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海運同盟「2M解体」後の4陣営 — ゲミニ・プレミア・オーシャン・MSC単独を比較する

2025年に2Mアライアンスが解体し、コンテナ海運の勢力図はゲミニ・コーポレーション、プレミア・アライアンス、オーシャン・アライアンス、単独路線のMSCの4陣営に再編された。日本のONEが属する陣営の位置づけと荷主への影響を整理する。

Newscoda 編集部

概要

2025年1月末、世界最大級のコンテナ船社であるマースク(デンマーク)とMSC(スイス)が2015年から10年間続けてきた「2Mアライアンス」を解消した[1]。この解体を起点に、世界のコンテナ海運の勢力図は大きく塗り替わった。マースクはハパックロイド(ドイツ)と新たに「ゲミニ・コーポレーション」を結成し、MSCは同盟を組まず単独路線を選択した。一方、日本の邦船3社(日本郵船・商船三井・川崎汽船)が出資するONE(オーシャン・ネットワーク・エクスプレス)は、HMM(韓国)・陽明海運(台湾)とともに従来の「ザ・アライアンス」を「プレミア・アライアンス」に改称して継続する道を選んだ[3]。さらにCMA CGM(フランス)・COSCO(中国)・エバーグリーン(台湾)・OOCL(香港)による「オーシャン・アライアンス」も存続しており、世界の基幹航路は事実上4陣営に集約されている。

コンテナ海運は世界の物品貿易量の8割以上を運ぶ基幹インフラであり[4]、寄港地の組み合わせや便数がわずかに変わるだけでも、製造業のリードタイム設計や在庫水準の前提が揺らぐ。その供給構造の変化は荷主企業の調達コストや納期管理に直結する。紅海航路の混乱と迂回が続く現状(紅海航路の正常化と海運コストで詳述)に加え、アライアンス再編という構造要因が重なることで、2026年の運賃・航路サービスは複雑な変動局面に入っている。本稿では4陣営それぞれの戦略と、それが日本企業にもたらす含意をリスト形式で整理する。

1. ゲミニ・コーポレーション(マースク×ハパックロイド)

ゲミニ・コーポレーションは2025年2月1日に稼働を開始した、マースクとハパックロイドによる2社間の協業体制である[2]。両社は船腹量ベースでマースクが約60%、ハパックロイドが約40%を拠出し、紅海情勢の不安定化を受けて就航当初から喜望峰迂回を前提としたネットワークを組んだ経緯がある。ネットワークは東西基幹航路を結ぶ29の幹線サービスと、地域内輸送を担う機動的なシャトルサービス群から構成され、投入船腹は約340隻・総積載能力は約370万TEUに達する。アジア〜米国西岸・米国東岸・中東・地中海・北欧州に加え、中東〜インド〜欧州を結ぶ路線群までを網羅しており、従来の広域コンソーシアム型よりも運航主体を絞り込むことで意思決定を単純化し、定時性を担保しやすくする狙いがあるとされる。

このアライアンスの最大の特徴は、従来型の広範な多社間コンソーシアムではなく、2社に限定した「ハブ・アンド・スポーク」型の運航モデルを採用し、定時性(スケジュール信頼性)を前面に押し出した点にある。ハパックロイドは稼働開始時点で90%超の信頼性を達成目標に掲げ、実際に稼働1年を経た2026年時点でアジア・北欧州や大西洋横断航路では95%を超える実績を公表している[2]。これは、コロナ禍以降の混乱で常態化した遅延・欠便への不満を意識した差別化戦略であり、荷主にとっては在庫計画の精度を左右する重要な指標となる。

2. プレミア・アライアンス(ONE・HMM・陽明海運)

プレミア・アライアンスは、ONE・HMM・陽明海運の3社が2025年2月から5年間の協業継続を確認した枠組みである[3]。アジア〜北米西岸・北米東岸・地中海・北欧州・中東の主要東西航路をカバーし、ONEのジェレミー・ニクソンCEOは「3社の緊密な連携をさらに強化する」とコメントしている[3]。この枠組みの前身は2016年にハパックロイドを含む複数社で発足した「ザ・アライアンス」であり、ハパックロイドがマースクとの協業に軸足を移してゲミニを結成したことで、残る3社が名称を改め純化された体制として再出発した経緯がある。参加社数が絞られたことで意思疎通のコストは下がる一方、単独の船腹規模ではゲミニやオーシャン・アライアンスに見劣りするため、最大手MSCとの部分的な連携で航路網の厚みを補う戦略が採られている。

日本企業にとって重要なのは、ONEが日本郵船・商船三井・川崎汽船の3社が共同出資する日本発の統合コンテナ船会社であり、プレミア・アライアンスが日本の外航海運政策における事実上の中核陣営である点だ。加えてプレミア陣営は、単独路線を選んだMSCとの間でアジア〜欧州航路9サービスにおけるスロット交換協定を締結しており、規模で劣る3社連合が最大手MSCの航路網を部分的に借りることで競争力を補完する構図になっている。国土交通省港湾局の資料でも、京浜港・阪神港の欧州向け航路便数がこの再編を経て増加する見通しが示されている[5]。

3. オーシャン・アライアンス(CMA CGM・COSCO・エバーグリーン・OOCL)

オーシャン・アライアンスは、フランスのCMA CGM、中国のCOSCO、台湾のエバーグリーン、香港のOOCLの4社体制を維持し、2032年までの長期継続契約という他陣営にない安定性を打ち出している。2017年発足のこの枠組みは、アジア〜北米・アジア〜欧州の双方の基幹航路で高いシェアを持つ4社の連合であり、合計の投入船腹規模は4陣営の中でも最大級に位置づけられる。4陣営の中で唯一、大幅な組み替えを経ずに再編の波を乗り切った陣営であり、既存の航路網・寄港パターンをそのまま活かせる点が荷主にとっての安心材料となっている。長期契約という枠組み自体が、他陣営が信頼性強化や単独化に動く中での「変わらないこと」を競争力に転化する試みとも言える。

一方でこの陣営は中国船社の存在感が大きく、米中間の関税・海事政策を巡る緊張の影響を受けやすい構造的リスクも抱える。米国では中国建造船・中国船社に対する入港料賦課などの政策論議が続いており、オーシャン・アライアンスの航路運営コストに波及する可能性は荷主が注視すべき変数の一つである。

4. MSC単独路線 — 非同盟という賭け

世界最大の船腹量を持つMSCは、2Mアライアンス解消後、いずれの新陣営にも加わらず単独運航を選んだ[1]。2Mアライアンスはマースクとの間で2015年に発足し、当時世界最大級の2社が船腹を持ち寄る枠組みとして10年にわたり基幹航路を主導してきたが、2025年1月末の解消により両社は袂を分かった[1]。以後MSCは自社単独でアジア〜地中海・アジア〜北米西岸・アジア〜北米東岸・アジア〜北欧州・大西洋横断の5系統・34ループの東西ネットワークを構築し、規模の経済によって同盟に頼らない機動力を追求する戦略である。

MSCの船腹量は東西基幹航路だけで330万TEUを超えるとされ、単独でも主要アライアンス1陣営に匹敵する規模を持つ。ただし同盟を組まないことは、需給調整の柔軟性という利点と引き換えに、市況悪化時に単独でリスクを吸収せざるを得ないという脆弱性も意味する。プレミア・アライアンスとのスロット交換協定は、この単独路線を部分的に補完する仕組みとして機能している。

共通点と相違点

陣営主な参加船社戦略の重心日本との関わり
ゲミニ・コーポレーションマースク、ハパックロイド定時性・信頼性の数値目標化直接出資なし、寄港地として利用
プレミア・アライアンスONE、HMM、陽明海運既存協業の名称変更による継続、MSCとのスロット交換ONEに邦船3社が出資、事実上の中核陣営
オーシャン・アライアンスCMA CGM、COSCO、エバーグリーン、OOCL長期契約(2032年まで)による安定継続直接出資なし、米中摩擦の波及リスクに注意
MSC単独路線MSC単独規模の経済による非同盟運営プレミア陣営とのスロット交換で間接的に接続

4陣営に共通するのは、コロナ禍後の混乱を経て「信頼性」と「柔軟な需給調整」を同時に追求する必要に迫られている点である。相違点は、それを同盟の規模で担保するか(オーシャン・アライアンス)、2社限定の緊密な運航で担保するか(ゲミニ)、既存の協業関係を維持しつつ最大手との個別協定で補完するか(プレミア)、自己完結的な船腹規模で担保するか(MSC)という戦略の分岐にある。

注意点・展望

再編後の構造は、必ずしも安定的な均衡ではない。第一に、UNCTADの分析が指摘する通り、上位陣営への船腹集中は特定の海峡・運河などの戦略的チョークポイントへの依存度を高め、地政学リスクが運賃変動に直結しやすい構造を強めている[4]。パナマ運河渇水が示した気候リスクのように、チョークポイントは地政学だけでなく気候変動という物理的リスクにも晒されており、少数陣営への集中はこうしたショックの波及範囲を拡大させる可能性がある。第二に、世界銀行の分析では、2025年後半にかけて新造船投入による供給拡大が運賃下落圧力として顕在化しており、アライアンス再編に伴う航路の重複整理が完了する過程で一時的な運賃乱高下が起きやすい局面にある[6]。運賃の下振れは短期的には荷主のコスト負担を軽くする一方、船社側の採算悪化を通じて減便・統廃合の圧力として跳ね返る可能性があり、単純に歓迎できる材料とは言い切れない。

第三に、紅海航路の正常化が本格化した場合、各陣営が喜望峰迂回で確保していた「見かけ上の需給ひっ迫」が解消され、供給過剰が一気に表面化するリスクがある。これは紅海航路を巡る海運コスト構造の分析とも直結する要因であり、荷主企業は特定陣営の運賃動向だけでなく、業界全体の船腹稼働率を継続的に監視する必要がある。また、新造船ラッシュの背景にある造船業の3極競争の動向も、中期的な供給圧力を左右する要因として無視できない。

Newscoda の見方

Newscoda としては、今回の再編で焦点となるのは各陣営の船腹規模そのものよりも、荷主企業が直面する「航路選択の実質的な幅」がどう変化したかにあると考える。表面上は4陣営体制で選択肢が維持されているように見えるが、プレミア・アライアンスとMSCのスロット交換のように陣営間の相互依存が強まっており、実質的な競争単位はより少数に収斂しつつある可能性がある。

他の論調では信頼性向上や定時運航率の改善が強調されがちだが、本サイトはむしろ日本の外航海運政策にとっての意味に注目する。邦船3社の統合体であるONEがプレミア陣営の中核を担う構図は、日本の輸出入インフラが特定陣営の戦略判断に強く連動することを意味し、陣営間のシェア変動や協定見直しが日本の港湾政策にも波及しうる。

今後6〜12か月で観察すべき変数は次の通りである。

  • プレミア・アライアンスとMSCのスロット交換協定が更新・拡大されるか、それとも縮小に向かうか
  • 紅海航路の正常化ペースと、それに伴う各陣営の航路再編・供給過剰の顕在化時期
  • 米国の対中海事政策(中国建造船・中国船社への追加負担議論)がオーシャン・アライアンスの運航コストに与える影響
  • 新造船竣工ラッシュによる船腹供給増と、UNCTAD・世界銀行が指摘する運賃下落圧力の推移
  • 日本の港湾(京浜・阪神)における欧州・北米航路の便数・寄港頻度の変化

まとめ

2025年の2Mアライアンス解消を起点に、コンテナ海運はゲミニ・コーポレーション、プレミア・アライアンス、オーシャン・アライアンス、MSC単独路線という4陣営体制に再編された。ゲミニは信頼性の数値目標化、プレミアは既存協業の継続とMSCとの個別協定、オーシャンは長期契約による安定性、MSCは規模の経済による非同盟戦略と、各陣営の重心は異なる。日本企業にとってはONEが属するプレミア陣営の動向が直接的な関心事となるが、紅海航路の正常化や新造船供給の増加といった構造要因が重なる中、特定陣営の戦略だけでなく業界全体の需給バランスを注視する視点が求められる。

Sources

  1. [1]Maersk and MSC to discontinue 2M alliance in 2025 — Maersk
  2. [2]Gemini Cooperation launches operations — Hapag-Lloyd
  3. [3]ONE, HMM and Yang Ming Confirm the Alliance Partnership — Ocean Network Express
  4. [4]Review of Maritime Transport 2025 — UNCTAD
  5. [5]港湾・海運を取り巻く状況 — 国土交通省港湾局
  6. [6]Trade and Development Chart — Freight Rates Fall Even as Stress Remains — World Bank

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