PEセカンダリー市場が急拡大する構造的背景と投資機会
LP持分の中途売却市場(セカンダリー)が2026年に過去最高の成約ボリュームを更新した。出口ドラフトに苦しむGP、流動性を求めるLP、そして参入するセカンダリーファンドの三つ巴の構図を解説する。

はじめに
プライベートエクイティ(PE)のセカンダリー市場が2026年に入り、歴史的な成約規模を記録しつつあるとされる [1]。セカンダリー市場とは、PEファンドの既存投資家(リミテッド・パートナー、LP)が保有する持分を第三者に中途売却する取引を指し、一次市場(プライマリー)とは区別される。2025年の世界全体の成約額は約1400億ドルに達したとされ、2026年上半期だけで800億ドル超の取引が成立したとの推計が示されているとされる [4]。
この急拡大の背後には、IPOやM&Aを通じた通常の出口(エグジット)が依然として低迷するなか、ゼネラル・パートナー(GP)もLPも「閉じ込められた流動性」を何らかの形で解放しなければならないという構造的な圧力があるとされる [2]。本稿では、セカンダリー市場の規模と成長メカニズム、市場参加者の動機、主要プレイヤーの実態、そして価格形成の論理を多角的に分析する。
PEセカンダリー市場の規模と成長速度
2025〜2026年の成約額推移
セカンダリー市場の成約額は過去10年で急速に拡大してきたとされる [4]。2015年時点の年間成約額は約400億ドル程度であったとされるが、2020年代に入ってからは市場規模が倍増し、2023年の約1100億ドル、2024年の約1300億ドルを経て、2025年には1400億ドルを超えたとされる [1]。2026年の通年見通しについても、Preqinを含む複数のデータプロバイダーが1600億〜1800億ドルのレンジを示しているとされる [4]。
成約額の増加を支える要因としては、第一に、世界的な低金利環境の終焉に伴いPE各社が抱えるポートフォリオ企業の売却が困難となり、通常のエグジットが滞っていることが挙げられる [3]。これにより、PE資産のロックアップ期間が想定より延長され、LPにとって分配金の受取が遅延している構図がある。第二に、機関投資家がポートフォリオ全体のリバランスを急ぐなかで、流動性の低いPE持分を早期に現金化するニーズが高まっているとされる [5]。第三に、GP主導型のセカンダリー取引(コンティニュエーション・ファンド)が急増しており、取引の多様化が市場全体を押し上げているとされる [2]。
LP主導型とGP主導型(コンティニュエーション・ファンド)の違い
セカンダリー取引には大きく二つの類型があるとされる。一つはLP主導型(LP-led)であり、既存LPが保有するファンド持分を市場参加者に売却するものである。LPが売却を希望する動機としては、ポートフォリオの過配分是正(オーバーアロケーション)、資金需要への対応、投資戦略の転換などが挙げられるとされる [5]。取引額では従来この類型が市場の大半を占めていたとされる。
もう一つはGP主導型(GP-led)であり、GPがファンドの存続期間を延長しながら有望なポートフォリオ企業をコンティニュエーション・ファンドに移管するものである [3]。GPにとっては優良資産をさらに長期保有できるメリットがある一方、既存LPには売却か継続保有かを選択する権利が付与されるとされる。2026年においてはGP主導型が成約額全体の約45〜50%を占めるまでに拡大したとされ、LP主導型と拮抗するほどの規模となっているとされる [4]。GPにとってはエグジット手段の多様化として、LPにとっては流動性確保手段として、それぞれ機能しているとされる [1]。
なお、コンティニュエーション・ファンドに関しては、PEの出口ドラフトとコンティニュエーション・ファンドの台頭に詳しい分析が示されているとされる。
なぜ今セカンダリーが求められるのか
IPO・M&A市場の低迷による出口ドラフト
2022年以降の急速な利上げ局面において、PE各社が保有するポートフォリオ企業の評価額は下押し圧力を受け、IPOや戦略的売却を通じたエグジットが大幅に減少したとされる [6]。Bloombergの集計によれば、2022〜2024年のPEによるエグジット件数は、2021年のピーク比で約40〜50%減少したとされる [1]。M&Aはファイナンシャルバイヤー・ストラテジックバイヤーともに買収コストの上昇と借入コストの増大により慎重姿勢が続いており、新規上場の選択肢も、マーケット環境の不安定さを背景に限定的にとどまっているとされる [2]。
この「出口ドラフト(exit drought)」状況下では、GPは多くのポートフォリオ企業を予定よりも長い期間保有し続けることを余儀なくされているとされる [3]。PE業界では一般に、ファンドの存続期間は10年程度とされているが、2018〜2020年に組成されたファンドが6〜8年を経過しながらも分配金を十分に出せていないケースが増加しているとされる [4]。この状況がLP側の不満を高め、セカンダリー売却を通じた資金回収への需要を喚起しているとされる [5]。
機関投資家のポートフォリオ・リバランス需要
世界の年金基金・財団・保険会社などの機関投資家は、2020〜2021年に株式市場が急騰した際に、株式比率のポートフォリオ全体に占める割合が急上昇し、相対的にPEを含むオルタナティブ投資への配分比率が「過大」になるという現象(denominator effect)が発生したとされる [5]。この状況は、株式市場が2022年に調整したことで一部緩和されたとされるが、依然として多くの機関投資家がオルタナ配分の実態配分比率が目標比率を上回った状態にあるとされる [6]。
年金基金がPE配分の管理に苦慮している事例は国際的に増加しているとされ、とりわけカナダ・オランダ・北欧などの大手年金が、一部PE持分のセカンダリー売却を通じた配分調整を検討・実施しているとの報道が相次いでいるとされる [1][2]。ILPAが2025年に実施したサーベイでは、回答したLPの約35%が「今後12ヵ月以内にセカンダリー売却を検討する」と回答したとされる [5]。
セカンダリーファンドの主要プレイヤー
Blackstone・Ardian・Lexington Partners等の規模
セカンダリー市場は一握りの専業・準専業プレイヤーが市場の大半を占める寡占的な構造にあるとされる [3]。最大手の一角をなすのがBlackstonのストラテジック・パートナーズ部門であり、2024〜2026年にかけて複数の大型ファンドのクロージングを通じて運用資産を800億ドル超に拡大したとされる [1]。フランスのArdianは、セカンダリーと共同投資を組み合わせたストラテジーにより欧州最大級のセカンダリーファンドを運営するとされ、2025年の旗艦ファンドのファンドレイズは300億ドル規模に達したとされる [3]。
Lexington Partners(フランクリン・テンプルトンが2022年に買収)は、実績ある老舗セカンダリー専業ファンドとして機関投資家から高い支持を集めているとされる [4]。Hamilton Lane、Partners Group、Harbourvestなども大規模なセカンダリー戦略を展開しているとされる。一方、ゴールドマン・サックス・アルタナ、KKR、カーライルなどの総合PE大手もセカンダリー部門を強化しており、専業プレイヤーとの競合が激化しているとされる [2]。
市場参加者の裾野は広がりつつあるものの、トップ10プレイヤーが市場全体の70〜75%の成約額を占めているとの推計があり、規模の経済と情報優位を背景とした集中度の高さが維持されているとされる [4]。
日本からの参加動向
日本の機関投資家・金融機関にとって、PEセカンダリー市場は近年注目度が高まっている分野とされる [2]。日本生命、第一生命、野村アセットマネジメント、三菱UFJフィナンシャル・グループなどが、セカンダリーファンドへの出資を通じた間接的な市場参加を拡大しているとの報道があるとされる [1]。また、日本政策投資銀行(DBJ)は、国内PE市場の流動性向上を目的としたセカンダリー機能の整備に関する研究を進めているとされる。
日本のプライベートエクイティ市場の拡大との関連では、国内GPのファンド組成が増加するに伴い、日本版セカンダリー市場の整備が急務となっているとの指摘が相次いでいるとされる。日本では欧米と比較してセカンダリー取引のインフラや情報開示の仕組みが未整備な部分も多いとされるが、GPとLPの双方の関心の高まりを受けてブローカー・バンクを含むエコシステムの形成が緒に就きつつあるとされる [5]。
ディスカウント率と価格形成メカニズム
2024〜2026年の平均取引ディスカウント推移
セカンダリー取引における価格は、対象ファンドが報告するNAV(純資産価値)に対してどの程度のディスカウント(割引)またはプレミアムで取引されるかで示されるとされる [4]。Preqinの集計によれば、2022年後半の金融市場混乱期には、多くのLP持分がNAVに対して15〜30%ディスカウントで取引されていたとされる [4]。その後、2024年にかけてディスカウント幅は徐々に縮小し、一部の高品質ポートフォリオではNAVとほぼパリティ(等価)に近い水準での取引も出現したとされる [3]。
2025〜2026年にかけては、LP主導型取引のディスカウントが平均5〜10%程度に縮小した一方、GP主導型取引は資産の品質に応じてNAV比ほぼパー(等価)からプレミアムまで幅広い価格分布を示しているとされる [1][4]。これは、コンティニュエーション・ファンドに移管される資産は既にGPが「保有継続に値する」と判断した優良資産であることが多く、購入者側もその品質を評価しているためとされる [2]。
NAV評価と実勢価格のギャップ
セカンダリー取引における価格形成を複雑にする要因の一つが、PE各社が報告するNAVの算定方法に統一基準がないことであるとされる [5]。GPは原則として四半期ごとにポートフォリオ企業の価値評価を行うとされるが、その方法論(類似会社倍率、DCFなど)や前提(EBITDA倍率の設定水準など)が各社で異なるとされる [6]。このため、公式に報告されるNAVと市場参加者が合理的に見積もる「実態価値」の間にはしばしば乖離が生じるとされる。
特に、2021〜2022年のPE評価が高水準にあった時期に組成されたファンドについては、報告NAVが実態を上回っている可能性をセカンダリーバイヤーが懸念するケースもあるとされる [3]。この価格発見(price discovery)の問題に対応するため、デューデリジェンス能力とポートフォリオ分析力を持つ専業ファンドが競争上の優位性を発揮しているとされる [4]。ILPAはNAV算定における透明性向上のためのガイドラインを整備しており、GPの開示水準の引き上げを働きかけているとされる [5]。
また、プライベートクレジット市場の拡大との関連では、NAVローン(NAVを担保とした融資)の普及がセカンダリー取引に代替的な流動性手段を提供することで、市場の価格形成に影響を与えるとの見方もあるとされる [6]。
注意点・展望
セカンダリー市場の急拡大にはいくつかの留意点があるとされる。第一に、市場の拡大が必ずしも価格水準の公正性を保証するわけではなく、情報の非対称性や評価の不透明性が投資家にとってリスクとなりうるとされる [3]。特に、GP主導型取引においては、GPが売り手(既存LP)と買い手(新規LP)の双方に対して忠実義務を負うという利益相反が内在しており、独立した価格評価やLP委員会の関与が重要とされている [5]。
第二に、セカンダリー取引の増加がPE市場全体の「流動性の錯覚」をもたらすリスクがあるとの指摘もあるとされる [6]。セカンダリー市場での売却が可能になることで、PEへの資金流入が実態以上に促進され、最終的には市場全体の価格水準が過熱するという懸念である。第三に、セカンダリー専業ファンドへの資金流入が急増するなか、優良なディールフローの競合が激化し、バイヤーにとってのリターン期待が低下するリスクも指摘されているとされる [4]。
展望としては、GPとLPの双方の構造的なニーズが継続するかぎり、セカンダリー市場の拡大傾向は2027〜2028年にかけても継続すると見込まれるとされる [1]。テクノロジーの活用によるデューデリジェンスの効率化、オンラインマーケットプレイスの台頭、そして日本を含むアジア市場での新規参加者の増加が、市場の厚みと透明性を高める方向に作用するとされる [2][4]。
まとめ
PEセカンダリー市場は、出口ドラフトの長期化とLPの流動性需要を背景に、2026年に過去最高の成約規模に達しつつあるとされる [1][4]。LP主導型とGP主導型(コンティニュエーション・ファンド)のそれぞれが異なる経済的動機のもとで拡大しており、Blackstone・Ardian・Lexington Partnersなどの専業プレイヤーが市場の大半を牛耳る寡占構造が維持されているとされる [3]。ディスカウント率はピーク時から縮小しているとされるが、NAV評価と実勢価格のギャップという価格形成上の課題は依然として残存するとされる [4][5]。日本からの参加も緒に就きつつあり、PE市場全体の成熟化とともに、セカンダリーが不可欠な流動性インフラとして確立されていくとみられるとされる [2]。
Sources
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