米国株が日本の「昼間」に買える日 — 23時間取引でネット証券各社はどう動くか
米国株の取引時間が2026年12月から23時間に拡大され、日本の個人投資家は日中でもリアルタイム取引が可能になる。ネット証券各社の対応と、NYSEが主導する取引時間拡大の背景を整理する。
概要
2026年12月6日、米国株の取引時間が大きく変わる。NYSE(ニューヨーク証券取引所)やNASDAQなど米国主要取引所に関連するシステムが対応し、日本時間で冬時間11時から翌10時までの23時間にわたって米国株の売買が可能になる見通しだ[1][2]。これまで日本の個人投資家が米国株を売買できるのは、現地の立会時間に対応する日本時間の夜間から早朝にかけてがほとんどだった。この変更により、日本の日中でも米国株をリアルタイムで取引できる環境が整うことになる。
この動きに対応する形で、国内ネット証券各社がサービス拡充を進めている。以下では、松井証券・マネックス証券・楽天証券の3社の対応を軸に、取引時間拡大の背景と個人投資家への影響を整理する。新NISAが変えた日本の個人投資行動で見たように、個人の投資意欲そのものは近年強まっており、その資金がどこに向かうかという文脈でも今回の制度変更は意味を持つ。
1. 松井証券の対応 — 23時間取引への全面移行
松井証券は、2026年12月6日(日)の取引(日本時間12月7日午前11時)より、米国株サービスの取引時間を現行の12時間から23時間へ拡大すると公式に発表した。対応後の取引時間は、日本時間10時から翌9時(冬時間は11時から翌10時)に及ぶ。現行の取引時間は日本時間17時から翌5時(冬時間は18時から翌6時)であり、拡大幅は単純計算で11時間に達する[1]。
具体的な注文方法については「決まり次第改めてご案内する」としており、詳細な運用ルールは今後順次公表される見通しだ[1]。もっとも、対応開始日と拡大後の時間帯を明確に打ち出した点で、ネット証券各社の中でも比較的早い段階で全面対応の方針を示した格好になる。
現行の12時間から23時間へという拡大幅は、単なる時間外取引の延長ではなく、実質的に「取引できない時間帯」がほぼ無くなることを意味する。従来は日本時間の日中(おおむね午前9時から午後5時ごろ)は米国株の値動きを確認できても発注ができない時間帯だったが、この空白がほぼ解消される点が今回の変更の核心といえる。
2. マネックス証券の対応 — 同日対応を表明
マネックス証券も、松井証券と同じ2026年12月6日から米国株の23時間取引に対応する方針を公式に発表している。日中での米国株取引が可能になる点を前面に打ち出しており、対応開始日を明確にした証券会社の一つとなっている[2]。
米国株取引に力を入れてきたマネックス証券にとって、取引時間の拡大は既存の強みをさらに伸ばす施策と位置づけられる。個人投資家が日本の勤務時間中でも米国株の値動きを確認しながら発注できる環境が整うことで、従来は深夜の取引に限られていた層以外にも米国株投資の裾野が広がる可能性がある。
3. 楽天証券の対応 — 段階的な取引時間の拡張
楽天証券は、他の2社とはやや異なるアプローチで取引時間の拡大を進めてきた。2026年1月26日にプレマーケット取引(日本時間18時から23時30分)を開始し、取引時間を最大12時間に拡充。続く2026年6月22日には、アフターマーケット取引(標準時間で日本時間6時から翌10時、サマータイムで5時から9時)にも対応し、プレマーケット・レギュラーマーケット・アフターマーケットを合わせて最長16時間の取引を実現したと発表している[3]。
ただし、時間外取引には制約もある。楽天証券の場合、対応可能な注文は指値注文のみで、成行注文や逆指値注文には対応していない。執行条件も「本日中」に限られ、1注文あたりの上限は25万株または499万9999.99米ドルと定められている[3]。楽天証券は主要ネット証券の中でも早期にプレマーケット・アフターマーケット双方に対応した実績があり、12月の23時間取引への移行に向けても段階的な地ならしを進めてきたとみられる。
共通点と相違点
3社に共通するのは、いずれも2026年12月6日を軸とした取引時間拡大の流れに沿って対応を進めている点だ。一方で、対応のスピードや発表の形には違いが見られる。松井証券とマネックス証券は12月6日の23時間対応を明確に打ち出したのに対し、楽天証券はプレマーケット・アフターマーケットという形で段階的に時間帯を広げ、それぞれの節目で個別に発表するアプローチを取ってきた。
また、時間外取引における注文方式の制約は各社で共通する傾向がある。楽天証券が指値注文のみに限定しているように、流動性の薄い時間帯における値動きの荒さをふまえ、成行注文を制限する運用は他社でも採用される可能性が高い。個人投資家にとっては、取引時間が広がる一方で、時間帯によって使える注文方式が異なる点に留意する必要がある。
| 項目 | 松井証券 | マネックス証券 | 楽天証券 |
|---|---|---|---|
| 23時間対応の発表状況 | 公式発表済み | 公式発表済み | 段階的に拡大中 |
| 対応開始(予定) | 2026年12月6日 | 2026年12月6日 | プレ・アフター先行対応済み |
| 現時点の最大取引時間 | 12時間(拡大前) | 非開示 | 最長16時間 |
| 時間外の注文方式 | 案内予定 | 案内予定 | 指値注文のみ |
この段階では、松井証券とマネックス証券が「12月6日に一気に23時間へ移行する」方針を示しているのに対し、楽天証券は「まず16時間まで拡大し、23時間への対応は追って詳細を詰める」という時間差のあるロードマップを描いていると読み取れる。どちらのアプローチが個人投資家にとって使いやすいかは、実際の注文方式や約定のしやすさが公表されてから評価が定まることになりそうだ。
注意点・展望
今回の取引時間拡大の背景には、米国市場側の構造変化がある。NYSEは2024年10月、電子取引所アルカの平日の取引時間を、現行の16時間から22時間に拡大する計画を発表した。想定される稼働時間は米東部時間の午前1時30分から午後11時30分に及び、実現にはSEC(米証券取引委員会)の承認が必要とされる[4]。この計画の背景には、2021年から夜間取引を手がける代替取引システム「Blue Ocean ATS」や、新興の「24X ナショナル取引所」の台頭という競争環境の変化があるとされる[5]。
NYSEの分析によれば、夜間取引の需要を牽引しているのはアジアの個人投資家であり、日本時間午後9時台(現地の取引開始に近い時間帯)と、深夜3時台(複数のアジア市場の取引終了に近い時間帯)に出来高のピークが見られるという[4]。暗号資産市場が24時間365日稼働する中で、株式市場が「眠らない市場」との競争にさらされているという側面も、取引時間拡大を後押ししてきた要因の一つとされる[5]。
日本の個人投資家にとっては、日中に米国株を売買できる利便性が高まる一方で、時間帯によって流動性や値動きの荒さが異なる点には注意が必要だ。NYSEの分析でも、夜間取引の出来高は上場投資証券(ETP)に偏る傾向があり、個別株の出来高は週によって大きく変動するとされている[4]。取引時間が広がったからといって、どの時間帯でも同じ感覚で売買できるわけではない点は踏まえておく必要がある。
もう一つの注意点は、決済インフラ側の対応状況だ。米国では証券保管振替機関(DTCC)が2026年に24時間・週5日の運用体制への移行を計画しているとされ、取引時間の拡大に決済インフラが追いつくかどうかも実務上の論点になる[5]。日本の証券会社が23時間取引に対応したとしても、その裏側にある米国の決済・清算インフラの整備状況次第では、当初の想定どおりに約定・受渡しが進まない可能性も残る。
Newscoda の見方
本サイトとして注目するのは、日本のネット証券各社の対応が「米国側の制度変更に追随する」形で進んでいる点だ。取引時間拡大の起点はNYSEやBlue Ocean ATSといった米国の市場インフラの側にあり、日本の証券会社はそれに対応する形でサービスを拡充している。この力学は、東京市場が世界の取引インフラの標準を主導する側ではなく、追随する側に位置している構造を映し出している。
多くの報道は「日中に米国株が買えるようになる」という利便性の側面に焦点を当てがちだが、Newscodaとしては、この変化が個人投資家の資金配分行動そのものを変えうる点を重視したい。日本株の取引時間中に米国株の値動きを並行して確認できる環境が整えば、日本株と米国株を同時に比較しながら売買判断をする投資家が増える可能性があり、国内市場への資金の向かい方にも影響を及ぼしうる。個人投資家の売買シェア12年ぶり高水準で見たような若年層主導の短期売買の広がりとも、無関係ではないだろう。
今後6-12か月で観察すべき変数は以下の通りだ。
- SEC によるNYSEアルカの取引時間拡大提案の承認可否とスケジュール
- 12月6日の23時間取引開始後の、日本時間日中における米国株の実際の出来高・流動性
- SBI証券をはじめ、対応方針を明確にしていない証券会社の発表内容
- 日中の米国株取引拡大が国内株式市場の売買代金・個人投資家の資金配分に与える影響
まとめ
2026年12月6日から、米国株の取引時間は日本時間で最大23時間に拡大される見通しで、松井証券・マネックス証券が12月6日の全面対応を、楽天証券が段階的な時間帯拡張を通じて、それぞれ日中の米国株取引を可能にしようとしている。背景には、NYSEが主導する取引時間拡大の計画と、Blue Ocean ATSなど夜間取引専業プラットフォームとの競争、そしてアジアの個人投資家からの需要という複数の要因が重なっている。取引の利便性が高まる一方、時間帯による流動性の違いや注文方式の制約には注意が必要であり、個人投資家の資金配分行動がどう変化するかが今後の焦点になる。
Sources
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