経済

相続登記義務化3年目の実像 — 未登記不動産と国庫帰属地「投げ売り」の構造

2024年施行の相続登記義務化は2027年3月に経過措置期限を迎える。過去の相続分の駆け込み登記が焦点となる一方、国が引き取った相続土地では評価額を最大93%引き下げる異例の処分策が浮上した。制度3年目の到達点と残る課題を整理する。

Newscoda 編集部

はじめに

相続をきっかけに不動産の所有者が分からなくなる「所有者不明土地」問題への対応として、2024年4月に相続登記の申請義務化が始まってから3年目を迎えている。過去に発生していた相続についても登記が義務付けられ、その経過措置期限は2027年3月31日に設定されている [1]。今日の時点で、この期限までの猶予は1年に満たない。

制度の柱は「登記の空白」を減らすことにあるが、現場ではむしろ別の構造問題が浮かび上がっている。国が引き取った相続土地の処分に行き詰まりが生じ、評価額を最大93%引き下げるという異例の対応が財政制度等審議会で示された [5]。義務化の入口と国庫帰属という出口が、同時に軋みを見せている格好だ。制度開始から積み上がった実務データをもとに、相続登記義務化がどこまで効果を上げ、どこに新たな課題を生んでいるのかを整理する。すでに空き家の実態や流動化政策を扱った空き家問題の経済的コストと政策対応とも重なる論点だが、本稿では「登記」という制度インフラそのものに焦点を当てる。

所有者不明土地問題は、単発の制度改正で解決する性質のものではない。2018年前後の法制審議会での議論を起点に、2021年の民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法の制定、そして2024年の登記義務化という複数の立法を積み重ねてきた経緯がある [6]。その意味で、義務化3年目の到達点を確認する作業は、一連の政策パッケージ全体の効果検証でもある。

経過措置期限が迫る相続登記義務化

制度設計と過料の運用実態

相続登記の申請義務化は、相続によって不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内の登記を求める制度で、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象となる [1][2]。運用面では、登記官がまず催告書を送付し、指定期限内に登記がされない場合に限って裁判所へ通知される二段階の仕組みが採られている [2]。相続人の数が多く戸籍謄本の収集に時間がかかる場合や、遺産分割協議が争いになっている場合などは「正当な理由」として扱われ、直ちに過料が科されるわけではない [2]。

この制度設計は、罰則よりも登記を促す誘導効果を優先したものと読める。あわせて、相続人のうち1人が「相続人申告登記」という簡易な手続きを行えば義務を一旦果たしたとみなす仕組みも用意されており、遺産分割が長期化するケースへの配慮がなされている [1]。相続人申告登記は、法定相続人であることと不動産を取得した事実を法務局に申し出るだけで済み、戸籍一式の収集や持分の確定を要する本来の相続登記に比べて手続きの負担が軽い。

もっとも、簡易な申告制度はあくまで応急措置であり、最終的な権利関係を確定させる本来の相続登記が先送りされる余地も残る。相続人申告登記をした後に遺産分割協議がまとまった場合は、別途その内容を反映した登記が必要になるため、行政手続き上の「一旦の適法状態」と、権利関係が実質的に整理された状態との間にはなお距離がある [2]。この二段階構造をどう埋めていくかは、義務化の実効性を評価するうえで見落とされやすい論点だ。

「知らない」層と駆け込み登記の実務負担

義務化から3年目に入り、制度の周知は進んだとみられるが、経過措置対象となる「過去の相続」の登記が2027年3月の期限に向けてどこまで駆け込み的に集中するかは不透明だ。相続登記には被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式や、相続人全員の戸籍・住民票の収集が必要で、専門家に依頼する場合は登録免許税に加えて司法書士報酬も発生する [2]。経済的困窮を理由とする猶予は「正当な理由」として認められ得るが、登記自体が免除されるわけではなく、費用負担の問題は制度の実効性を左右する要因として残り続けている。

数世代にわたって放置された不動産では、相続人の数が数十人規模に膨らんでいるケースも珍しくない。この場合、戸籍の収集だけで数か月を要し、相続人の一部と連絡が取れないまま期限を迎えるリスクも生じる。法務省のQ&Aは、こうしたケースを「正当な理由」の典型例として挙げているが、個別の該当性は登記官の判断に委ねられており、経過措置期限が近づくほど法務局の相談窓口や司法書士への依頼が集中し、実務上のボトルネックとなる可能性がある [2]。

未登記不動産が引き起こす構造的コスト

所有者不明土地の面積とその発生原因

国土交通省が地籍調査対象地区を基に行った実態把握では、不動産登記簿だけでは所有者の所在が判明しない土地が全体の約2割に上ることが示されている [4]。この調査は、全国約1,130地区・558市区町村・約62万筆を対象に行われたもので、限られたサンプルながら継続的に実施されている点で信頼性の高いデータとされる [4]。発生原因の内訳を見ると、相続の際に登記名義が変更されないケースが最も多くを占め、次いで所有者の転居に伴う住所変更登記の未了が続く [4]。土地の管理不全は個々の所有者の問題にとどまらず、隣接地の活用や道路整備、防災対策の障害となり、地域単位でのコストとして顕在化しやすい。

さらに国土交通省は、追加的な対策が講じられなければ、所有者不明土地の面積は将来的に拡大を続け、2040年時点で720万ヘクタール規模に達し得るとの試算を示している [4]。これは都道府県で言えば北海道に匹敵する規模であり、単なる私有財産の管理不全にとどまらず、国土利用計画全体に影響し得る規模感であることを示唆している。

制度の起点をたどれば、所有者不明土地対策は2018年前後の法制審議会での議論に始まり、2021年の民法・不動産登記法改正、そして相続土地国庫帰属法の制定という一連の立法プロセスを経て今日の義務化に至っている [6]。財務総合研究所の研究報告は、対策の重心が「発生後の利用促進」から「発生予防」へと移ってきた経緯を整理しており、登記義務化はその予防策の中核に位置付けられる [6]。

災害復旧・固定資産税・都市計画への影響

所有者の所在が不明な不動産は、災害復旧や再開発、道路整備といった公共性の高い事業において合意形成の障害になりやすい。所有者の探索に要する時間とコストは、事業の遅延という形で自治体財政にも跳ね返る。国土交通省の分析でも、対策が進まない場合には将来的に所有者不明土地面積がさらに拡大する可能性が指摘されており、登記制度の実効性確保は単なる私権の整理にとどまらない公共政策上の課題として位置付けられている [4]。

固定資産税の賦課にも影響が及ぶ。所有者の所在が確認できなければ、自治体は納税義務者を特定できず、本来徴収できるはずの税収が得られない事態が生じる。人口減少が進む地域ほど所有者不明化のリスクが高い傾向にあり、税収基盤が細る自治体ほど問題への対応余力が乏しいという逆説的な構図も指摘されている。高齢化に伴う資産の世代間移転が今後さらに増えることを踏まえれば、この論点は高齢者金融資産の流動化政策とも密接に関わる。

国庫帰属地「投げ売り」化の背景

相続土地国庫帰属制度の仕組みと申請動向

2023年4月に始まった相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈で土地を取得した人が、一定の要件を満たせばその土地を国庫に帰属させられる制度だ [3]。建物が存在する土地や担保権が設定された土地、境界が確定していない土地、崖地など通常の管理に過分な費用や労力を要する土地などは対象から除外され、申請には審査手数料に加えて、10年分の標準的な管理費相当額を負担金として納付する必要がある [3]。制度は「管理できない土地を持ち続けるリスク」を回避する選択肢として設計されたが、対象要件の厳格さから申請できるケースは限られる。

負担金の存在は制度の設計思想を象徴している。土地を無償で引き渡すのではなく、将来の管理コストをあらかじめ相続人側に一部負担させることで、国庫帰属後の財政負担を抑える狙いがある。裏を返せば、管理コストを払ってでも手放したいと考える相続人が一定数存在するほど、日本の相続不動産には「負動産」化した土地が広く分布していることを示唆する。

評価額最大93%引き下げという異例の処分策

問題は、国が引き取った後の土地である。これまで一般競争入札で買い手を募ってきたが、宅地などの売却実績はゼロにとどまり、維持管理費だけが積み上がる状態が続いていた。財政制度等審議会の第68回国有財産分科会は2026年6月17日、随意契約による売却を可能にした上で、測量や地下埋設物調査を省く「現状有姿売買」を採用し、当初評価額をまず3割程度下げ、需要がなければ3カ月ごとに1割ずつ、下限を当初評価額の7%まで引き下げる方針の資料を示した [5]。

この処分策は、国有財産の管理コストを圧縮する狙いがある一方、資産価値の毀損という側面も伴う。国が土地を引き取る制度自体は所有者不明化の予防策として導入されたが、引き取った後の出口が「投げ売り」に近い形にならざるを得ない現実は、制度の持続可能性という観点からも注視が必要だ。

一般競争入札での売却実績がゼロだったという事実は、国庫に帰属した土地の多くが、そもそも市場性に乏しい山林や条件の悪い宅地に偏っていることを裏付けている。随意契約への切り替えは、入札という公平性を重視した手続きを一部緩和してでも、滞留する国有財産を圧縮する必要に迫られた結果と見ることができる。評価額の段階的な引き下げ幅が当初想定より大きい点は、国自身が「値付けの失敗」を認めた形とも言え、今後の国有財産管理のあり方に一石を投じるものとなりそうだ。

注意点・展望

登記義務化と国庫帰属制度は、いずれも「土地を管理可能な状態に保つ」という目的で導入された制度だが、2027年3月の経過措置期限を境に、駆け込み登記の増加や相談窓口の混雑といった実務上の摩擦が生じる可能性がある。あわせて、国庫帰属地の評価額引き下げが恒常化すれば、将来的な土地の手放しやすさが逆に相続人の判断を左右し、国庫帰属の申請件数そのものを押し上げる可能性もある。制度間の相互作用を見極める必要がある局面だ。

もう一つの論点は、未登記不動産のうち土地以上に把握が遅れている建物への対応である。表題部所有者不明土地の登記適正化法は土地を主な対象として制度設計されており、建物の所有者把握は土地に比べて制度的な手当てが薄い。今後、建物分野での探索・登記支援の枠組みがどこまで整備されるかが、不動産全体の管理不全解消の進捗を左右するとみられる。

制度の効果を測る指標としては、登記件数や過料の適用件数といった量的な数字だけでなく、国庫帰属地の滞留期間や売却単価の推移といった質的なデータも重要になる。負担金や評価額引き下げ幅の設計次第では、相続人が「登記して保有し続ける」か「国庫に帰属させて手放す」かの選択に歪みが生じる可能性もあり、両制度の運用実績を継続的に突き合わせる視点が欠かせない。

Newscoda の見方

本サイトとして注目するのは、相続登記義務化という「入口」の制度整備が進む一方で、国庫帰属制度という「出口」が価格の大幅な下振れなしには機能しない状態にあるという、制度全体の非対称性だ。義務化によって登記件数が増えても、その先に「引き取っても売れない土地」が積み上がるのであれば、所有者不明化の予防効果は限定的なものにとどまりかねない。

多くの解説は義務化の周知度や過料の有無に焦点を当てがちだが、Newscodaとしては、国有財産としての管理コストと評価額の下方修正という財政面の帰結まで含めて制度を評価すべきだと考える。相続登記の促進策と国庫帰属の出口整備は、本来一体で設計されるべき政策領域であり、人口減少下の地方都市が直面する構造課題とも重なる形で、地方の土地需要そのものの縮小という根本要因への対応が問われている。

今後6〜12か月で観察すべき変数:

  • 2027年3月の経過措置期限に向けた相続登記の申請件数の推移
  • 国庫帰属地の評価額引き下げ後の実際の売却成約件数
  • 建物分野における所有者探索・登記支援策の制度化の有無
  • 自治体レベルでの固定資産税課税漏れ対応の進捗

まとめ

相続登記義務化は2024年の施行から3年目を迎え、2027年3月の経過措置期限接近とともに、駆け込み登記の増加や実務負担の顕在化という新たな局面に入りつつある。所有者不明土地の面積は依然として全国の約2割に及び、発生原因の多くを相続登記の未了が占める構造は変わっていない。加えて、国が引き取った相続土地の処分では評価額を最大93%引き下げる異例の方針が示され、制度の「入口」と「出口」の間にある非対称性が明確になった。登記義務化の効果を測る上では、申請件数の増減だけでなく、国庫帰属地の処分実績や建物分野への制度拡張の動向まで含めた複眼的な観察が求められる。

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Sources

  1. [1]法務省 — 相続登記の申請義務化について
  2. [2]法務省 — 相続登記の申請義務化に関するQ&A
  3. [3]法務省 — 相続土地国庫帰属制度について
  4. [4]国土交通省 — 所有者不明土地の実態把握の状況について
  5. [5]財政制度等審議会 第68回国有財産分科会 提出資料「相続土地国庫帰属財産の評価」
  6. [6]財務総合研究所 ランチミーティング資料「所有者不明土地問題と政策動向」

よくある質問

相続登記の義務化はいつから始まり、いつまでに登記すればよいのか?
2024年4月1日に施行された改正不動産登記法により、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の登記申請が義務化された。施行日より前に発生していた相続についても対象となり、この場合は2027年3月31日と、取得を知った日から3年後のいずれか遅い日までに登記する必要がある。
正当な理由なく相続登記を怠った場合、どのような罰則があるのか?
正当な理由なく登記義務を怠ると、不動産登記法第164条に基づき10万円以下の過料の対象となる。登記官が催告書を送付し、期限内に登記されない場合は裁判所に義務違反が通知される仕組みで、相続人が多数で戸籍収集に時間がかかる場合などは「正当な理由」として猶予され得る。
相続した土地を管理しきれず手放したい場合、どのような選択肢があるか?
2023年に始まった相続土地国庫帰属制度を使えば、一定の要件を満たす土地の所有権を国庫に帰属させることができる。ただし建物や担保権が付いた土地などは対象外で、審査手数料や10年分の管理費相当額の負担金も必要になる。
なぜ国が引き取った土地の評価額を最大93%も下げる方針が出たのか?
国庫帰属地は一般競争入札で買い手を募ってきたが宅地などの売却実績はゼロで、維持管理コストだけが積み上がっていた。財政制度等審議会は2026年6月の会合で、随意契約を可能にし、需要がなければ3カ月ごとに評価額を1割ずつ下げる仕組みを示し、下限を当初評価額の7%とする方針を明らかにした。

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