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米国リテールの構造転換——百貨店・モール閉鎖とオムニチャネル再設計

年間8,000件超の店舗閉鎖が進む米国小売業。Macy's・Walmart・Amazon・Targetの戦略差異と、AIを活用したオムニチャネル再設計の実態を解説する。

Newscoda 編集部
エスカレーターと吹き抜けが特徴的な大型ショッピングモールの内部空間

はじめに

2025年、米国では年間8,234店舗が永続閉鎖し、過去最多の記録を更新した。前年の7,325件を上回るこの数値は、単なる景気後退に伴う一時的な調整ではなく、構造的な流通業の転換が不可逆的に進行していることを示す。百貨店チェーン・専門店・ドラッグストア・ファストフードが閉鎖の主役を演じるなか、UBSのアナリストは今後5年間でさらに4万店超が閉鎖する可能性があると試算している。電子商取引の成熟、AIを活用したパーソナライゼーション、人口動態の変化、関税圧力が重層的に作用し、「リテールアポカリプス」(小売業の黙示録)という言葉が再び現実感を持ち始めている。

この激動のなかで、大手小売チェーンの戦略は三つの方向に分岐している。第一は「選択と集中」——Macy'sが体現する、不採算店を閉鎖し残存店舗を高度化するモデル。第二は「フルスタック・オムニチャネル」——WalmartとTargetが追求する、物理店舗・EC・フルフィルメント・AIを統合したハイブリッド小売。第三は「テクノロジープラットフォーム化」——Amazonが志向する、物理小売からの撤退と配送・テック基盤の強化という方向性である。米国消費者支出と関税ショックへの耐性が示すように、関税上昇と消費者マインドの慎重化が2026年もリテール業界の逆風として作用する見通しであり、各社の戦略選択の成否が一層厳しく問われる局面にある。

百貨店・モール閉鎖の構造的背景

中価格帯百貨店の地位喪失

Macy'sは2024年に「Bold New Chapter(大胆な新章)」戦略を発表し、2026年末までに約150の不採算店舗を閉鎖する計画を公表した。2024年に55店、2025年に66店を閉鎖した後、2026年にはさらに14店の閉鎖が予定されており、最終的に350店の「ゴーフォワード(存続)店舗」に事業を集約する。この再編は「規模の合理化」に留まらず、米国百貨店業態が直面するビジネスモデルの根本的な問い直しを意味する。

Macy'sが閉鎖する店舗の多くはミッドティア(中価格帯)のショッピングモールに立地するものである。こうしたモールは、かつてSears・JCPenney・Nordstromなどの百貨店をアンカーテナント(集客核)として成立していたが、アンカー撤退による集客力の低下がさらなるテナント離脱を招く「デパート撤退の連鎖効果」が全国規模で観察される。UBSが試算する「5年間で4万店閉鎖」の大部分は、こうしたモール周辺型テナントが占めると見られる。

生き残る「体験型」店舗への転換

一方、Macy'sが選択的に投資を集中する「First 50」プログラム(現在は「Reimagine 125」に拡張)に含まれる旗艦店は、3四半期連続の既存店売上増(2025年第3四半期は前年比+2.7%)という好結果を示している。改装された旗艦店は商品ディスプレイの刷新、デジタルサイネージ、顧客体験を重視したイベント空間の設置、AIを用いたパーソナライズ推奨機能の導入によって差別化を図っている。顧客満足度スコアはMacy'sブランド史上最高水準に達したとされ、「体験消費」へのシフトが物理店舗の残存価値を規定するという業界論の実証事例となっている。

Walmartのフルスタック・オムニチャネル戦略

AIファーストの商品管理と購買体験

Walmartは2025〜2026年にかけて最も積極的なAI投資を実施している大手小売企業の一つとして注目されている。2025年10月、WalmartはOpenAIとの提携を発表し、ChatGPT上でWalmart商品の検索・購入を可能にする「エンベデッドコマース」機能を導入した。翌2026年1月にはGoogleのGeminiとの提携でAI支援型ショッピングをさらに拡張した。Bloomberg報道によれば、WalmartのダニエルD・ダンカーEVP(AI加速・製品設計担当)はCES 2026においてAIが店舗・倉庫の業務効率化に果たす役割を詳述した。

商品管理面では、AIによる需要予測・自動補充・価格最適化が全社規模で展開されており、マーチャンダイジングチームの組織再編(2025年10月発表)によって、データ・AI主導の商品選定プロセスへの移行が加速している。店舗内ではスキャン&ゴー機能の利用率が継続的に上昇しており、レジ待ち時間の短縮と非接触決済の普及が消費者体験を変えている。

フルフィルメントネットワークの強化

Walmartのオムニチャネル戦略の核心は、4,700店超の実店舗を「フルフィルメントハブ」として機能させる点にある。BOPIS(オンライン購入・店頭受取)、カーブサイドピックアップ、当日配送のすべてを既存店舗網から展開できることが、Amazonに対する物流上の競争優位となっている。Walmart+(月額会員サービス)の会員数は拡大を続け、食料品・日用品のリピート購買層を囲い込む機能を果たしている。

Targetの選択的統合戦略

選択的規模と差別化商品

Targetは2025〜2026年の市場環境において、Walmartほど積極的な店舗展開はしていないが、選択的な「スモールフォーマット店舗」(都市型コンパクト店)の拡張と既存店舗の改装に注力している。トレンドに敏感な自社ブランド(オウンブランド)の商品開発と、デザイン性の高い家電・生活雑貨・衣料品の品揃えによって「お値打ち感のある洗練」というポジショニングを維持してきた。

TargetとUlta Beautyの「ショップ・イン・ショップ(店内店舗)」提携は2026年8月に終了することが決定した。約600店舗で展開されてきたこの提携は、Targetへの来店頻度向上とUltaへの新規顧客誘導という相乗効果をもたらしてきたが、UltaがEC強化と直営モデルへのシフトを優先する決断を下したとされる。このような「コラボリテール」モデルの再評価は、物理店舗の実験的機能——新しい消費者体験を試す場——が収益化に直結しにくい現実を示している。

デジタルパーソナライゼーションへの投資

TargetのCircleロイヤルティプログラムは会員数1億人超を抱え、購買履歴・位置情報・ウィッシュリストデータを活用したパーソナライズオファーの精度向上に継続的に投資している。AI推奨エンジンによる「次に買うべきもの」の提示は、アプリ経由の注文転換率(コンバージョン率)の向上に貢献しているとされる。ただし、米国消費者負債と関税圧力下の家計ストレスが示す通り、2025〜2026年の消費者心理の慎重化はTargetの中価格帯商品の需要にも重石となっており、2025年の既存店売上は一部四半期でマイナスに転じた。

Amazonのリテール戦略の転換

物理小売からの撤退と技術事業化

Amazonは2026年1月、Amazon Goとほとんどのフレッシュストアの閉鎖方針を発表した。「Just Walk Out」(レジなし決済技術)は自社の大型フォーマット店舗では採算が取れないと判断し撤退したが、空港・スタジアム・大学・病院など他社施設向けのライセンス提供では世界200施設超に展開して急成長している。

この転換は「物理小売の直接運営をあきらめ、物流と技術プラットフォームで勝負する」というAmazonのコアコンピタンスへの回帰を示す。Whole Foods(550店舗、2017年買収)は維持・拡大方針が継続されているが、2026年末までにWhole Foods本社スタッフをAmazon中央組織に統合する計画が進んでいる。一方、生鮮食料品の即日配送サービスは2024年末の約1,000都市から2025年末には2,300都市超にカバレッジを拡大しており、物理店舗を持たない「配送型食料品プラットフォーム」としての地位を確立しつつある。

AIエージェントとパーソナライゼーションの最前線

Amazonのパーソナライゼーション技術は依然として業界の最高水準にある。購買履歴・閲覧行動・会員ステータス・地理情報を統合したレコメンデーションエンジンは、Amazonのコンバージョン率の高さの核心を担う。AIエージェントとナレッジワークの再編で詳述されているように、AIエージェントが消費者に代わって商品を選択・注文する「エージェンティック・コマース」の実験段階に入っており、Amazon は Alexa をこのエコシステムの中心に位置づけている。

リテール不動産と空店舗問題

モールの再開発とリパーパシング

アンカーテナントの撤退と中規模店舗の閉鎖が進むなか、商業不動産市場では空き店舗の「リパーパシング(目的転換)」が喫緊の課題となっている。倉庫・配送センター、医療クリニック、エンターテインメント施設(ゴーカート・クライミング)、教育機関、データセンターへの転用事例が全米各地で報告されている。モールの大家(リート)であるSimon Property GroupやMacerich Companyは、物理小売のトラフィック減少を補う形で住居・ホテル・ワークスペースとの複合開発に移行しつつある。

この「モールの再生」戦略が成功するかどうかは地域の人口動態・商圏規模・自治体の規制に大きく依存する。郊外・地方都市の中規模モールが空洞化する一方、大都市圏の旗艦型モール(NikeTownやApple Storeのような体験型テナントを誘致できるロケーション)は相対的な安定を保っている。

注意点・展望

米国リテールの構造転換は、2026年以降も継続すると見られる。主要なリスクとして、追加関税による輸入商品コストの上昇が小売マージンをさらに圧縮する可能性、消費者の節約志向の定着による中価格帯ブランドの需要低迷、地方・非都市部での小売空白地帯(フードデザート)の拡大が挙げられる。一方、AIを活用した在庫最適化・需要予測・パーソナライゼーションの精度向上は、生産性向上による業績改善の可能性を提供する。

2026〜2027年のウォッチポイントは、Macy'sの「First 50/Reimagine 125」戦略の旗艦店業績、WalmartのAI&オートメーション投資の費用対効果、AmazonのJust Walk Outライセンスビジネスのスケーラビリティ、そして空きモールの再開発プロジェクトの進捗である。

まとめ

米国リテールは2025〜2026年に歴史的な店舗閉鎖の波を経験しており、年間8,000件超という数値はモデルの転換が一過性でないことを物語る。百貨店・ミッドティアモールの衰退は避けられない趨勢であるが、生き残る企業は「体験型旗艦店」「フルスタック・オムニチャネル物流」「AIパーソナライゼーション」のいずれかあるいは組み合わせによって差別化を図っている。

Walmartは店舗数・物流ネットワーク・AIへの大規模投資でフルスタック・オムニチャネルのリーダーに浮上し、AmazonはEC・配送・技術プラットフォームへの集中回帰で物理小売事業者との直接競争を回避するという逆説的な戦略をとる。Macy'sは「選択と集中」による生き残りを賭け、Targetは差別化品揃えとロイヤルティプログラムで中間市場での位置を守る。米国リテールの未来は、店舗数の多さではなく「消費者体験の価値と物流の効率」によって決定される時代に入っている。

Sources

  1. [1]Macy's, Inc. Confirms Planned Macy's Store Closures - Macy's IR
  2. [2]Macy's targets another 14 stores for closure - Retail Dive
  3. [3]Walmart Reshuffles Key Merchandising Team Amid AI Integration - Bloomberg
  4. [4]Walmart Teams With Alphabet for AI-Assisted Shopping on Gemini - Bloomberg
  5. [5]Walmart Partners With OpenAI to Offer Shopping on ChatGPT - Bloomberg
  6. [6]Amazon is closing its futuristic Go and Fresh stores - Fortune
  7. [7]US Store Closures Predicted to More Than Double in 2025 - Newsweek
  8. [8]The Great Retail Reset: Navigating 2026 Store Closures - GetVMS
  9. [9]Macy's closures signal a deeper shift in American retail - Retail Merchandiser

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