制の明確化が進めば、国内市場でのトークン発行のメリットは確実に高まる [6][9]。制度の枠組みは整いつつあるが、実際の活用実績の積み上げと国際競争力の検証は、2027年度以降に持ち越された課題となっている。

Sources

  1. [1]Cabinet of Japan Approves Bill Encouraging Venture Capital Investment in Blockchain Startups | Winston & Strawn
  2. [2]Japan Moves to Allow Startups to Sell Digital Tokens to VC Funds | CoinNess Global
  3. [3]Japan to allow VCs to invest in startup web3 crypto tokens | Ledger Insights
  4. [4]Blockchain & Cryptocurrency Laws & Regulations 2026 | Japan | Global Legal Insights
  5. [5]Japan Advances Crypto Regulation Overhaul, Aligning Digital Assets With Traditional Financial Market Frameworks | Bitcoin.com News
  6. [6]Japan Plans 20% Crypto Tax and FIEA Oversight in 2026 | Finance Magnates
  7. [7]Japan Crypto Regulation 2026: FSA Rules Explained | Bitget Academy
  8. [8]Japan opens up Web3 investments for local VCs | The Digital Banker
  9. [9]Venture Capital 2025 - Japan | Chambers and Partners
  10. [10]Dubai vs Singapore: Which Is the Best Place for Crypto? | Analytics Insight

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