経済

身元保証を誰が担うのか — 改正社会福祉法と社協の人材不足という矛盾

改正社会福祉法により社会福祉協議会が身寄りのない高齢者の入院手続きや死後事務を担う制度が創設された。単身高齢世帯の急増、規制なき民間身元保証市場の実態、担い手である社協の人材・財源不足という構造的な課題を整理する。

Newscoda 編集部

はじめに

身寄りのない高齢者が入院や介護施設への入所の際に必要な手続き、さらに死後の葬儀や納骨、家財処分までを、社会福祉協議会などが公的な福祉サービスとして担えるようにする改正社会福祉法が成立した。これまで家族や親族が担ってきた「身元保証」の機能が単身高齢世帯の急増によって空洞化し、現場のケアマネジャーが法定外の無報酬業務として肩代わりしてきた実態に、制度上の受け皿を用意する試みである[1]。

もっとも、この改正は「誰が入院手続きや死後事務を担うか」という制度の枠組みを整えたにとどまり、実際にその担い手となる社会福祉協議会が人材と財源の両面で厳しい制約を抱えている点は解決していない。加えて、資力のある高齢者を対象にすでに数百規模で存在する民間の身元保証事業者は、監督官庁も統一的な規制もないまま市場を形成してきた[2]。本稿では、単身高齢世帯という人口構造の変化を出発点に、改正法が新設する事業の設計、民間市場の実態、そして制度の担い手である社協が直面する人材・財源上の制約という三つの角度から、この改革がはらむ構造的な課題を整理する。

単身高齢世帯という人口構造の変化

独居率上昇の実数

国立社会保障・人口問題研究所の令和6年推計によれば、世帯主が65歳以上の一般世帯に占める単独世帯の割合は、2020年の35.2%から2050年には45.1%へと上昇する見通しである。65歳以上人口に占める独居率でみても、2020年時点で男性16.4%・女性23.6%であったものが、2050年には男性26.1%・女性29.3%まで上がると推計されている。とりわけ男性の独居率は過去の未婚率上昇を反映して急激に伸びる見通しであり、65歳以上単独世帯に占める未婚者の割合も2020年の男性33.7%・女性11.9%から今後一貫して上昇するとされる[5]。世帯数でみれば、65歳以上の単独世帯は2020年の738万世帯から2050年には1,084万世帯へと1.47倍に増える計算になる[5]。

厚生労働省が国会審議向けにまとめた資料でも、単身高齢世帯は2020年の738万世帯(13.2%)から2040年には1,041万世帯(18.6%)に増加すると見込まれており、地域住民同士の互助機能が血縁・地縁・社縁の希薄化によって低下していることが、今回の法改正の出発点として位置付けられている[1]。

家族類型別に将来の世帯数を比較すると、世帯主が65歳以上の世帯のうち2050年にかけて増加するのは「単独世帯」(1.47倍)、「ひとり親と子から成る世帯」(1.12倍)、「夫婦と子から成る世帯」(1.01倍)の3類型であり、「夫婦のみの世帯」や「その他の一般世帯」はむしろ減少する見通しである。年齢が上がるほど単独世帯の伸び率は一段と大きくなり、世帯主が85歳以上の世帯では単独世帯が1.88倍に増えると推計されている[5]。生活支援や看取りのニーズが高い後期高齢期ほど、一人暮らしという生活形態が拡大していく構図がここから読み取れる。

血縁・地縁が薄れた先に生じる「シャドーワーク」

単身高齢者が増える一方で、病院への入院や介護施設への入所時に求められる身元保証、緊急連絡先の提供、医療費の支払い、そして死後の葬儀・納骨・家財処分といった事務は、従来家族や親族が担ってきた領域である。頼れる身寄りがいない場合、これらの対応を居宅介護支援事業所のケアマネジャーがやむを得ず法定外の業務として引き受けてきた実態があり、厚労省の資料はこれを「シャドーワーク」と表現している[1]。制度上の位置付けがないまま現場の善意に依存してきた構造が、今回の法改正の直接的な問題意識となっている。

改正社会福祉法が新設する枠組み

第二種社会福祉事業としての制度設計

改正法は、頼れる身寄りがいない高齢者等および判断能力が不十分な者を対象に、日常生活支援・入院等の手続支援・死後事務の支援を提供する事業を「福祉サービス・保健医療サービス等利用援助事業」として第二種社会福祉事業に位置付けた。具体的な事業内容は、日常的金銭管理や書類の預かりといった日常生活支援、入退院・入退所の手続支援や緊急連絡先の提供・費用の支払代行を行う入院入所等手続支援、そして葬儀・納骨・家財処分の契約手続支援や行政官庁への届出を行う死後事務支援の三つに整理されている。資力の要件に該当する利用者については無料または低額の料金で提供することが求められる仕組みである[1]。

厚労省の資料は、いわゆる「高齢者等終身サポート事業」がこうした生活課題への対応策の一つとしてすでに存在するものの、一定の費用負担が前提となるため資力が十分でない者が利用できる公的な受け皿が必要だとしており、民間サービスと公的事業を役割分担させる発想が制度設計の根底にある[1]。死後事務支援に含まれる家財処分の手続きは、相続人が特定できない住宅が空き家として放置される問題とも接点があり、空き家900万戸の岐路で扱った住宅ストックの余剰問題とも無関係ではない。

施行スケジュールと成年後見制度との接続

改正法の施行期日は原則として2027年4月1日とされ、身寄りのない高齢者等への支援を第二種社会福祉事業に位置付ける措置は公布後2年以内に政令で定める日から実施される。あわせて、成年後見制度についても利用の必要がなくなった際に制度利用を終了できるようにする見直しが進められており、判断能力が不十分な者を支える地域の権利擁護支援体制を、成年後見制度以外の手段も含めて総合的に充実させる方向性が示されている[1]。相談支援体制の整備としては、地域包括支援センターの相談対象にこうした高齢者からの相談を明確化するとともに、権利擁護に関する中核機関として「地域権利擁護相談支援センター」の設置が可能となる[1]。単身高齢者の権利擁護という観点では、老朽マンション「答えのない老い」に法はどう向き合ったかで扱われた区分所有法改正とも、高齢化する居住者の意思決定支援という点で問題意識を共有している。

民間の身元保証ビジネス、規制なき市場の実態

412事業者、監督官庁不在という空白

改正法が公的な受け皿を用意する一方、資力のある高齢者向けにはすでに民間の身元保証等高齢者サポート事業が広がっている。総務省行政評価局が2022年8月を調査開始時点として実施した調査では、インターネット検索や地方公共団体・地域包括支援センターへの聞き取りなどを通じて412の事業者を把握した。法人形態別にみると一般社団法人が46.6%と最も多く、NPO法人が29.9%、株式会社が18.6%と続く。同報告書は、この事業を直接規律・監督する法令も、事業を所管する行政機関も存在しないと明記している[2]。

事業者数を網羅的に把握した公的資料はこれまで存在せず、業界団体もないため、利用者が事業者の信頼性を比較検討する手段が乏しいことが構造的な課題として指摘されている。総務省の調査に対して事業者側からも「参入障壁がない中で事業者が乱立し、優良な事業者と悪意を持った事業者が存在する」「事業を監督する省庁を決めた上で一定の基準を策定してほしい」といった意見が寄せられている[2]。

相談・トラブルの実態と国のガイドライン

国民生活センターがPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)のデータをもとに公表した資料によれば、身元保証などの高齢者サポートサービスに関する相談件数は2013年度85件、2014年度99件、2015年度177件、2016年度127件、2017年度74件、2018年度101件と、一定水準の相談が継続的に寄せられている。相談内容としては支払能力を超えた契約や解約時の高額な違約金といった事例が紹介されている[6]。総務省の調査でも、地方公共団体等が把握した相談155件のうち、事業者の評判・信頼性に関するものが最多で、解約・返金や寄附・遺贈をめぐるトラブルも一定数確認されている[2]。

こうした状況を受け、内閣官房の身元保証等高齢者サポート調整チームや内閣府・金融庁・消費者庁・総務省などが連携し、事業者が遵守すべき事項を整理した「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を策定している。消費者庁も利用検討者向けにポイント集を作成し、契約内容や支払能力を事前に十分確認するよう注意喚起を行っている[3][4]。ただし、ガイドラインは法的拘束力を持つ規制ではなく、業界団体による自主的な健全化にも限界があるため、事業者への届出制や登録制の導入を求める意見が地方公共団体側からも出ている[2]。

担い手としての社会福祉協議会 — 人材と財源の制約

職員規模に表れる地域間格差

改正法が想定する新事業の主な担い手は市区町村社会福祉協議会である。厚労省が公開した資料によれば、市区町村社協の職員は全国で約14万人おり、そのうち正規職員は32%にとどまり、非正規職員が68%を占める。1社協あたりの平均職員数は77.9人だが、人口1万人未満の小規模市町村の社協では平均30.0人にとどまる一方、人口40万人以上の大規模自治体の社協では平均227.3人に達しており、地域による体制格差が大きい[7]。介護報酬改定を扱った介護報酬「臨時改定」の中身でも指摘されているとおり、福祉・介護分野全体で人材不足が続く中、新たな相談支援・死後事務支援業務を上乗せする体制整備は容易ではない。

収益構造の脆弱性と自治体の対応差

財源面でも、市区町村社協のサービス活動収益は介護保険事業収益が34.7%と最大の構成要素を占め、次いで受託金が25.7%、経常経費補助金が17.6%となっている。会費や寄附金といった独自財源はわずか数%にとどまり、行政からの委託・補助への依存度が高い財務構造である[7]。

自治体間の対応差は民間事業者に関する情報把握の状況にも表れている。総務省の調査では、管内の身元保証等高齢者サポート事業者の情報を把握している割合は、地域包括支援センターで92.6%に達する一方、市区町村の担当課室では45.7%、消費生活センターでは47.1%にとどまった。国が作成した周知・啓発資料についても、約7割の地方公共団体等が「活用していない」と回答し、その理由として最も多かったのは「資料を知らない」であった[2]。単身高齢化という同じ課題に直面していても、自治体や部署によって情報収集や住民対応の水準にばらつきがある実態がうかがえる。

資格保有率の面でも社協職員の専門性には課題が残る。厚労省公開資料によれば、市区町村社協職員のうち介護福祉士の資格を持つ者は24.7%、介護支援専門員は13.2%、社会福祉士は9.2%にとどまる[7]。死後事務支援は法律・税務・不動産処分など多岐にわたる知識を要する業務であり、既存の相談支援・権利擁護部門の人員だけで対応しきれるかは、自治体ごとの職員配置や外部専門職との連携体制に左右される。

注意点・展望

改正法の施行までには、第二種社会福祉事業としての具体的な運用基準やガイドラインの策定が必要であり、厚労省資料でも詳細は「今後モデル事業において検証」するとされている項目が複数残っている[1]。制度の骨格が固まっても、実施主体である社協に十分な職員体制と財源が伴わなければ、都市部と小規模自治体との間でサービス提供水準の差が固定化する懸念がある。福祉人材確保のための協議会設置を都道府県の努力義務とする措置も同じ改正法に盛り込まれているが、努力義務にとどまる点で実効性は今後の運用次第である[1]。

民間の身元保証市場についても、事業者数の増加が見込まれる一方で、法的な規制枠組みは依然として存在しない。ガイドラインの周知徹底や、行政による事業者情報の一元的な把握体制の構築が進むかどうかが、消費者保護の実効性を左右する。公的事業と民間事業の役割分担が制度上の建前としては整理されつつも、両者の間で利用者がどちらを選ぶべきか判断する材料は依然として限られている。

Newscoda の見方

本サイトが注目するのは、改正社会福祉法が「誰が身元保証を担うか」という空白に制度上の答えを用意した一方で、その担い手である社会福祉協議会の実施体制がすでに人材・財源の両面で逼迫しているという矛盾である。人口1万人未満の自治体の社協職員数が大規模自治体の8分の1程度にとどまる現状を踏まえると、制度の全国一律の運用には相応の移行期間と財政措置が伴う可能性が高い。

他の報道が制度創設という制度面の前進を中心に扱う傾向があるのに対し、本稿では総務省行政評価局や国民生活センターの一次資料に基づき、公的制度が補完しようとしている民間市場自体が規制空白のまま拡大してきた点、および自治体ごとの情報把握・対応能力の格差という執行面の課題を併せて検証した。

今後6〜12か月で観察すべき変数は以下のとおりである。

  • 第二種社会福祉事業の具体的な運用基準・ガイドラインの策定状況
  • 都道府県による福祉人材確保のための協議会設置の進捗
  • 民間の身元保証等高齢者サポート事業に対する法規制導入の議論の有無
  • 市区町村社協への財政措置・委託事業拡充の動き
  • 自治体間での事業者情報把握・住民周知の格差が是正されるか

まとめ

単身高齢世帯の急増という人口構造の変化を背景に、改正社会福祉法は社会福祉協議会を中心とした公的な身元保証・死後事務支援の枠組みを新設した。対象は資力要件に該当する低所得の高齢者であり、資力のある層は引き続き規制空白の民間市場を利用することになる。制度の実効性は、施行までのガイドライン整備に加え、担い手である社協の人材確保と財源措置、そして自治体ごとの対応格差の是正にかかっている。単身高齢化は今後数十年にわたって進行が見込まれる構造的な変化であり、この制度がどこまで機能するかは、経済政策としても地域福祉政策としても継続的な検証が必要な論点である。

Sources

  1. [1]社会福祉法等の一部を改正する法律案の概要(厚生労働省)
  2. [2]身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する調査 結果報告書(総務省行政評価局)
  3. [3]いわゆる「高齢者等終身サポート事業」の利用に関する注意点(消費者庁)
  4. [4]高齢者等終身サポート事業者ガイドライン(内閣官房・内閣府・金融庁・消費者庁・総務省、法務省公開資料)
  5. [5]日本の世帯数の将来推計(全国推計)令和6(2024)年推計(国立社会保障・人口問題研究所)
  6. [6]身元保証などの高齢者サポートサービスをめぐる契約トラブルにご注意(国民生活センター)
  7. [7]社会福祉協議会の組織・事業・活動について(厚生労働省公開資料、全国社会福祉協議会作成)

よくある質問

改正社会福祉法の新しい支援事業はいつから使えるようになりますか
法律の施行期日は2027年4月1日とされ、身寄りのない高齢者等への支援を第二種社会福祉事業に位置付ける措置は公布後2年以内に政令で定める日から実施される見通しである。具体的な運用基準やガイドラインは施行までに順次整備される予定であり、全国一律に即座に利用可能になるわけではない。
社会福祉協議会が担う死後事務支援と民間の身元保証サービスはどう違うのか
社協の新事業は資力要件に該当する低所得者を主な対象に無料または低額で提供される公的な枠組みである。一方、民間の身元保証等高齢者サポート事業は資力のある利用者向けの有料サービスで、事業者ごとに内容や料金が異なり、監督官庁も存在しない。両者は補完関係にあると位置付けられている。
なぜ民間の身元保証サービスでトラブルが起きやすいのですか
業務を直接規律する法令や監督官庁が存在せず、契約内容や料金体系が事業者ごとに大きく異なるためである。国民生活センターには支払能力を超えた契約や解約時の高額な違約金に関する相談が継続的に寄せられており、預託金の管理方法なども利用者が事前に把握しにくい構造となっている。
社会福祉協議会は人手不足でも新しい制度を担えるのでしょうか
市区町村社協の職員は非正規雇用が約7割を占め、平均職員数も人口規模の小さい自治体ほど少ない傾向がある。財源も介護保険事業収益への依存度が高く独自財源が乏しいため、新事業の実施体制整備には自治体ごとの人材確保・財政措置が課題として残る。
この制度は誰でも利用できるのですか
対象は頼れる身寄りがいない高齢者等および判断能力が不十分な者であり、資力要件に該当する場合は無料または低額で利用できる仕組みとして設計されている。資力に余裕がある人は引き続き民間の終身サポート事業などを選択肢として検討することになる。

関連記事

最新記事