2026年猛暑、冷却ウェアから建設現場センサーまで広がる企業の対策投資
2026年の記録的猛暑を受け、ワークマンや戸田建設、ダイキン工業など日本企業が冷却ウェアや建設現場向けセンサー、業務用エアコンなど熱中症対策関連の製品・サービス投資を拡大している動きを整理する。
概要
2026年4〜6月期、ダイキン工業の国内空調・冷凍機事業の売上高は前年同期比17.0%増の1兆3,250億51百万円となった。業務用空調機器は暑熱対策需要とオフィス・商業施設向け需要の拡大により前年を上回り、住宅用機器も2027年度の省エネ規制強化を見込んだ買い替え需要に支えられたと同社は説明している [1]。猛暑は労働災害や電力需給といった構造的コストを生む一方で、企業にとっては熱波を前提とした需要に対応する製品・サービスを開発する事業機会でもある。
本稿では、アパレル、建設、空調設備という異なる業種の企業が2026年に打ち出した具体的な熱中症対策関連の投資・商品戦略を並べ、共通する狙いと業種ごとの違いを整理する。対象は一般消費者向けの冷却ウェアから、建設現場の作業員を守るウェアラブル機器、空調設備の更新需要まで幅広い。
1. ワークマン — ペルチェ半導体冷却ベストの一般消費者向け拡大
作業服専門店を運営するワークマンは、半導体素子(ペルチェ素子)に通電することで金属プレートを直接冷やす「ペルチェベスト」の2026年モデルを展開している。新モデル「WindCore ICE×HEATERペルチェベスト」は電源投入から約1秒で最大30度の冷却プレート温度差を実現するとされ、冷却プレートを5カ所搭載した「PRO3」(1万9,800円)と、首元を含む7カ所搭載の上位モデル(2万9,800円)の2種を展開する [2]。
同社はこの商品を建設・物流など屋外作業者向けの安全対策商品としてだけでなく、熱中症による救急搬送の約9割を一般市民が占めるとされる状況を踏まえ、スポーツ観戦や家事といった日常生活向けの需要拡大にも力を入れている。2026年3月の東京モーターサイクルショーでは、3日間で約1億1,000万円分の予約販売を記録したと発表しており、作業服市場から一般消費財市場への越境が進んでいる [2]。
2. 戸田建設 — 建設現場向けハイブリッド冷却作業着
戸田建設は昭和商会(名古屋市)と共同で、ファン付き作業服にペルチェデバイスを組み合わせた「ハイブリッド冷却作業着」を開発したと2026年6月に発表した。気温35度を超える環境下で冷却部の表面温度を最大約22度低下させる性能を持ち、温度感覚の順応を防ぐ変動制御により4時間超の連続稼働を可能にしたとされる [3]。
2025年に実施した現場検証では、着用した作業員の約65%が「涼しい」または「やや涼しい」と回答し、従来型のファン付き作業服との比較でも7割超が同等以上と評価した。反射チョッキやフルハーネス型墜落制止用器具と併用できる独自形状の排気口を採用しており、2026年6月から同社の施工現場への導入を開始し、将来的な外部販売の可能性も検討するとしている [3]。建設業界では人手不足を背景に働き方改革が進められており、こうした安全装備への投資は時間外労働の上限規制への対応とも連動する形で位置づけられている。
3. WILLTEX — 電源不要の特殊低温保冷剤「ICE ARMOR」
繊維製品メーカーのWILLTEXは、首都高速道路の保守管理を担う首都高メンテナンス神奈川と共同で、電源やファン、電池を使わない特殊低温保冷剤「ICE ARMOR」の共同販売を2026年4月に開始した。一般的なゲル状保冷剤が高分子素材を用いるのに対し、内部を循環する非高分子の液体により熱を吸収・拡散する対流式の構造を採用し、冷却ムラが生じにくく効果が持続しやすいとしている [4]。
成分は水と塩類のみで食品グレードの安全性を確保し、車両の荷重にも耐える耐久設計とした。建設現場やインフラ保守、災害対応の現場で作業員の身体的負担を軽減し、熱中症リスクを低減する用途を想定しており、電力供給が制約される屋外・災害時の現場に特化した製品設計となっている点が特徴とされる [4]。
4. 朝日工業社 — ウェアラブル型体調管理システム「GenVital LTE」
設備工事大手の朝日工業社は、リストバンド型ウェアラブル端末を用いた体調管理システム「GenVital LTE」を2026年5月から導入したと発表した。本店(東京支店)が管轄する現場の協力会社作業員約500人を対象に先行導入し、運用開始から約1カ月間で自覚症状が出る前の早期休憩を促す事例を確認したとしている [5]。
同システムは端末で収集した心拍数と位置情報に、作業員の年齢や現場内の暑さ指数(WBGT値)を組み合わせて熱中症リスクを算出し、リスク指標が閾値を超えた際に作業員本人と管理者双方へ即座に警報を通知する仕組みを持つ。設備工事や建設の現場では、有資格者を含む熟練作業員の確保が課題となっており、安全性を可視化する投資は人材の定着策としても位置づけられている。
5. ダイキン工業 — 家庭用・業務用エアコンの暑熱対策特需
空調機大手のダイキン工業は、2026年4〜6月期(2027年3月期第1四半期)の決算で、国内の業務用空調市場の需要が暑熱対策需要とオフィス・商業施設向け需要により堅調に推移し前年同期を上回ったと説明した。住宅用市場でも、2027年度の省エネ規制強化により価格が上昇するとの見通しを受けた買い替え需要が増加したという [1]。
欧州でも5月後半と6月後半の熱波によりフランス、ベルギー、オランダ、英国で高付加価値機種の販売が伸びたと報告されており、猛暑が国境を越えて空調機器の更新需要を押し上げている構図が確認できる。同社は低温暖化冷媒を採用したビル用マルチエアコン「VRV 7」など高付加価値商品を軸に提案を強化しているとしている [1]。
共通点と相違点
以下は、各社の取り組みを分野・製品・想定顧客で整理したものである。
| 企業 | 分野 | 製品・サービス | 主な対象 |
|---|---|---|---|
| ワークマン | アパレル | ペルチェ半導体冷却ベスト | 一般消費者・屋外作業者 |
| 戸田建設 | 建設 | ハイブリッド冷却作業着 | 自社施工現場の作業員 |
| WILLTEX | 資材・防災用品 | 特殊低温保冷剤「ICE ARMOR」 | インフラ保守・建設現場 |
| 朝日工業社 | 設備工事 | ウェアラブル体調管理「GenVital LTE」 | 協力会社を含む現場作業員 |
| ダイキン工業 | 空調機器 | 業務用・住宅用エアコン更新機種 | 企業施設・一般家庭 |
各社に共通するのは、猛暑が一過性の気象現象ではなく毎年発生する前提で製品開発や販売計画を組み立てている点である。ワークマンとダイキン工業は一般消費者・企業双方の需要を取り込む姿勢を明確にしており、戸田建設と朝日工業社は自社および協力会社の労働災害防止という内部統制的な動機が先行している。WILLTEXは電源に依存しない設計により、停電や配電制約がある現場でも機能する製品を打ち出している点で他社と異なる。
一方で価格帯や投資規模には差がある。ワークマンの冷却ベストは個人が数千〜数万円で購入できる消費財である一方、戸田建設や朝日工業社の取り組みは自社設備投資・システム導入としての性格が強く、直接の売上には計上されにくい。ダイキン工業は既存の空調機器更新サイクルに暑熱対策需要が上乗せされる形であり、規模としては最も大きい。
注意点・展望
これらの投資は、2025年6月施行の改正労働安全衛生規則により、一定の暑熱環境下で作業する事業者にWBGT測定や体調不良時の報告体制整備が義務付けられたことも背景にあるとみられる。規制対応と商品開発が同時並行で進んでいる点は、単なる季節商戦ではなく制度変化に連動した投資であることを示唆する。
ただし、各社の効果検証は自社発表の限定的な現場検証やアンケートに基づくものが多く、第三者機関による効果測定や長期的な普及率のデータは限られている。ペルチェ式冷却ウェアはバッテリー持続時間や重量、コストの制約があり、全ての現場・用途に一律で普及するとは限らない。猛暑関連の需要リスクを移転する仕組みとしてはパラメトリック型の熱中症保険も並行して拡大しており、製品投資と保険によるリスク移転は補完関係にあるとみられる。
Newscoda の見方
本サイトが注目するのは、猛暑対策が労働安全の分野にとどまらず、アパレル・建設・空調設備という業種を横断する投資領域に広がっている点である。特にワークマンのように、作業服市場で培った技術を一般消費財に転用する動きは、猛暑が特定業種のコストではなく市場全体の商品開発テーマになりつつあることを示す。
労働経済や保険商品を扱う既存の議論とは異なり、本稿は個別企業の製品・サービス戦略という具体レベルに焦点を当てた。
今後6〜12カ月で観察すべき変数は次の通りである。
- 各社の冷却ウェア・保冷剤の販売実績が2027年夏以降も継続的に拡大するか
- ウェアラブル型体調管理システムの導入企業数と、労働災害統計への影響
- 2027年度の省エネ規制強化がエアコン買い替え需要に与える持続的な効果
- 中小建設・設備工事事業者への安全技術の普及度合い
まとめ
2026年の記録的猛暑を受け、ワークマン、戸田建設、WILLTEX、朝日工業社、ダイキン工業といった業種の異なる企業が、それぞれの事業領域で熱中症対策関連の製品・サービス投資を進めている。アパレルでは一般消費者向けの冷却ウェア市場が拡大し、建設・設備工事では作業員の安全確保を目的とした冷却作業着やウェアラブル機器の導入が進む。空調機器メーカーでは既存の更新需要に暑熱対策需要が上乗せされる形で業績に寄与している。各社の取り組みは規模や動機に違いがあるものの、猛暑を恒常的な事業環境変化として織り込む姿勢は共通しており、今後の普及状況や効果検証の進展が注目される。
Sources
関連記事
- マーケット
MUFG時価総額首位、20年越しの統合史が示す資本市場での勝ち方
MUFGが2026年に日本企業の時価総額首位となった背景を、2000年代の大型経営統合から海外資本提携、ガバナンス改革に至る約20年の統合の歩みに沿って読み解き、他の企業統合への示唆を探る。
- オピニオン
任天堂における「社員と向き合う経営」の系譜と長寿企業への含意
任天堂の経営陣が社員との直接対話や文化伝承を重視する背景を、岩田聡元社長の経営哲学と現経営陣の公式発言から読み解き、136年続く同社の長寿経営とガバナンスの関係を検証する。
- ビジネス
コクヨ・電通・日立建機・テルモが相次ぐ本社移転、狙いを読む
2026年、大手企業の本社・拠点移転が相次いでいる。グラングリーン大阪や大手町・虎ノ門への移転事例を比較し、都心オフィス逼迫と人材獲得競争という共通の背景を整理する。
最新記事
- 経済
築地市場跡地9000億円再開発、単独メガプロジェクトの構図
築地市場跡地で総事業費約9000億円の再開発が2026年度に始動する。史上最大級の民間都市開発の計画・財源・波及効果を整理する。
- オピニオン
任天堂における「社員と向き合う経営」の系譜と長寿企業への含意
任天堂の経営陣が社員との直接対話や文化伝承を重視する背景を、岩田聡元社長の経営哲学と現経営陣の公式発言から読み解き、136年続く同社の長寿経営とガバナンスの関係を検証する。
- マーケット
MUFG時価総額首位、20年越しの統合史が示す資本市場での勝ち方
MUFGが2026年に日本企業の時価総額首位となった背景を、2000年代の大型経営統合から海外資本提携、ガバナンス改革に至る約20年の統合の歩みに沿って読み解き、他の企業統合への示唆を探る。