米制裁下で存在感を増すファーウェイ——スマホと5G市場に見る輸出規制の効果と限界
対中輸出規制下でもファーウェイはスマートフォン国内シェア首位級を奪還し、5Gインフラでも世界シェアを拡大している。復調の実態と輸出規制の効果を巡る評価の分岐を一次情報から検証する。
はじめに
米国政府が2019年にファーウェイをエンティティリストに追加してから7年が経過した。半導体製造装置、EUV露光技術、Googleモバイルサービス(GMS)への接続——ファーウェイが浴びた輸出規制の範囲は、スマートフォンの心臓部から通信インフラの中枢まで及んだ。当時、多くの市場関係者は同社のグローバル展開が事実上終わったと見なした。
しかし2026年半ばの現在、状況は当初の予想と異なる推移を見せている。中国国内のスマートフォン市場でファーウェイは四半期ベースで首位級のシェアを回復し、通信機器(5Gインフラ)市場でも世界シェアを拡大させている[1][3]。同時に、同社の主要製品はいまだ最先端の半導体製造プロセスにアクセスできず、欧米同盟国の通信網からは排除が進む[7]。この「復調」と「制約」が併存する構造は、米国の対中輸出規制の効果そのものを巡る評価の分岐を映し出している。本稿ではスマートフォン・通信機器の両市場における実態、そして規制効果を巡る対立する見方を整理する。
スマートフォン市場での復調
国内シェア奪還の実態
IDCが2026年7月に公表したデータによれば、同年第2四半期の中国スマートフォン市場でファーウェイの出荷台数シェアは22.6%に達し、前年同期の18.1%から大きく伸びた。同社の出荷台数は前年同期比19.4%増となり、市場全体が5四半期連続で縮小する(同期は前年比4.3%減、出荷台数は約6,600万台)中での際立った成長だった[1]。
この成長の背景には、価格戦略の巧みさがある。メモリー・部材コストの上昇を受けて多くのAndroid系メーカーが値上げに動く中、ファーウェイは価格を据え置いたまま販促を強化した。Apple(iPhone)も同様の戦略でシェアを18.1%(前年13.9%)まで伸ばしており、両社が高価格帯の需要を取り込む形で市場全体の縮小から相対的に浮上している構図が見て取れる[1]。上位6社で中国市場の約96%を占める寡占構造の中、ファーウェイは価格を維持できるブランド力と国内サプライチェーンの掌握力を武器にしている。
年間を通じた業績にも回復は表れている。ファーウェイが2026年3月に公表した2025年度決算では、売上高が880.9億元(前年比2.2%増)、純利益は68億元、研究開発費は192.3億元(売上高比21.8%)に達した。スマートフォンを含む端末事業(コンシューマー・ビジネスグループ)の売上高は344.5億元で前年比1.6%増となり、2024年の急回復(前年比38.3%増)からは伸びが鈍化したものの、プラス成長を維持した[2]。これは、米国の禁輸措置下にあった2019〜2022年の落ち込みからの持続的な回復軌道を示す数字だ。
GMS非搭載・HarmonyOSという制約下での戦略
ファーウェイのスマートフォンは今もGoogleのAndroid OSおよびGoogleモバイルサービス(GMS)——Playストア、Gmail、マップなど——を搭載できない。この制約は、Google関連サービスへの依存度が高い北米・欧州・多くの新興国市場において依然として大きなハンディキャップだ。同社はこの制約を、独自OS「HarmonyOS」(HarmonyOS NEXT)への全面移行と、代替サービス群「ファーウェイ・モバイル・サービス(HMS)」の拡充で乗り越えようとしている[2]。
HarmonyOS NEXTはAndroidのコードベースから完全に切り離された独自カーネルを採用し、認証・決済・位置情報・AI機能などGMSが担っていた機能をHMSで代替する設計だ。この戦略が奏功する市場は事実上、中国国内に限定される。海外のアプリ開発者やサービス事業者にとって、Android互換性を失ったHarmonyOS向けに個別対応するコストは高く、ファーウェイの「グローバル復権」は実質的に国内市場での復調にとどまっているとみるのが妥当だ。中国国内では政府調達や国有企業を中心とした「国産化」需要がファーウェイ製品への切り替えを後押ししており、これが同社のシェア回復を支える構造的な追い風になっている。半導体分野での同様の国産代替の動きはNVIDIA H20の対中輸出規制とアジアAI半導体需要の再編を扱う記事でも確認できる。
通信機器(5Gインフラ)市場での存在感
グローバルシェアの推移
スマートフォン以上に、ファーウェイの本業ともいえるのが通信機器(RAN=無線アクセスネットワーク)事業だ。調査会社Omdiaのデータをもとにした報道によれば、ファーウェイは2025年に世界のRAN市場で売上ベースの首位を維持し、前年比で1ポイント以上シェアを拡大させた。中国国内の投資が減速する一方で、アジア太平洋・中東・アフリカ・ラテンアメリカなど新興市場での案件獲得がシェア拡大を牽引した[3]。
エリクソン、ノキア、サムスン、富士通といった競合各社のシェアはほぼ横ばいで推移した一方、中国国内依存度の高いZTEは中国以外の市場でシェアを落とさなかったものの、全体シェアを落とした。ファーウェイが新興国市場に照準を合わせた価格競争力と一括インフラ提供能力を武器に、非中国市場でも着実にシェアを積み増している構図が浮かぶ[3]。2026年のRAN市場全体は中国を除けば緩やかな成長が見込まれる一方、中国国内の投資は減速が見込まれており、ファーウェイの成長エンジンは相対的に海外案件へとシフトしつつある。
米国同盟国との摩擦・排除の動き
一方で、米国の同盟国におけるファーウェイ排除の動きは着実に進展している。欧州委員会は2020年に「高リスクベンダー」の排除を勧告して以来、これを法的拘束力のある規制に格上げする検討を進めている。欧州委員会のヘナ・ヴィルクネン副委員長はこの勧告を正式な規制に転換する作業を主導しており、対象は5G・次世代通信網に加え、EUが進める光ファイバー網拡張プロジェクトにも及ぶ見通しだ[7]。
加盟国レベルでは既に個別の対応が進んでいる。ドイツは2026年から制限措置を開始する計画で、フィンランドはファーウェイ排除の対象を拡大、英国は既にファーウェイ製品の使用制限を実施済みで、スウェーデンも両社(ファーウェイ・ZTE)に対するセキュリティ措置を講じている。規則が法的拘束力を持つ規制になれば、従わない加盟国は違反手続きや制裁金の対象になり得る[7]。米国はこうした同盟国の排除の動きを、サイバースパイや通信途絶のリスクを懸念する形で後押ししてきた経緯があり、対中デカップリングの一断面として通商政策全体とも連動している。関連する構造は米中デカップリングの全体像を扱う総合解説記事でも整理されている。
米国輸出規制の効果を巡る評価の分岐
「規制は自国開発を加速させた」という見方
シンクタンクである情報技術・イノベーション財団(ITIF)のダニエル・カストロ氏は、対中半導体輸出規制がむしろ米国の戦略目標を損なっていると論じる。5年前、中国企業はNvidiaのAIチップとCUDAプラットフォームに事実上依存していたが、規制強化を経て中国企業は独自の代替エコシステム構築を加速させた。その最大の受益者がファーウェイであり、同社は研究開発と生産能力の拡大を進めてきた[4]。
カストロ氏は、DeepSeekのR1モデル公開後、新たに開発された中国製AIモデルのダウンロード数が他のどの国のモデルよりも多くなったと指摘し、中国の産業団体や政府機関がむしろ米国製品への回帰に否定的な姿勢を強めていると述べる。米国企業が失う顧客一件ごとに、競合する中国製エコシステムの拡大に資金が流れる構造になっているというのが同氏の懸念だ。この見方に立てば、ファーウェイの通信機器・スマートフォン両市場での復調は、輸出規制が生んだ「意図せざる結果」の象徴的な事例ということになる[4]。
「規制は依然として有効」という見方
一方、米戦略国際問題研究所(CSIS)の分析は、輸出規制が短期的には確かな効果を発揮したと評価する。規制強化は中国の半導体エコシステムに深刻な混乱をもたらし、価格高騰と人員削減を招いた。中国の半導体産業は、ASMLのEUV露光装置を利用できないまま、多重露光(マルチパターニング)などの代替技術で微細化を進めざるを得ず、依然として最先端プロセスから世代的に遅れた水準にとどまっている[5]。
同時にCSISの分析は、規制の実効性には限界があるとも指摘する。半導体は小型で密輸が容易な物資であり、実際にファーウェイとTSMCが関与したとされる200万個規模のチップレット密輸事案なども報告されている。米商務省産業安全保障局(BIS)は2026年1月、先端コンピューティング半導体の対中輸出審査方針を、事実上の全面禁止から個別審査制に転換する規則を施行した。ただしこの転換は無条件の緩和ではなく、対象製品の性能上限(処理性能・メモリー帯域)、供給量に関する認証、第三者検査、KYCや遠隔アクセス管理など複数の要件を満たすことが条件とされており、規制当局が中国の先端プロセスへのアクセスを引き続き選別的に管理しようとする姿勢がうかがえる[5][6]。
両者の分析に共通するのは、規制が中国の技術的自立を「加速」させたという事実認識自体は共有しつつ、その帰結を「米国の戦略的失敗」と見るか「時間を稼ぐための必要なコスト」と見るかで評価が分かれている点だ。ファーウェイの復調は、この論争のどちらの立場からも自らの主張を補強する材料として引用されうる、両義的な事例になっている。
注意点・展望
ファーウェイの復調を評価する際には、いくつかの留保が必要だ。第一に、スマートフォン市場での成長は中国国内に強く偏っている。GMS非搭載という制約が解消されない限り、北米・西欧・日本を含む先進国市場での本格的な販売回復は見込みにくい[2]。第二に、通信機器市場での成長も、欧米同盟国市場ではむしろシェアを失う方向にあり、新興国市場への依存度が高まっている構造は、地政学リスクの集中という別の脆弱性を生んでいる[7]。
第三に、半導体の製造能力そのものは依然として制約が大きい。SMICを中心とする国内ファウンドリーはEUV装置を持たないまま微細化を進めており、歩留まりや量産規模の面で最先端ファウンドリーとの差は残る[5]。ファーウェイの「復調」は、需要側(市場シェア)では顕著だが、供給側(半導体製造能力)では依然として制約下にあるという非対称性を理解しておく必要がある。中国のハイテク産業全体に共通するこの回復パターンは、中国テック産業の規制後回復を分析した記事で扱われている構図とも重なる。
今後6〜12か月では、BISの個別審査制度が実際にどの程度の輸出承認を生み出すか、EUの排除規制が法制化されるか、そしてファーウェイのAscend系AIチップの量産歩留まりが改善するかが、規制の実効性を測る試金石になる。
Newscoda の見方
本サイトが注目するのは、ファーウェイの「復調」が需要側と供給側で非対称に進行している点だ。市場シェアという指標では中国国内スマートフォン・グローバル通信機器の両方で明確な回復が確認できるが、その基盤となる先端半導体の製造能力は依然として制約下にある。この非対称性を無視して「規制は失敗した」あるいは「規制は効いている」のどちらか一方だけを強調する論調には注意が必要だ。
他の解説と異なる視点として、本サイトは通信機器市場での「非中国同盟国市場からの排除」と「新興国市場でのシェア拡大」が同時進行している点を重視する。これは規制の効果がグローバルに均一ではなく、市場ごとに異なる形で表れていることを示しており、単一の「効いている/効いていない」という二元論では実態を捉えきれない。
今後6〜12か月で観察すべき変数は以下の通りだ。
- BISの個別審査制度における対中輸出承認の実際の件数と対象品目
- EUの高リスクベンダー排除規制の法制化スケジュールと加盟国の対応状況
- ファーウェイAscend系AIチップの量産歩留まりとSMICの微細化進捗
- HarmonyOS NEXTのグローバル展開状況とアプリエコシステムの拡充度
- 中国国内スマートフォン市場における政府調達・国産化政策の継続性
まとめ
ファーウェイは対中輸出規制の継続下にありながら、中国国内スマートフォン市場と世界の通信機器市場の双方で明確な回復を遂げている。2026年第2四半期の中国スマートフォンシェアは22.6%、通信機器市場でも世界シェアを拡大させ、2025年度の売上高は880.9億元に達した[1][2][3]。その一方で、同社は依然としてGMSや最先端半導体製造技術へのアクセスを絶たれており、欧米同盟国市場からの排除も進行している[5][6][7]。
この構造は、米国の対中輸出規制の効果を巡る評価が単純な「成功」か「失敗」かの二元論では捉えきれないことを示している。規制が中国の技術的自立を促した側面と、依然として先端プロセスへのアクセスを制限し続けている側面は、同時に存在する。ファーウェイという単一企業の動向を追うことは、この複雑な規制効果の全体像を理解するための有効な視座を提供する。
Sources
- [1]Why Huawei and Apple Grew While China's Smartphone Market Fell Again in Q2 2026 — IDC
- [2]Huawei's cloud computing revenue dropped in 2025 as Chinese AI lagged U.S. rivals — CNBC
- [3]Huawei defies US to grow market share as RAN decline ends — Omdia data via Light Reading
- [4]The China Chip Strategy That Is Backfiring on America — Tech Policy Press (ITIF)
- [5]The Limits of Chip Export Controls in Meeting the China Challenge — CSIS
- [6]Revision to License Review Policy for Advanced Computing Commodities — Federal Register / BIS
- [7]EU Considers Law to Phase Out Huawei and ZTE Equipment From Bloc's Telecom Networks — TechCrunch
よくある質問
- ファーウェイはなぜ制裁下でもスマートフォンの中国国内シェアを回復できたのか
- 国内サプライチェーンの掌握と価格据え置き戦略に加え、政府調達や国有企業を中心とした国産化需要が追い風となった。2026年第2四半期には中国市場シェアが22.6%に達し、前年同期の18.1%から拡大した。
- ファーウェイはGoogleのアプリやOSを使えないのか
- 使えない。2019年の禁輸措置以降、AndroidおよびGoogleモバイルサービス(GMS)へのアクセスを絶たれており、独自OS「HarmonyOS NEXT」と代替サービス群HMSへの全面移行で対応している。この制約が海外市場での販売拡大を制限している。
- 通信機器(5Gインフラ)市場でファーウェイはどの程度のシェアを持つのか
- 調査会社データによれば、ファーウェイは世界のRAN(無線アクセスネットワーク)市場で売上ベースの首位を維持し、2025年には前年比で1ポイント以上シェアを拡大した。成長は主に新興国市場でのシェア獲得による。
- 米国の対中輸出規制はファーウェイに対して効果を上げているのか
- 評価は分かれている。規制が中国の半導体自立化を加速させ結果的に米国企業の市場を奪ったとする見方と、依然として最先端の製造プロセスへのアクセスを制限できているとする見方が併存し、決着していない。
- 欧州はファーウェイの通信機器排除を進めているのか
- 進めている。欧州委員会は2020年の勧告を法的拘束力のある規制に格上げする検討を進めており、ドイツ・フィンランド・英国・スウェーデンなど加盟国は個別に排除・制限措置を講じている。
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