経済

地方鉄道「廃線第3波」— 名鉄・JR北海道・平成筑豊の損益分岐点

名鉄広見線、福岡の平成筑豊鉄道、JR北海道の赤字8路線が、資本関係のないまま同時期に廃線・バス転換へと動いた。3者に共通する費用構造と自治体負担の損益分岐点を分析する。

Newscoda 編集部

背景

出発点となった状況(人口減少と赤字ローカル線の構造)

2026年、日本各地の赤字ローカル線をめぐる意思決定が、短期間のうちに相次いで表面化した。福岡県筑豊地方を走る第三セクター・平成筑豊鉄道は3月にバス転換の方針を決議し、東海地方の名古屋鉄道(名鉄)は8月に広見線の一部区間の廃止を発表した。北海道では、JR北海道の赤字路線をめぐる自治体との本格協議が続いている。3社は資本関係もなく、路線の性格も観光路線・生活路線・幹線接続路線とそれぞれ異なるが、行き着く先の選択肢は「鉄道の維持」か「バスなど他モードへの転換」かという同じ二択に収れんしつつある。

国内では過去30年間で1,366kmの鉄道路線が廃止されており、これは営業キロベースで全国のネットワークの約5%に相当するとされる。廃止のペースは加速しており、1996年度からの10年間で387km、続く10年間で445km、直近10年間(2016~2025年度)では534kmが廃止された。北海道はこの30年間の廃止延長のおよそ3分の1を占めるとされる [1]。国鉄分割民営化(1987年4月)以降、自家用車保有率の上昇や道路網の整備、地方の人口減少・高齢化が進み、鉄道の存在意義そのものが問い直される環境が続いてきたことが、この長期トレンドの背景にあるとされる [1]。

構造的な前提(設備更新コストと運転士不足)

これまでの廃線議論の多くは、利用者数の減少という需要側の要因で語られてきた。しかし2026年に相次いだ3件の事案に共通するのは、供給側のコスト構造の変化である。国土交通省は地域公共交通活性化再生法に基づく「リ・デザイン」制度の中で、鉄道の維持が困難な区間について、施設保有と運行を分離する上下分離方式や、バス・BRTへの転換など複数の再構築メニューを自治体・事業者に提示している [2]。この制度設計自体が、単純な「存続か廃止か」ではなく、費用負担の主体をどう組み替えるかという損益分岐点の問題として整理されていることを示している。

物価高と人件費上昇により、レールや橋梁、信号設備といった鉄道特有の固定資産の更新投資額は上振れしており、老朽化した設備を放置すれば運行の安全性そのものに関わる。加えて、運転士や保守要員の採用難が全国的な課題となっており、輸送密度が低い区間ほど、要員一人当たりの輸送量で見た生産性が低下しやすい。バス転換は、道路インフラを新たに整備する必要がなく、車両単価も鉄道車両より低く、路線の増減便や経路変更の柔軟性も高いため、自治体の財政負担という一点で比較すると鉄道より優位に立ちやすい。この構造が、性格の異なる3つの路線において、ほぼ同じタイミングで同じ結論を導いた背景にあると考えられる。

鉄道の固定費は、線路や信号、変電設備といった長期に減価償却する資産に集中しており、利用者が減っても維持費はほとんど減らない。これに対しバスは、道路という既存インフラを利用するため事業者側の固定資産負担が小さく、需要の増減に応じて便数や車両規模を調整しやすい。輸送密度が一定水準を下回った区間では、この固定費と可変費の配分の違いが、自治体が最終的に負担する金額の差として表面化する。名鉄・平成筑豊鉄道・JR北海道のいずれの事案でも、協議の過程で上下分離方式による鉄道維持案が検討されながら、最終的にその負担額の大きさが判断材料として明示された点は共通している。

2026年3月: 平成筑豊鉄道のバス転換決定

平成筑豊鉄道は、福岡県田川市などの筑豊地方を営業エリアとし、伊田線・糸田線・田川線の3路線・約49kmを運営する第三セクター鉄道である。同社と沿線の田川市・直方市・行橋市など9市町村、福岡県で構成する法定協議会「平成筑豊鉄道沿線地域公共交通協議会」は、2025年12月の会合で選択肢を「上下分離方式による鉄道存続」「BRT転換」「路線バス転換」の3案に絞り込んだ。2026年2月16日の第8回会合では、行橋市・小竹町・赤村の3自治体が、自治体負担が最も軽いことを理由に路線バス転換を支持する意向を示した。過去の試算では、鉄道を維持した場合の年間赤字額は約10億円に上るとされていた。

こうした協議を経て、福岡県は2026年3月25日、法定協議会が「鉄道を廃止し、バスへ転換する」との大きな方向性を決議したと公表した [3]。平成筑豊鉄道自身も公式サイトで、協議会の決議結果を踏まえたバス転換の方針を明らかにしている [4]。ただし具体的な廃止時期は決定しておらず、2026年度中に鉄道が直ちになくなるわけではなく、当面は現行の運行を継続するとされる。福岡県と沿線市町村は2026年度中に、詳細な地域公共交通計画の策定に着手する見通しである。赤字負担割合が最大となる田川市は、全体の赤字の23.58%を負担してきたとされ、この負担構造が沿線自治体の判断を後押しした一因とみられる。

2026年8月: 名鉄広見線の廃止方針表明

名古屋鉄道は2026年8月3日、広見線のうち新可児駅~御嵩駅間(岐阜県内、明智・顔戸・御嵩口・御嵩の4駅を含む7.4km区間)を2029年4月1日付で廃止すると発表した [5]。同区間は1920年に開業し、地域の生活路線として長く運行されてきたが、利用者数の減少に歯止めがかからない状況が続いていた。名鉄は、設備の老朽化により抜本的な更新投資が避けられない一方、物価高騰や人件費上昇による事業費の増加、災害発生時の復旧費用負担なども重なり、路線の維持が困難になったとしている。

この発表に先立ち、沿線の可児市・御嵩町・八百津町の3市町は2025年8月から、自治体が線路など施設を保有し名鉄が運行のみを担う「みなし上下分離方式」による存続を軸に協議を重ねてきた。しかし可児市の公表によれば、この方式では年間約3.4億円の自治体負担が発生する見込みとなり、持続的な運行が可能かという課題も残ったことから、2026年8月上旬に協議終了が公表された [6]。これを受けて名鉄は取締役会で廃止を決議した。同時に、3市町と名鉄は令和9(2027)年度以降の当面の運営継続に向け、2年間で年額1億円(御嵩町7,000万円、可児市3,000万円、八百津町0円)の運営費支援を行う協定を締結しており、廃止までの移行期間についても費用負担の枠組みが明文化された点が特徴である。

JR北海道8路線: 自治体協議の本格化

JR北海道は2016年11月、自社単独では維持が困難な線区を公表して以来、輸送密度200人未満の5線区については原則廃止・バス転換の方針を掲げ、2019年から2024年にかけて複数区間を廃止してきた。残る課題が、輸送密度200人以上2,000人未満とされる「黄色線区」8路線(釧網線、根室線滝川~富良野間、根室線釧路~根室間(花咲線)、富良野線、石北線、宗谷線名寄~稚内間、室蘭線苫小牧~岩見沢間、日高線苫小牧~鵡川間)である。

JR北海道は2026年4月15日、社長会見でこの8線区を維持する仕組みの構築に向けた考え方を公表した [7]。同社によれば、8線区合計の2024年度営業収益は約27億円に対し、営業費用は約174億円に達し、差し引き約148億円の赤字となっている。同社が示した方向性は、自治体が線路・駅・信号設備、場合によっては車両までを保有し、JR北海道が運行のみを担って収益に応じた使用料を支払う上下分離方式を軸に、沿線自治体や北海道と個別に協議を進めるというものである。JR北海道は2026年度末までに、線区ごとの改善方策を取りまとめる方針を示しており、最終的に路線ごとに「上下分離での存続」「バス転換」「廃線」のいずれかの結論を得ることが求められている。沿線自治体側では、新たな財政負担への賛否が分かれており、前向きな投資と位置づけて受け入れを検討する自治体がある一方、将来像の提示を先に求める自治体もあるとされる。

直近の動き

3件の事案を時系列で並べると、2026年3月に平成筑豊鉄道がバス転換の方向性を決議し、同年4月にJR北海道が黄色線区の上下分離方式による維持の枠組み検討を公表し、同年8月に名鉄が広見線の一部区間の廃止を正式発表するという流れになる。いずれのケースでも、自治体側は上下分離という「鉄道を残しつつ負担を分担する」選択肢を検討したうえで、最終的にバス転換や廃止に傾く、あるいは上下分離の実現可能性そのものが問われる展開をたどっている。可児市周辺の年間3.4億円という負担額、平成筑豊鉄道沿線の年間10億円という赤字試算、JR北海道8線区の年間148億円という赤字規模は、路線の規模も性格も異なるが、いずれも自治体単独では負担しきれない水準として共有されている点が共通する。

今後の展望

今後の焦点は、JR北海道8線区について2026年度末までにどのような結論が示されるかにある。上下分離方式を受け入れる自治体が一定数出てくるのか、あるいは財政負担への反発から結局バス転換や廃線に傾く区間が増えるのかが、他の地方私鉄・第三セクターの判断にも波及しうる。また、平成筑豊鉄道・名鉄広見線とも、廃止・転換までの移行期間中に運営費支援の枠組みを設けており、こうした「移行期の費用分担モデル」が他地域の事例でもテンプレート化していくかどうかも注視点となる。国土交通省の「リ・デザイン」制度が示す再構築メニューが、今後どの程度実際の合意形成に使われていくかも、地方鉄道の将来像を左右する要素となる [2]。

バス転換が決まった場合でも、課題がすぐに解消するわけではない。バス業界自体も運転手不足が深刻であり、鉄道からバスへ需要が移った際に、増便に必要な人員を確保できるかどうかは別の制約となる。国土交通省の資料でも、バス運転者不足の問題は地域公共交通の再構築を検討するうえでの前提条件として位置づけられており [2]、廃線・転換の決定はゴールではなく、代替輸送の持続可能性という次の論点の出発点になる。全国で1,366kmの路線が過去30年で失われ、そのペースが加速している事実は [1]、個々の路線の判断が積み重なった結果であると同時に、次の10年でさらに廃止対象となりうる区間が全国に存在することも示唆している。

Newscoda の見方

本サイトが注目するのは、資本関係も路線の性格も異なる名鉄・平成筑豊鉄道・JR北海道が、2026年という同じ年に独立して同種の結論に至った点である。これは個別事業者の経営判断というより、設備更新コストの上振れと人手不足が全国のローカル線に共通の損益分岐点を切り下げた、構造的な転換点である可能性を示唆する。

他の解説の多くは廃線を地域文化や郷愁の喪失として語りがちだが、本サイトはバス転換と鉄道維持それぞれの単位当たり自治体負担額という数字の比較に焦点を当てる立場を取る。上下分離方式が「鉄道を残す穏当な妥協案」として語られやすい一方、実際には自治体の財政力次第で選択肢から脱落する事例が相次いでいる点は、過小評価されやすい論点である。

今後6~12か月で観察すべき変数は以下の通りである。

  • JR北海道8線区について、2026年度末までにどの区間で結論が得られるか
  • 他の地方私鉄・第三セクターで同種のバス転換表明が続くか
  • 上下分離方式が実際に採用される事例がどの程度出てくるか
  • バス運転手不足が転換後の代替輸送の持続性にどう波及するか
  • 移行期の運営費支援モデルが他地域の協議にも広がるか

まとめ

2026年、名古屋鉄道の広見線一部区間、平成筑豊鉄道、JR北海道の赤字8路線という性格の異なる3つの事例が、ほぼ同じ時期に廃線またはバス転換へと動いた。背景には、人口減少による需要縮小に加え、物価高・人件費上昇による設備更新コストの増大と運転士不足という供給側の制約がある。上下分離方式による鉄道存続が検討されたものの、いずれのケースでも自治体負担の大きさが障壁となり、最終的にバス転換や廃止という結論、あるいはその方向での本格協議に至った。今後はJR北海道8線区の結論時期をはじめ、同様の判断が他地域にも広がるかどうかが焦点となる。アフターコロナ期の鉄道運賃改定人口減少と地方都市財政の議論とも重なる、地方インフラ維持の費用負担をめぐる構造問題として、今後も推移を追う必要がある。人手不足による運輸業の倒産動向とあわせて見ると、運転士不足が路線の存続可能性そのものを左右し始めている実態も浮かび上がる。

Sources

  1. [1]Recommendations to save Japan's rural railways issued(Railway Gazette International)
  2. [2]地域公共交通の「リ・デザイン」に関する制度について(国土交通省)
  3. [3]平成筑豊鉄道の今後のあり方に関する大きな方向性の決議結果を報告します(福岡県庁)
  4. [4]大きな方向性の決議(バス転換)について(平成筑豊鉄道 公式サイト)
  5. [5]MEITETSU NEWS RELEASE 広見線 新可児駅~御嵩駅間の廃止について(名古屋鉄道株式会社)
  6. [6]名鉄広見線(新可児駅~御嵩駅間)について(可児市)
  7. [7]黄8線区を維持する仕組みの構築に向けた当社の考えについて(JR北海道)

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