マーケット

仕組み債規制の「いたちごっこ」— 個人向け販売はなぜ根絶できないのか

高利回りをうたい個人投資家に販売されてきた仕組み債は、金融庁・日証協による規制強化が続くにもかかわらず販売が根絶されない。千葉銀行の事例を軸に規制強化の経緯と残る課題を整理する。

Newscoda 編集部

概要

仕組み債は、オプション取引などのデリバティブを組み込むことで通常の債券より高い利回りを提示できる金融商品である。代表例である他社株転換可能債(EB債)は、対象株式の株価が一定水準を下回ると償還金が現金ではなく値下がりした株式そのもので支払われる仕組みを持ち、株価や為替の変動によって償還条件が変わる設計上、相場が想定と逆に動けば元本が大きく毀損するリスクを抱える。表面利率だけを見れば通常の債券より高い利回りが提示されるため、退職金の運用先を探す高齢者層を中心に人気を集めてきた経緯がある。

もともとは機関投資家向けに開発された複雑な商品だが、証券会社・銀行にとって組成・販売手数料が高く収益性の高い商品であるため、個人向け販売が拡大し、2020年代前半から苦情とトラブルが相次いだ。金融庁と日本証券業協会(JSDA)はこの間、複数回にわたり規制を強化してきたが、それでも販売が完全には根絶されない構図が続いている。以下、規制強化の主な局面を追う。

1. 苦情の急増と金融庁の警告(2022年)

2022年、個人投資家からの苦情を受け、金融庁は仕組み債の販売実態の点検に乗り出した。商品性が複雑でリスクと価格の透明性に欠けるとの問題意識から、銀行を中心とする販売会社の勧誘実態を調査する方針を示した [1]。金融庁幹部は当時、業界に対し繰り返し注意喚起してきたにもかかわらず改善が進んでいないとして、必要に応じて検査官を販売店舗に派遣する姿勢を明らかにした [1]。この段階では行政処分には至らず、業界の自浄努力を促す警告にとどまった。

苦情の内容としては、リスクの説明が不十分なまま「利回りの高さ」だけを強調した勧誘や、顧客のリスク許容度に見合わない高リスク商品の販売が目立ったとされる。金融庁がこの時点で行政処分ではなく警告にとどめた背景には、個別事案の悪質性を精査した上で処分に踏み切る必要があるという行政手続き上の制約に加え、業界の自主的な改善を優先する姿勢があったとみられる。

2. 日証協による勧誘規則の改正(2023年)

金融庁の問題意識を受け、JSDAは2023年2月、複雑な仕組み債等の販売勧誘に関する自主規制規則の改正案を公表した。改正は、金融審議会市場制度ワーキング・グループの「顧客本位タスクフォース」中間報告や金融庁の資産運用業高度化プログレスレポートを踏まえたもので、組成コストの開示やリスク・リターン分析のあり方を見直す内容を含んでいた [4]。規則改正は同年4月18日に決定され、7月1日から適用が始まった [4]。想定顧客層の検証や、顧客属性に応じた説明・勧誘開始基準の実効的な運用を、業界の最低基準として求める内容だった。

自主規制という枠組みの性格上、この改正は法的拘束力を持つ行政規制ではなく、あくまでJSDA会員である証券会社・銀行が自ら遵守すべき最低基準としての位置づけにとどまる。実効性は各社のコンプライアンス体制の運用次第という側面が残り、規則が整備された後も個別の販売現場での運用実態が伴わなければ、実質的な改善にはつながらないという構造的な限界を内包していた。

3. 千葉銀行・ちばぎん証券への業務改善命令(2023年)

規則改正と同じ2023年、規制強化の必要性を象徴する事例が表面化した。証券取引等監視委員会の検査で、ちばぎん証券が長期間にわたり、顧客の金融知識・取引経験・資産状況・投資目的に適合しない仕組み債を販売していたことが判明した。2022年6月末時点で仕組み債を保有していた顧客8424人のうち8168人が最もリスク許容度の高い「積極的価値志向」に分類されていたが、うち2424人は実際にはそれより保守的な投資方針だったことが確認された [2]。関東財務局はちばぎん証券に対し適合性原則違反を理由に、千葉銀行に対しても仲介業務に関する業務改善命令を発出した。これを受け千葉銀行の佐久間英利頭取(当時)は退任を表明し、現旧役員9人が報酬の減額・返上の対象となった [2]。

この事例が象徴的だったのは、単なる説明不足ではなく、顧客の投資方針そのものを実態と異なる形で記録していた点にある。約3割の顧客について、実際のリスク許容度より高いリスク区分に分類した記録が残っていたという事実は、販売現場が適合性原則を形式的にクリアするための帳票操作に近い運用に陥っていたことを示唆する。地方銀行系証券会社が、預金者との長年の信頼関係を背景に複雑な商品を販売しやすい立場にあったことも、被害の広がりを助長した要因として指摘されている。

4. モニタリングの継続と残る課題(2024〜2025年)

金融庁はその後も、リスク性金融商品の販売・組成会社を対象とする継続的なモニタリングを実施している。2024事務年度の報告では、仕組み預金・外貨建一時払保険なども含め、販売会社のプロダクトガバナンス態勢や顧客本位の業務運営の実効性を点検した結果が公表された [3]。千葉銀行側も、関東財務局からの業務改善命令を受けた取り組みの進捗状況を継続的に開示しており、再発防止策の実施状況を対外的に説明する体制を続けている [5]。開示内容には、営業職員の評価体系からリスク性金融商品の販売実績を切り離す見直しや、顧客本位の業務運営を検証する第三者委員会の設置といった項目が含まれ、個別行政処分を受けた金融機関が組織的な再発防止に取り組む一つのモデルケースとなっている。

もっとも、規制と監督の枠組みは着実に積み上がってきた一方、複雑な金融商品を高齢者や投資経験の浅い個人に販売するという構造的な収益モデル自体は、業界内で完全には解消されていない。行政処分を受けた金融機関以外でも同種の運用が行われていないか、金融庁のモニタリングは横断的な検証を続けている段階にある。

共通点と相違点

局面主体対応の性格
2022年: 苦情急増金融庁警告・実態調査
2023年: 規則改正JSDA自主規制ルールの強化
2023年: 業務改善命令関東財務局個別行政処分
2024〜2025年: モニタリング金融庁継続的な実効性検証

四つの局面に共通するのは、いずれも「販売会社の自主的な適合性判断」に規律を委ねる構造を前提としている点である。相違点は、警告・自主規制・行政処分・継続監督という規制強度の段階が異なることであり、個別の行政処分(千葉銀行の事例)が最も強い抑止効果を持つ一方、業界全体への波及は自主規制とモニタリングという緩やかな手段に依存している。この非対称性が、規制強化が続いても販売慣行が完全には変わらない一因になっている。

注意点・展望

複雑な金融商品を対面営業で販売するビジネスモデルは、証券会社・銀行にとって依然として重要な手数料収入源である。ネット証券と対面証券、手数料ゼロ時代に生き残るのはどちらの型か が論じるように、手数料の低下圧力が強まるほど、対面営業チャネルは仕組み債のような高マージン商品への依存を強めやすい構造的な誘因を抱える。同様の構図は、毎月分配型投信になぜ資金が戻るのか が扱う毎月分配型投資信託にも共通しており、複雑・高コストな商品ほど個人投資家に根強い需要が残るという逆説がある。

新NISAの普及により個人の投資参加が拡大する中、新NISAが変えた日本の個人投資行動 が示す「貯蓄から投資へ」の流れが、投資経験の浅い層を仕組み債のような複雑商品の潜在的な販売対象として拡大させる可能性もある。規制当局にとっては、個別の行政処分だけでなく、販売会社の収益構造そのものに切り込む設計が今後の課題として残る。

Newscoda の見方

本サイトとして注目するのは、規制強化のたびに個別の行政処分が象徴的な効果を持つ一方、業界全体の収益構造が温存されている限り、同種の問題が形を変えて再燃しやすいという構図である。千葉銀行の事例は氷山の一角であり、同様の適合性原則違反が他の地域金融機関でも生じていないかは、継続的な検証が必要な論点である。

多くの解説は個別の処分事例に注目しがちだが、Newscodaとしては、対面営業チャネルの手数料収入モデルという構造要因を重視する。手数料の低マージン化が進むほど、複雑商品への依存という誘因が強まる力学は、規制強化だけでは解消しきれない。

今後6〜12か月で観察すべき変数:

  • 金融庁の次回モニタリング報告における仕組み債販売残高の増減
  • 地域金融機関における同種の適合性原則違反の有無
  • JSDA規則改正後の複雑な仕組み債の組成・販売件数の推移
  • 対面証券・銀行窓販チャネルの手数料収入に占める仕組み債等の比率

まとめ

仕組み債を巡る規制強化は、2022年の苦情急増を契機に、自主規制の見直しと個別行政処分という二つの経路で進んできた。千葉銀行・ちばぎん証券の事例は規律付けの実効性を示す一方、複雑商品への依存という構造的な収益モデルが解消されない限り、規制と販売実務の間の「いたちごっこ」は今後も続く可能性が高い。

Tags

Sources

  1. [1]Japan to Crack Down on Structured Bond Sales After Complaints — Bloomberg Law
  2. [2]Disciplinary Actions against Chibagin Securities Co., Ltd. — Japan Exchange Group
  3. [3]リスク性金融商品の販売・組成会社による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果について(2024事務年度)— 金融庁
  4. [4]複雑な仕組債等の販売勧誘に係る規則等の一部改正について(案)— 日本証券業協会
  5. [5]The Chiba Bank, Ltd. News Release (July 15, 2025) — 業務改善命令に関する取組みの進捗状況

関連記事

最新記事