国際

米ウイグル強制労働防止法、執行強化が広げる調達網デューデリジェンスの重み

2022年施行の米UFLPAは2026年8月に新疆関連43社を追加し対象企業を187社に拡大した。法制化から直近措置までの執行強化の経緯と、中国依存の調達網を持つ日本製造業に求められる実務対応を時系列で整理する。

Newscoda 編集部

背景

出発点となった状況

新疆ウイグル自治区における強制労働の疑いは、綿花・ポリシリコン・トマトなど特定品目の生産工程をめぐって2010年代後半から国際的な指摘を受けてきた。米国では当初、個別品目・個別企業を対象とした税関の「輸入差し止め命令(Withhold Release Order)」による対応が先行し、太陽光パネル用ポリシリコンや綿製品など特定のサプライチェーンが個別に差し止めの対象となっていた。こうした個別対応の限界を踏まえ、米議会はより包括的な制度的枠組みを求める方向に舵を切り、2021年12月23日にウイグル強制労働防止法(UFLPA)を成立させた。同法は関税措置ではなく、特定地域・特定企業に由来する物品の「輸入そのものを原則禁止する」という、通商法上でも異例に強い規制手段を採用した点に特徴がある。関税がコストの上乗せであるのに対し、UFLPAは証拠を示せなければ通関自体が認められないという、より根源的な市場アクセス制限である。立法過程では、繊維・太陽光・農産品といった特定業種に限らず、あらゆる完成品メーカーが上流の原材料調達まで説明責任を負う設計が意図されており、単一のサプライチェーン監視法制としては当時最も強力な部類に位置づけられた。

構造的な前提

UFLPAの中核は、米国税関・国境警備局(CBP)が運用する「反証可能な推定(rebuttable presumption)」という法的仕組みである。新疆産の物品、または国土安全保障省(DHS)が議長を務める強制労働対策タスクフォース(FLETF、国務省・財務省・通商代表部・労働省なども参加)が指定する「エンティティリスト」掲載企業に関連する物品は、米国関税法19編1307条に基づき、強制労働で生産されたものと推定され、輸入者側が「明確かつ説得力のある証拠」を提示しない限り、通関が認められない[1]。挙証責任が輸入者側に転嫁される点で、単なる関税賦課とは異なる規制メカニズムである。エンティティリストへの掲載基準も、新疆域内で生産する企業に限らず、新疆産原材料を域外で加工する企業や、少数民族労働者の移送に関与する企業など複数のカテゴリーにまたがっており、対象範囲は制度上、新疆という地理的境界を越えて広がる設計になっている。

日本国内でも同時期に、経済産業省が2022年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定し、企業に人権デューデリジェンスの実施を求める行政指針を示した[2]。同ガイドラインは法的拘束力を持たない指針にとどまるが、UFLPAという米国の強制力を伴う輸入規制と時期を同じくして整備されたことで、日本企業にとって人権デューデリジェンスは「努力目標」ではなく「米国市場アクセスの前提条件」として認識される契機となった。

2022年6月: 第1局面

UFLPAの反証可能な推定規定は2022年6月21日に発効した。発効時点でFLETFが公表したエンティティリストの掲載企業数は20社にとどまっていたが、CBPは同時に「輸入者向け運用ガイダンス」を公表し、サプライチェーンの上流までさかのぼった証跡整備を輸入者に求める姿勢を明確にした。ガイダンスでは、原材料の調達地から製品の完成に至るまでの各工程を示すマッピング、労働者の雇用契約や賃金支払いの記録、輸送経路を示す書類など、通常の原産地証明を大きく上回る量の資料提出が想定されており、輸入者に相当な事務負担を課す制度設計となっていた。日本貿易振興機構(ジェトロ)は発効直後にこの執行戦略の暫定仮訳を公開し、日本企業がガイダンスの内容を母国語で直接参照できる体制を整えた[3]。この段階では対象がおおむね綿花・トマト・ポリシリコン関連に限定されており、影響を受ける日本企業は繊維・太陽光関連の一部に集中していたが、既にこの時点で、間接的に新疆産原材料を取り込む可能性のある電子部品や自動車部品のサプライヤーの間でも、調達先の再点検を始める動きが出ていた。

2023年-2024年: 第2局面

法施行から1年余りを経て、エンティティリストの拡大が本格化した。FLETFは年次戦略更新のたびに掲載企業を追加し、対象分野は当初の繊維・農産品から、アルミニウム・銅・リチウムなど鉱物・金属素材、さらに電子部品や食品加工分野へと段階的に広がった。CBPの統計によれば、制度発効から2026年初頭までに検査対象となった輸入貨物は累計で1万件超、金額にして数十億ドル規模に達し、強制労働の疑いを理由に差し止められた貨物も相当数にのぼるとされる[1]。年度ごとの検査件数は右肩上がりで推移しており、制度の運用が年を追うごとに厳格化していることを示す指標となっている。検査対象となった貨物のうち、輸入者が「明確かつ説得力のある証拠」を提示できずに差し止めが確定する割合も一定程度存在し、証拠提示のハードルの高さが実務上の課題として繰り返し指摘されてきた。

この局面の特徴は、対象がもはや「新疆域内で完結する生産」に限られなくなった点にある。掲載企業の中には新疆域外の省に所在しながら新疆産原材料を調達する加工業者や、ウイグル族などの労働者を新疆域外の工場に移送する仲介企業も含まれるようになった。これにより、部品や素材の原産地確認だけでは足りず、二次・三次サプライヤーの労働者構成や調達先まで遡及的に検証する必要性が高まった。自動車・電機分野など、サプライチェーンが多層化した業種の輸入者にとって、単一部品の混入が通関全体を停滞させるリスクが現実的な経営課題として認識されるようになった時期でもある。米国向け輸出比率の高い日本の完成品メーカーにとっては、自社が直接新疆と取引していなくても、二次・三次サプライヤーの先に新疆産原材料が紛れ込むリスクをどう管理するかが、この時期から実務上の焦点になっていった。業界団体の間でも、調達先の所在地情報を共有する仕組みや、サプライヤーへの質問票を通じた自主点検の枠組みづくりが進められ、個社対応から業種横断的な取り組みへと徐々に軸足が移っていった時期でもある。

2026年8月: 第3局面

2026年8月3日付の連邦官報告示により、UFLPAエンティティリストの掲載企業数は187社となり、単一回の追加としては制度発効以来最大規模の拡張となったことが確認された[4]。この拡張の根拠となったのは、2026年7月31日にDHSが発表した43社の追加措置である[5]。追加された43社のうち約半数は新疆域外の山東省・江蘇省・河南省など複数の省に所在しており、対象分野はアルミニウム・アパレル・銅・綿花・トマトを中心に、水産物・金・輸送インフラ関連にも及んでいる[5]。掲載企業数が発効時の20社から187社まで拡大した経緯を通してみると、制度が当初想定されていたよりも広範な業種・地域を取り込みながら成長してきたことが読み取れる。

米国務省も同時期に、人権侵害への関与を理由とした関連発表を行い、強制労働問題を外交的な人権課題としても位置づける姿勢を示した[6]。今回の追加により、CBPは8月3日以降、対象43社に関連する貨物すべてに反証可能な推定を適用し、上流サプライチェーンの完全な文書化を輸入者に求めている[4]。企業からみれば、追加が発表されてから発効までの期間が3日程度と極めて短く、既存の在庫や輸送中の貨物についても新たな挙証責任への対応を迫られる点が、これまでの拡張局面以上に実務上の負荷を高めている。エンティティリストの事前予測が事実上困難である以上、企業側は個別企業の掲載可否を後追いで確認するのではなく、調達先の業種・地域リスクを平時から継続的に評価しておく体制が求められる。

直近の動き

今回の措置は、2025年後半以降続く米中間の関税交渉・関税休戦の動きとは異なる文脈にあることに留意が必要である。関税休戦は品目別の追加関税率をめぐる交渉であり、双方の政治的合意により緩和・凍結され得る性質を持つ。一方でUFLPAのエンティティリスト拡張は、人権デューデリジェンスを根拠とする輸入禁止措置であり、行政手続として継続的に更新される制度である。関税交渉が進展しても、UFLPAに基づく輸入禁止は別建てで存続し、むしろ拡張が続いている点は、米中の関税休戦を追う上でも区別して理解する必要がある論点である。中国側はこうした措置を経済的威圧と批判しており、両国間の摩擦要因は関税以外の領域でも並行して積み上がっている。両者は交渉のテーブルも所管官庁も異なり、一方の緩和が他方の緩和を意味しない点が、企業のリスク管理上見落とされやすい。関税交渉の進展を受けて調達戦略の緊張が緩んだと判断し、人権デューデリジェンス体制への投資を後回しにする経営判断は、UFLPAの執行実態と整合しないリスクを抱えることになる。

今後の展望

エンティティリストの拡大傾向は、今後も年次戦略更新のタイミングで継続する可能性が高い。ジェトロが2026年3月にまとめた報告書は、サプライチェーンと人権に関する法制化の動きが米国だけでなく世界的に広がっており、企業側に恒常的な人権デューデリジェンス体制の構築を求める傾向が強まっていると指摘している[7]。欧州連合でも強制労働品の域内流通を禁じる規則の整備が進んでおり、米国とは別の法域でも同種の挙証責任が輸入者側に課される流れが強まりつつある。日本企業にとっての実務的な論点は、対象企業リストの逐次確認にとどまらず、二次・三次サプライヤーの所在地・労働者構成を継続的に追跡する仕組みをどう構築するかに移りつつある。中国依存度の高い部品・原材料を扱う製造業では、経済安全保障推進法に基づく国内制度対応と合わせ、調達網の多元化・可視化への投資が避けられない局面に入っている。この点は、米中関税と日本の供給網を巡る議論とも接続する論点であり、関税リスクと人権デューデリジェンスリスクを別々の管理体制で捉える必要性が高まっている。調達部門と法務・コンプライアンス部門が別々にリスクを管理してきた企業では、両者の情報を統合し、エンティティリストの更新を経営情報として定期的に取り込む体制の整備が今後の課題になる。

Newscoda の見方

Newscoda としては、UFLPAの執行強化が単発の制裁措置ではなく、制度として恒常的に拡張し続ける仕組みである点に注目する。エンティティリストは年次戦略更新のたびに拡大されており、企業側が一度整備した調達網の証跡管理を継続的に更新し続けなければならない構造になっていると考える。

他の解説の多くは今回の43社追加を単発ニュースとして扱う傾向があるが、Newscoda としては2022年の発効時20社から2026年8月の187社までの拡大曲線そのものが、規制強度の予見可能な高まりを示す指標であるとみる。関税交渉の動向とは独立して進む点も見落とされやすい。

今後6〜12か月で観察すべき変数は次の通りである。

  • FLETFの次回年次戦略更新でエンティティリストがどの分野に拡張されるか
  • CBPの貨物差し止め件数・金額が四半期ごとにどう推移するか
  • 日本企業を含む非中国系企業のサプライチェーンで新たな差し止め事例が発生するか
  • EUなど他地域の強制労働規制がUFLPAとどの程度足並みを揃えるか

まとめ

UFLPAは2022年6月の発効時点では20社規模の小さなエンティティリストから出発したが、2023年から2024年にかけて対象分野を鉱物・金属・食品加工へと広げ、2026年8月には43社の一括追加により187社体制へと拡大した。この執行強化は関税交渉とは独立した人権デューデリジェンスの規制軸であり、中国依存のサプライチェーンを持つ日本の製造業にとっては、対象企業リストの確認にとどまらない、二次・三次サプライヤーまで遡る継続的な調達網管理体制の構築が実務上の課題として残されている。制度が拡張を続ける限り、この課題は一過性の対応では終わらず、恒常的な経営機能として組み込む必要がある。

Sources

  1. [1]Uyghur Forced Labor Prevention Act Enforcement Statistics
  2. [2]日本政府は「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定しました
  3. [3]ジェトロ、米国のウイグル強制労働防止法(UFLPA)執行戦略の暫定仮訳を公開
  4. [4]Notice Regarding the Uyghur Forced Labor Prevention Act Entity List
  5. [5]DHS Announces the Addition of 43 Companies to the UFLPA Entity List
  6. [6]Additions to the Uyghur Forced Labor Prevention Act Entity List
  7. [7]「サプライチェーンと人権」に関する法制化動向(全世界編 第3版)

関連記事

最新記事