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容量市場と長期脱炭素電源オークション ― 電力投資を二分する日本の二つの入札制度、どちらが未来を決めるか

日本には電源への支払いを決める二つの入札制度がある。既存電源を含む全電源が対象の「容量市場」と、新規脱炭素電源に20年の固定収入を保証する「長期脱炭素電源オークション」だ。仕組みと直近の約定結果を比較し、投資判断・政策判断の軸を整理する。

Newscoda 編集部

はじめに

日本の電力市場には、どの発電設備に将来の対価を支払うかを決める二つの入札制度が並走している。一つは2020年度に創設された「容量市場」、もう一つは2023年度に始まった「長期脱炭素電源オークション」(LTDA)である。いずれも電力広域的運営推進機関(OCCTO)が運営し、小売電気事業者が費用を負担する点は共通するが、対象電源、契約期間、収入構造は大きく異なる。両制度は電力自由化以降に生じた「供給力不足リスク」と「脱炭素投資の停滞リスク」という二つの課題に、それぞれ別のアプローチで応答する形で設計された [3][4]。

2026年に入り、両制度の直近実績が相次いで公表された。長期脱炭素電源オークションは2026年5月13日、2025年度応札分の約定結果を発表し、約7.3GWが落札された [1]。容量市場も2028年度実需給向けの約定結果を2025年1月に公表しており、約定容量は約166.2万kW、約定総額は過去最高の約1.85兆円に達した [2]。AIデータセンター急拡大が世界の電力市場を揺さぶっていることが現実の投資判断として電力会社・データセンター事業者双方に突き付けられる中 [6][7]、この二つの制度がそれぞれ何を調達し、何を見送っているかを整理することは、電力コストと脱炭素の両立を評価するうえで欠かせない論点になっている。

両制度はいずれも「電力自由化後の日本で、誰がどの電源に対価を払うか」という問いへの答えであるが、その設計思想は対照的だ。容量市場は既存電源を含めた供給力全体の底上げを目指す「保険」的な仕組みであるのに対し、長期脱炭素電源オークションは新規の脱炭素投資に的を絞った「賭け」に近い。以下では両制度の仕組みと直近の約定実績を比較し、企業・投資家がどのような軸で読み解くべきかを整理する。

容量市場の構造

容量市場の仕組み

容量市場は、小売電気事業者から徴収する「容量拠出金」を原資として、OCCTOが実需給年度の4年前にオークションを実施し、必要な供給力を電源に確保させる制度である。対象は火力・原子力・水力・再生可能エネルギー・蓄電池まで、既存・新設を問わず技術を限定しない「技術中立」設計であり、単一の約定価格(クリアリングプライス)で全落札電源に支払いが行われる仕組みだ [4]。

制度の狙いは、出力が不安定な再生可能エネルギーが主力電源化する中でも、ピーク時に必要な供給力を全国レベルで確保することにある。自社電源を持たない小売電気事業者にとっては、発電設備への投資なしに供給力を調達できる利点もある [4]。2028年度実需給向けの約定結果では、対象容量の約定総容量が166.2万kW、約定総額は約1.85兆円と過去最高を更新した [2]。オークションは需要曲線方式を採用しており、供給力が需要見通しに対して余裕を持つほど約定価格は下がり、逼迫が見込まれるほど価格が上昇する構造になっている点も、単年度契約ならではの特徴である。

容量市場のメリット・デメリット

メリットは、全国規模での需給ギャップを事前に可視化し、電源の退出(廃止)を抑制することで、突発的な供給力不足を防ぐ点にある。単年度契約であるため制度の柔軟性が高く、毎年の需給状況に応じて調達量を調整できる。

デメリットとして指摘されるのは、技術中立ゆえに老朽化した石炭・LNG火力も新規投資なしに約定を得られる点である。再生可能エネルギー研究所(Renewable Energy Institute)は、容量市場が既存火力発電所の延命に寄与し、脱炭素の観点からは望ましくない結果を招きうると指摘している [5]。新規投資を直接誘導する仕組みを持たないため、脱炭素電源への転換を促す力は限定的とされる。

長期脱炭素電源オークションの構造

長期脱炭素電源オークションの仕組み

長期脱炭素電源オークションは、再生可能エネルギー、蓄電池(BESS)、原子力の安全対策投資、水素・アンモニア混焼、脱炭素ロードマップを提出したLNG火力など、脱炭素に資する新規投資案件を対象に、20年間にわたる固定容量収入を保証する制度である [1][3]。落札電源は、オークションで約定した固定額を毎年受け取る一方、卸電力取引市場や需給調整市場など他の市場で得た収入の約9割をOCCTOに返還する「収入相殺」型の契約設計となっている [5]。

2025年度応札分(第3回相当)の約定結果では、総容量約7.3GWが落札され、うち脱炭素電源カテゴリーが約4.26GW(募集目標5,000MWの約85%)、脱炭素ロードマップ提出済みのLNG火力が約3.04GWを占めた [1]。蓄電池は複数プロジェクトで約1.25GWが落札された一方、再エネ出力制御が全国で常態化する中で導入が進む蓄電池は放電時間要件の引き上げなど制度変更の影響を受けやすく、原子力関連の安全対策投資が脱炭素カテゴリーの中で最大シェアを占めるなど、技術間で落札容量に偏りが生じている [5]。過去の応札結果と比較すると、初回(2023年度応札分)の調達目標が4GW程度だったのに対し、回を重ねるごとに募集規模が拡大しており、制度が新規電源投資の主要な受け皿として定着しつつあることがうかがえる。

長期脱炭素電源オークションのメリット・デメリット

メリットは、20年という長期にわたる収入の確実性が、原子力再稼働がもたらす電力コスト構造の変化に関わる安全対策投資や、洋上風力、大型蓄電池のように投資回収に時間を要する案件のリスクを大幅に引き下げる点にある。容量市場と異なり、応募には脱炭素ロードマップの提出が求められるため、少なくとも制度上は脱炭素への意思表示を伴う投資に限定される [3]。

デメリットは、支援額が最終的に電気料金へ転嫁される構造にあることに加え、蓄電池と原子力関連投資に応札が集中し、他の脱炭素技術への投資誘導力が弱いとされる点である。さらに、LNG火力を「脱炭素ロードマップ提出」を条件に対象へ含めていることについては、実際の排出削減が2040年代までずれ込む計画も許容されており、「脱炭素オークション」という名称と実態の乖離を指摘する声もある [5]。

両者の比較

主要指標による横並び

比較項目容量市場長期脱炭素電源オークション
制度開始2020年度創設(初回実需給はFY2024)2023年度開始
調達対象既存・新設を問わず全電源(技術中立)新規投資・脱炭素電源に限定
契約期間単年度(実需給年度ごとに再調達)20年間の固定契約
収入構造オークション約定価格を一括受取固定容量収入、他市場収入の約9割を返還
直近実績FY2028向け約定166.2万kW、約定総額約1.85兆円(2025年1月公表)FY2025応札分約7.3GW落札、うち脱炭素4.26GW(2026年5月公表)
主目的供給力全体の維持・需給調整力の確保新規脱炭素電源への投資誘導
主な批判老朽火力の延命を招く蓄電池・原子力に偏重、LNG火力も対象化

適合ケースの違い

自社電源を持たない小売電気事業者や、短期的な供給力リスクへの備えを重視する事業者にとっては、容量市場が近い将来の調達を裏付ける役割を果たす。一方、原子力の安全対策投資や大型蓄電池、洋上風力のように投資回収に長期を要する案件を検討する事業者・投資家にとっては、20年の固定収入を提供する長期脱炭素電源オークションの方が資金調達の設計に適合しやすい。

データセンターなど大口需要の新規立地を検討する企業にとっては、どちらか一方の制度だけを見て電力調達の安定性を判断することはできない。短期の供給力確保は容量市場、中長期の新規脱炭素電源の積み増しは長期脱炭素電源オークションが担っており、両者の入札スケジュールと落札実績を合わせて見る必要がある [6][7]。

選択判断の軸

政策立案の観点では、短期的な供給信頼度(容量市場が担う領域)と中長期の脱炭素投資誘導(長期脱炭素電源オークションが担う領域)のバランスをどう設計するかが焦点になる。両制度の費用負担が最終的に電気料金に転嫁される以上、上限価格の設定や対象電源の線引きは、消費者負担と脱炭素目標達成の間のトレードオフそのものである。

投資家の観点では、単年度ごとに約定価格が変動する容量市場のキャッシュフロー特性と、20年固定収入だが他市場収入の大半を返還する長期脱炭素電源オークションの契約設計は、リスク・リターンの構造が根本的に異なる。プロジェクトの資本集約度や投資回収期間に応じて、どちらの制度に適合する案件かを見極めることが、電力インフラ投資の入口における重要な判断軸となる。

企業の電力調達担当者の観点では、自社が使う電力の供給責任を負う小売電気事業者が、容量市場・長期脱炭素電源オークションのどちらの負担をどの程度織り込んでいるかによって、将来の電気料金の変動要因が変わってくる。特に大量の電力を長期にわたって使用する製造業やデータセンター運営企業にとっては、単なる電力単価の比較だけでなく、供給元がどの制度の恩恵を受けている電源から調達しているかまで踏み込んで評価する必要が出てきている。

Newscoda の見方

本サイトが注目するのは、LNG火力が容量市場と長期脱炭素電源オークションの双方に応札できる「重複領域」の存在である。脱炭素ロードマップの提出さえ満たせば、既存の化石燃料電源が両制度から収入を得られる設計は、二つの入札制度が実質的に並行した収益源を提供しているに過ぎない可能性を示唆する。

他の解説の多くは長期脱炭素電源オークションを純粋な脱炭素投資の呼び水として紹介するが、直近の約定結果では脱炭素カテゴリーの中でも原子力関連の安全対策投資が最大シェアを占め、LNG火力も落札容量全体の4割超を占めた [1][5]。「脱炭素オークション」という名称から想起される内容と、実際の落札構成には距離があり、投資家や企業の電力調達担当者はこの点を踏まえて制度を評価する必要がある。

今後6〜12か月で観察すべき変数は以下の通りである。

  • AIデータセンター向け電力需要の拡大が、容量市場の約定価格・調達量にどう反映されるか [6][7]
  • 長期脱炭素電源オークションの次回募集で、蓄電池の放電時間要件や新たな支援枠組みの設計がどう変わるか
  • 容量市場の上限価格見直し論議が、消費者負担の増加という批判にどう応えるか
  • 原子力関連の落札容量が、実際の安全対策工事・再稼働スケジュールにどこまで反映されるか

なお、両制度のいずれについても、約定・落札はあくまで「収入の確約」であり、実際の発電所建設や安全対策工事の完工・稼働を保証するものではない。許認可手続きの遅延や資材・人員不足によって、約定容量が計画どおりに実需給へ反映されないリスクは常に残る。制度上の数字と、現場での実際の稼働状況を区別して読み解く姿勢が、投資判断・政策評価の双方で求められる。

まとめ

容量市場と長期脱炭素電源オークションは、いずれもOCCTOが運営し小売電気事業者が費用を負担する入札制度でありながら、対象電源・契約期間・収入構造において明確に異なる設計思想を持つ。容量市場は技術中立で既存電源を含めた供給力全体の維持を担い、長期脱炭素電源オークションは20年の固定収入で新規脱炭素投資のリスクを引き下げる。2026年に相次いで公表された約定結果は、前者が過去最高の約定総額を記録し、後者は蓄電池・原子力への偏重と一部火力の混在という課題を抱えたまま拡大している実態を映し出した。AIデータセンター需要の拡大という新たな変数が加わる中、両制度の設計と運用実績を継続的に検証することが、日本の電力投資とエネルギー安全保障を評価するうえでの前提条件になる。

Sources

  1. [1]電力広域的運営推進機関(OCCTO) — 長期脱炭素電源オークション 約定結果公表
  2. [2]電力広域的運営推進機関(OCCTO) — 容量市場 2028年度実需給向けメインオークション約定結果
  3. [3]電力広域的運営推進機関(OCCTO) — 長期脱炭素電源オークション制度解説
  4. [4]経済産業省 資源エネルギー庁 — 容量市場について
  5. [5]Renewable Energy Institute — コラム(容量市場・電源投資に関する分析)
  6. [6]Wood Mackenzie — Japan data centers power demand(プレスリリース)
  7. [7]BloombergNEF — AI and the power grid, where the rubber meets the road

よくある質問

容量市場と長期脱炭素電源オークションに、同じ電源が両方応札することはあるか
制度上は排他的ではない。LNG火力は両制度で契約実績があり、脱炭素ロードマップを提出すれば長期脱炭素電源オークションにも参加できる。既存電源の維持は容量市場、新規投資の誘導は長期脱炭素電源オークションという役割分担だが、対象範囲は一部重なる。
電気料金への影響はどちらの制度がより大きいか
両制度とも費用は小売電気事業者を経由して最終的に企業・家計に転嫁される。容量市場は容量拠出金として全国一律に上乗せされ、長期脱炭素電源オークションは対象電源への固定費支払い原資として料金の一部を構成する。どちらか一方だけを見て料金圧力を評価することはできない。
長期脱炭素電源オークションで落札した電源は必ず稼働するのか
落札は20年間の収入保証を意味するが、建設・稼働そのものを法的に強制するものではない。許認可手続きや資材・人員確保の遅延により、落札容量が計画どおりに実需給に反映されない可能性が指摘されている。
AIデータセンター向けの大口電力需要が増えると、どちらの制度がより重要になるか
短期の供給力確保には容量市場、長期的な脱炭素電源の積み増しには長期脱炭素電源オークションがそれぞれ機能する。データセンター事業者や誘致自治体は、両制度の入札スケジュールと約定結果を並行して注視する必要がある。

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