国際

米州「対麻薬連合」17カ国はなぜ集まったか — 軍事化する中南米政策の1年

マドゥロ拘束から2026年3月の「シールド・オブ・アメリカズ」サミットまで、米国が主導する対麻薬カルテル軍事連合の形成過程を時系列で追い、メキシコ・ブラジル不参加の意味を読み解く。

Newscoda 編集部

背景

出発点となった状況

2025年に入り、トランプ政権は中南米の麻薬密輸組織を単なる犯罪集団ではなく、安全保障上の「敵」として扱う姿勢を強めた。政権は2025年2月までに主要な犯罪組織8団体を外国テロ組織(FTO)に指定し、10月にはこれら組織との間に「武力紛争」状態にあるとの立場を宣言したとされる[1]。テロ組織指定は本来アルカイダやISのような政治目的の暴力集団に用いられる枠組みであり、営利目的の犯罪組織への適用は法的・国際法上の議論を呼んでいる[1]。

この動きの直接の標的とされたのが、ベネズエラのニコラス・マドゥロ政権だった。米国は同政権が「カルテル・デ・ロス・ソレス」を通じて麻薬密輸に関与していると主張し、政権そのものを対麻薬政策のターゲットに位置づけた。この枠組み設定が、後に一国の指導者拘束という異例の展開につながる出発点になった。

構造的な前提

この転換の根底には、麻薬密輸を法執行(law enforcement)の問題ではなく軍事(military)の問題として扱うという政権の一貫した方針がある。トランプ大統領は後のサミットで「これらの敵を打倒する唯一の方法は、我々の軍事力を解き放つことだ」と述べており、法執行機関ではなく軍を前面に出す発想がこの1年の政策全体を貫いている[3]。国際法の専門家は、政権が用いる「武力紛争」という用語について、誰を戦闘員とみなすかの裁量が大統領にほぼ全面的に委ねられる点を問題視しており、米国憲法の定める権限分立に抵触しうるとの指摘も出ている[1]。

この方針転換は、単発の政策変更ではなく、複数の制度・外交ツールを組み合わせた包括的なキャンペーンとして進められた点に特徴がある。テロ組織指定という法的枠組み、関税という経済的圧力、同盟国指定という外交的な取り込み、そして直接の軍事作戦という4つの手段が、同時並行かつ相互補完的に用いられてきた。

2025年8月〜11月: 第1局面

2025年8月、カリブ海に4000人超の海兵隊員・水兵が展開された[2]。同時期にトランプ大統領は秘密裏の指令に署名し、国防総省に選定した中南米の麻薬カルテルへの軍事力行使を認めたとされる[1]。この年の米軍増派規模は約1万5000人に達し、爆撃機・無人機・空母・強襲揚陸艦を投入する、冷戦後この地域で最大級の軍事展開になったと評価されている[1]。

9月から10月にかけて、米軍はカリブ海・太平洋で麻薬を輸送しているとみなした小型船舶に対し、20回を超える殺傷力を伴う攻撃を実施した[1]。この攻撃を巡っては、国防総省当局者が攻撃前に対象がカルテル関係者であるという積極的な身元確認を必要としていないと指摘されるなど、対象特定の手続きに批判が向けられている[1]。9月にはコロンビアが対麻薬協力国としての「認定」を米国から取り消され、ペトロ大統領が米軍の攻撃に抗議したことを受けて関税が課された[2]。

11月13日には国防長官ピート・ヘグセス氏が「対麻薬テロ作戦」として「オペレーション・サザン・スピア」を正式発表した。この作戦名自体は2025年1月に海軍が無人・自律システムを用いた海上任務として導入していたもので、11月の発表はこれを対カルテル軍事作戦全体の正式名称に格上げする形をとった[1]。11月24日にはマドゥロ政権とのつながりが指摘される「カルテル・デ・ロス・ソレス」がFTOに指定され、11月26日にはドミニカ共和国が米軍の基地使用を認める協定に合意、トリニダード・トバゴには米軍のレーダー設備が設置されるなど、周辺国を巻き込んだ軍事インフラの整備も並行して進んだ[2]。

2025年12月〜2026年1月: 第2局面

12月に入ると、軍事・制度両面での動きが加速した。12月12日にはペルーが米国の「主要な非NATO同盟国」に指定され、12月16日には制裁対象のベネズエラ産原油タンカーを対象にした全面的な海上封鎖が実施されたほか、コロンビアの「クラン・デル・ゴルフォ」もFTOに指定された[2]。同じく12月には南方軍(サウスコム)が陸軍フォーセズコマンドと統合され、「米陸軍西半球コマンド」として再編されている[2]。フェンタニルを「大量破壊兵器」に指定する動きも12月15日に発表された[2]。

そして2026年1月3日未明、米軍はベネズエラの首都カラカス周辺で「オペレーション・アブソリュート・リゾルブ」と名付けた大規模な軍事作戦を実施し、マドゥロ大統領と妻のシリア・フローレス氏を拘束したと発表した。両氏はニューヨークに移送され、麻薬テロ・コカイン密輸共謀・機関銃不法所持の罪で起訴されている。この一連の経緯を通じて、1年に満たない期間で「秘密指令」から「一国の指導者の拘束」まで到達したことになる。ベネズエラ政権転換後の経済的余波はベネズエラの半年 — 政権転換から石油利権再編で扱った通り、原油収入とインフレの両面に及んでいる。

2026年3月: 第3局面

マドゥロ拘束から2か月後の3月7日、フロリダ州ドラルで「シールド・オブ・アメリカズ」サミットが開かれ、トランプ大統領は「米州対麻薬連合」の発足を宣言した。少なくとも17カ国がこの枠組みに署名したとされ、アルゼンチンのミレイ大統領、エルサルバドルのブケレ大統領、ボリビアのパス大統領、チリのカスト大統領のほか、コスタリカ・ドミニカ共和国・エクアドル・ホンジュラス・ガイアナ・パナマ・パラグアイ・トリニダード・トバゴの首脳が参加した[3][4][5]。トランプ大統領は「我々の合意の核心は、この邪悪なカルテルとテロネットワークを完全に破壊するために殺傷力のある軍事力を用いるという約束だ」と述べ、カルテルを「がんだ、広がってほしくない」と表現した[3]。あわせて、西半球での米国の優位を維持するとする「ドンロー・ドクトリン」(モンロー・ドクトリンをもじった造語)も打ち出された[3]。

一方でこの連合には、左派政権が率いるメキシコとブラジルの名前がない[3]。両国は北米・南米それぞれの経済規模で中南米の中心的存在であり、この2カ国の不参加は、連合が「政治的に足並みの揃う国々」に限定された枠組みであることを示している。参加した17カ国の多くは、トランプ政権と個別に経済・安全保障面での関係強化を進めてきた国々でもあり、連合参加が単なる安全保障協力にとどまらず、対米関係全体のバロメーターとしての意味合いを帯びている点も見逃せない。

直近の動き

軍事作戦と並行して、経済面での摩擦も広がっている。コロンビアに対しては認定取り消しに続き関税が課され、原油(コロンビアの対米輸出で最大品目、2022年時点で約60億ドル)・コーヒー(約18億ドル)・切り花(約16億ドル)といった主要輸出品が対象になった。対米輸出は最大8%程度、金額にして約11億ドル減少し、2026年末までに最大1万5000人分の雇用が失われるとの試算も示されている[6]。切り花については追加関税により、供給網全体で年間2億ドル超のコスト増につながるとの見方もある[6]。

外交面でも緊張が続く。トランプ政権はホンジュラスの元大統領フアン・オルランド・エルナンデス氏(麻薬密輸業者からの収賄と麻薬出荷への関与で有罪判決を受けていた人物)を恩赦しており、対麻薬を掲げる政策方針との矛盾を野党議員から指摘されている[2]。またエルサルバドルのブケレ大統領のように、既に自国内でギャング掃討のため強硬な取り締まりを実施してきた首脳もおり、人権団体からは市民的自由の停止や公正な裁判なしの拘束への懸念が指摘されている[3]。中南米域内の経済連携という観点では、メキシコ以南のニアショアリング・フロンティアでも扱ったように、対米輸出網の再編が既に進行しており、今回の関税措置はその動きにさらなる不確実性を加える形になっている。

今後の展望

「米州対麻薬連合」が今後どこまで実効性を持つかは、参加国の軍の実働能力と、米国が期待する規模の軍事協力を各国がどこまで負担できるかにかかっている。ミレイ・ブケレ・カストといった参加首脳の多くは、トランプ政権と政治的に近い立場をとってきた指導者であり、連合の結束力は政権交代のたびに揺らぐ可能性がある。参加国の多くは軍事予算・実働部隊の規模で米国に大きく依存しており、連合が名目上の政治的表明にとどまるか、実際の合同作戦にまで発展するかは今後の焦点になる。

またメキシコ・ブラジル不参加という構図が固定化すれば、中南米は「連合参加国」と「不参加の大国」に分かれる形で地域秩序が再編されるおそれもある。両国が最終的に何らかの形で協力枠組みに引き込まれるのか、あるいは独自の地域連携を強めて対抗するのかは、今後の中南米外交を見るうえで重要な分岐点になる。トランプ大統領はメキシコに対しても対カルテル取り締まりの強化を強く求めており、「メキシコ当局とカルテルの容認しがたい同盟関係」という表現で圧力を強めているとされる[2]。ベネズエラの石油利権を巡る主要国(米国・メキシコ・ブラジル)の思惑の違いは、ペメックスとペトロブラスが手を組む理由で扱ったメキシコ湾深海油田を巡る新同盟とも絡み合っており、今後の資源外交にも波及するとみられる。

Newscoda の見方

本サイトとして注目するのは、今回の連合形成が「麻薬対策」という名目を超えて、中南米における米国の影響圏を再構築する地政学的な枠組みへと転化しつつある点だ。テロ組織指定や「武力紛争」宣言という法的手段が、対象の特定手続きを省略しながら軍事力行使の裁量を拡大する方向で使われている構図は、対麻薬政策の枠を超えた含意を持つ。

多くの報道は軍事作戦の是非やマドゥロ拘束という劇的な展開に焦点を当てがちだが、Newscodaとしては、メキシコ・ブラジルという二大国が連合の枠外に置かれたことの方が、中長期的な地域秩序の分断を占ううえでより重要な変数になると考える。安全保障の枠組みが政治的な陣営分けと重なり合う形で進めば、中南米域内の経済統合や通商交渉にも波及し、企業のサプライチェーン戦略にとっての地政学リスクの評価軸そのものが変わりうる。

今後6-12か月で観察すべき変数:

  • 17カ国連合が実際の合同軍事作戦や部隊派遣に踏み出すかどうか
  • メキシコ・ブラジルが連合への参加を求められる圧力にどう応じるか
  • コロンビアへの関税措置が同国のGDP・雇用に与える実際の影響の規模
  • ベネズエラの石油生産・輸出体制が拘束後の政治体制の下でどう再編されるか

まとめ

トランプ政権による中南米の対麻薬政策は、2025年8月の秘密指令から始まり、テロ組織指定・小型船舶への攻撃・マドゥロ拘束を経て、2026年3月の17カ国連合発足へと1年足らずで一気に軍事化・制度化が進んだ。この過程で法執行から軍事対応への転換が図られる一方、メキシコ・ブラジルという二大国は枠組みの外にとどまっている。

コロンビアへの関税措置に象徴されるように、安全保障政策の余波は域内の貿易・雇用にも及んでおり、対麻薬という名目の政策が経済関係の再編にまで波及している点は、日本企業にとっても中南米事業のカントリーリスク評価で無視できない要素になりつつある。連合の実効性と地域の分断リスクの両方が、今後の中南米情勢を読み解くうえでの焦点になる。

Sources

  1. [1]Operation Southern Spear: The U.S. Military Campaign Targeting Venezuela and Nicolás Maduro — Council on Foreign Relations
  2. [2]Tracking Trump and Latin America: Security — Americas Society/Council of the Americas
  3. [3]'They're cancer': Trump threatens cartels, Cuba at Latin American summit — Al Jazeera
  4. [4]Trump encourages Latin American leaders to use military action to help US fight cartels — Military Times
  5. [5]Trump announces military coalition to take on cartels in Latin America — UPI
  6. [6]Coffee, crude oil, cut flowers: The Colombian goods you may be paying more for under Trump's tariffs — NBC News

関連記事

最新記事