2026年EU議会選挙outlook — 右傾化加速の構図と中道勢力の戦略
2026年6月の欧州議会選挙では、右派・極右政党の議席シェア拡大と中道勢力の苦戦が予想される。フランス・ドイツ・イタリア・スウェーデンの世論調査、主要争点(移民・気候・経済安全保障)、EU 政策への影響を整理する。

はじめに
2026年6月6〜9日に予定される欧州議会選挙(European Parliament Elections)は、欧州連合(EU)の政策方向性、加盟国間の関係、グローバル経済秩序に重要な影響を与える政治イベントだ。投票総数約4億人、選出議員720名の規模で、世界最大級の国際選挙である[1]。
世論調査トラッカー Politico Europe Poll of Polls の集計によれば、2026年5月時点で右派・極右政党の予想議席シェアは、現在の135議席(19%)から180〜200議席(25〜28%)への拡大が予想される[3]。これは、移民政策、気候政策、経済安全保障、対米・対中関係などの主要 EU 政策方向性に直接の影響を与える可能性が高い。本稿は、選挙の現状、各国別の動向、政策への含意を整理する。
主要国の世論調査と選挙構図
フランス: Rassemblement National(RN)の優位
フランスでは、ル・ペン率いる Rassemblement National(RN、国民連合)が世論調査でトップを走る[4]。2026年5月の Politico 集計では、RN が約32%、マクロン陣営の Renaissance が約16%、社会党が約14%、緑の党が約8%、共和党が約7%、Reconquête が約5%という配分。
RN の支持基盤は、移民政策への懸念、生活費上昇への不満、エリート政治への反発、フランス国家主権の重視といった多元的な要素に基づく。EU レベルでは、Identity and Democracy(ID、現在の右派会派)の中核として勢力拡大を目指す。
ドイツ: AfD と CDU の対抗
ドイツでは、Christian Democratic Union(CDU)と Alternative for Germany(AfD)が拮抗する状況だ[5]。2026年5月の世論調査では、CDU が約28%、AfD が約18%、Social Democratic Party(SPD)が約16%、緑の党が約12%、Free Democrats(FDP)が約8%。
AfD は2024年欧州議会選挙以来、若年層・東部諸州での支持を拡大し、EU 議会内での影響力強化を目指す。ただし、現在所属する Identity and Democracy 会派の他党との関係、ドイツ国内の連立政権との関係など、政治的な制約が多い。
イタリア: メローニ政権の安定
イタリアでは、メローニ首相率いる Brothers of Italy(Fratelli d'Italia)が約27%でトップを維持[6]。Forza Italia 約12%、Lega 約10%、Five Star Movement 約11%、Democratic Party 約20% という構図だ。
メローニ政権は、EU 政策において「右派の中の現実主義者」として独自の立ち位置を取る。右派会派の European Conservatives and Reformists(ECR)の中核として、EU 議会での影響力拡大を目指す。フランス RN との関係は競争的(同じ右派でも会派が異なる)であり、選挙後の連携可能性が論点となる。
スウェーデン・オランダ・北欧諸国
スウェーデン Sverigedemokraterna(SD)、オランダ Geert Wilders 率いる Party for Freedom(PVV)も、欧州議会選挙で議席拡大が予想される。これらの国の右派政党は、各国内の連立政権参加・支持を経て、EU レベルでも影響力を強めている[3]。
主要争点
移民政策
EU 共通の移民政策、特に Mediterranean ルートでの不法移民対応、難民受け入れの加盟国間分担は、選挙の最大の争点だ。右派政党は厳格な国境管理、難民受け入れ削減を主張し、中道・左派は人権保護、加盟国間の連帯を強調する。
2025〜2026年に EU は新移民協定(Pact on Migration and Asylum)の段階的実装を進めているが、加盟国間の合意は脆弱だ。選挙結果次第で、移民政策の更なる厳格化が進む可能性がある[移民は「労働力の輸入」ではない ― 人口動態危機と移民経済の本質]。
気候政策
EU の気候政策(European Green Deal、Fit for 55、CBAM 等)は、過去5年で重要な政策パッケージとなった。だが、産業競争力への懸念、エネルギー価格上昇、農業セクターの反発などから、その「実装速度」が論点となっている。
右派政党は気候政策の「現実的調整」(緩和ではないが、ペースの調整)を主張する傾向がある。中道・緑系は気候目標の堅持を強調する。選挙後の議会構成によって、欧州の気候政策の方向性が大きく変わる可能性がある[EUの新財政ルールは「緊縮vs.成長」のジレンマを解けるか]。
経済安全保障と対中政策
EU は2024〜2026年に経済安全保障(economic security)の概念を政策化し、対中・対米の戦略的依存度を低減する政策を打ち出してきた。具体的には、対外投資審査の強化、戦略物資のサプライチェーン多様化、半導体・電池・重要鉱物への国内投資拡大などである[7]。
右派・中道右派は、経済安全保障の強化、特に対中ハードラインを支持する傾向がある。左派・緑系は、貿易自由主義への配慮、地政学的緊張の緩和を主張する。選挙結果は、EU の対外経済政策の方向性に直接影響する。
ウクライナ支援
ロシア・ウクライナ戦争への EU の対応も、選挙の重要争点だ。右派の中には対露宥和的な立場(ハンガリーのオルバン政権、フランスの RN 一部)と対露強硬派(ポーランド、バルト諸国、北欧諸国)の二極が存在する[6]。
ウクライナ支援の継続性、EU 加盟国の防衛費分担、対露制裁の維持は、選挙後の EU 内合意形成に依存する。
政策への含意
EU 議会会派構成の予想
選挙結果の予測ベースラインとして、以下のような議会会派構成が想定される(720議席中の目安、Politico 5月集計より)[3]:
- European People's Party(EPP、中道右派): 約180議席
- Socialists and Democrats(S&D、中道左派): 約140議席
- Renew Europe(中道): 約70議席
- Greens/EFA(緑系): 約60議席
- European Conservatives and Reformists(ECR、右派): 約100議席
- Identity and Democracy(ID、極右): 約110議席
- The Left(左派): 約40議席
- 非会派: 約20議席
これは、伝統的中道(EPP + S&D + Renew)の「グランド・コアリション」が依然として過半数を維持するが、右派(ECR + ID)が約210議席で大規模な少数勢力となる構図だ。
欧州委員会の構成への影響
欧州議会選挙の結果は、新欧州委員会(European Commission)の構成、特に委員長候補の選定に影響する。フォンデアライエン現委員長の再任、または別候補(EPP 系・S&D 系のいずれか)の登場が論点だ。
右派会派の議席拡大は、委員長選出のための過半数獲得を難しくし、政策合意の幅を狭める可能性がある。これは政策実装ペースの低下、加盟国の影響力強化につながり得る[7]。
政策実装への影響
EU の主要政策パッケージ(European Green Deal、CBAM、AI Act、Digital Markets Act、Single Market Reform 等)の実装ペース・内容に、議会構成の変化が影響する。
特に、気候政策(緑系の影響低下、右派の影響上昇)、移民政策(右派の影響上昇)、産業政策(中道・右派の影響)の三領域で、ニュアンスの変化が予想される[EU AI法と産業競争力のジレンマ — 欧州規制が投資を米中に流出させるリスク]。
国際的含意
対米関係
トランプ政権下の米国との関係は、EU 議会構成の変化を経て更に複雑化する可能性がある。右派会派の中には米国の自国優先政策に共感する勢力もあれば、EU の戦略的自律性を強調する勢力もある。
特に、貿易関係、防衛協力、技術競争、気候政策での米欧関係は、選挙結果次第で変化する。EU の「戦略的自律性」の概念は、議会構成によって異なる解釈を受ける可能性がある[EUの「開かれた戦略的自律性」——政策ドクトリンの全体像と実務的含意(2026年)]。
対中関係
EU の対中政策(経済安全保障、人権、台湾問題)は、右派の影響拡大とともに「より強硬」な方向に進む可能性がある。だが、ドイツの自動車・機械工業、フランスの航空工業、イタリアのファッション・自動車などは中国市場への依存度が高く、ビジネス界からの圧力もある。
このバランスをどう取るかが、EU の対中政策設計の重要課題だ。
グローバル経済秩序
EU は世界第三の経済圏として、グローバル経済秩序の重要なプレーヤーである。選挙結果による政策方向性の変化は、貿易、気候、技術、移民の各領域で、グローバル経済に影響を与える。
特に、トランプ政権下の米国、習近平体制の中国との関係再設計が、EU の選挙後の重要課題となる。
注意点・展望
選挙結果のシナリオ:
- 中道過半数維持シナリオ: EPP + S&D + Renew で過半数を維持。フォンデアライエン路線の継続。
- 右派拡大シナリオ: ECR + ID + 一部 EPP の右派ブロックが影響力を拡大。中道路線の調整。
- 混乱シナリオ: 過半数形成の困難、政策決定の遅延。
短期的には、選挙後の議会会派構成、欧州委員長の選出、新政策プログラムの提示が、3〜6か月の重要な動きとなる。中長期的には、これらの動きが EU の方向性と国際的役割を再定義する。
まとめ
2026年6月の EU 議会選挙は、欧州政治の右傾化進展、移民・気候・経済安全保障の主要争点、EU 政策方向性の重要な転換点となる。中道勢力の苦戦と右派の影響力拡大が予想される中、政策実装ペースの低下、加盟国の影響力強化、対米・対中関係の再設計などの構造的変化が進む。グローバル経済・地政学の文脈において、EU の選挙結果は世界の経済秩序を左右する重要な要素だ。
Sources
- [1]European Parliament — Election 2026 Information Centre
- [2]Eurobarometer — Spring 2026: Public Opinion in the European Union
- [3]Politico Europe — EU election polling tracker
- [4]Bloomberg — Le Pen's RN poised to top French EU election polls
- [5]Reuters — Germany AfD shows resilience ahead of EU vote
- [6]Financial Times — Italy's Meloni positions Brothers of Italy for EU influence
- [7]OECD — Economic Outlook 2026: Europe chapter
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