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「管理職になりたくない」構造はなぜ日本で突出するのか — 国際比較で読む昇進忌避

日本企業の管理職ポジションに占める女性比率はOECD諸国で最下位水準にとどまる。内部昇進を軸とする日本型管理職モデルと、欧米で広がるジョブ型・外部登用モデルを比較し、なり手不足の構造的な要因を検証する。

Newscoda 編集部

はじめに

日本企業の民間セクターにおける管理職に占める女性の比率は、2020年時点でわずか13%にとどまるとされる。同時期の米国41%、英国37%、フランス36%、ドイツ・デンマークがそれぞれ28%、そして韓国16%と比較しても、日本の水準は際立って低い [1]。これは単に女性登用の遅れという論点にとどまらず、日本の管理職ポジションそのものが持つ構造的な特殊性を映し出す指標でもある。

日本では管理職への昇進を望まない従業員の比率が高いことが繰り返し指摘されてきた。この「なり手不足」は性別を問わず広がっている現象だが、その根底には日本型の「内部昇進」管理職モデルと、欧米で主流のジョブ型・外部登用モデルとの構造的な違いがある。本稿ではこの二つのモデルを比較し、日本の管理職なり手不足がなぜここまで深刻化しているのかを検証する。

内閣府男女共同参画局が公表する報告書も、日本における女性の政治・行政・経済の各分野でのリーダーシップポジションへの参画の遅れを繰り返し指摘しており、これは単一の業界や企業に限られた課題ではなく、日本社会全体の意思決定構造に関わる論点であることを示している [4]。管理職なり手不足という現象は、性別による偏りという切り口だけでなく、管理職という職務そのものの設計に根差した、より広い構造問題として捉える必要がある。

Aの構造 — 日本型「内部昇進」管理職モデル

仕組み

日本の大企業における管理職は、伝統的に新卒一括採用で入社した社員が長期間の内部育成を経て昇進する「内部昇進」モデルを基本としてきた。管理職ポジションは特定の専門スキルを評価されて外部から登用されるものではなく、勤続年数と社内評価の蓄積によって到達する地位という性格が強い。JILPTの調査は、管理職の労務管理上の決定権限や裁量、処遇、労働時間管理のあり方について、事業所・管理職双方への調査を通じて実態を把握しており、管理職の職務範囲が労務管理・現場業務の両方にまたがる「プレイングマネージャー」化が進んでいる実態を示している [5]。

メリット・デメリット

内部昇進モデルのメリットは、長期雇用を前提とした人材育成投資が可能になる点、組織固有の知識・人脈を蓄積した人材が管理職に就くことで組織運営の連続性が保たれる点にある。一方でデメリットも大きい。管理職への昇進が「専門職としての選択」ではなく「年次による通過点」として位置づけられやすく、管理職固有の職務内容に応じた処遇の再設計が遅れがちになる。さらに、管理職は労務管理という新たな役割を担いながら、従来のプレイヤーとしての業務も手放せない「二重負担」構造に陥りやすく、これが昇進の魅力を削ぐ一因となっている。

この二重負担構造は、労働基準法上の管理監督者の扱いとも関係している。管理監督者に該当すると判断されれば時間外労働の割増賃金の対象外となる一方、実際の職務内容が一般社員とほとんど変わらない「名ばかり管理職」も指摘されてきた。JILPTの調査が管理職の労働時間管理や深夜労働の割増賃金の取扱いを詳細に調べている背景には、管理職の処遇と職務負担のバランスが必ずしも適切に設計されていないという問題意識がある [5]。昇進によって裁量権と責任は増える一方、時間外手当の対象から外れることで実質的な時間当たりの処遇が悪化するケースも生じており、これが「昇進は割に合わない」という認識を後押ししている。

Bの構造 — 国際的にみた管理職市場(欧米・OECD平均)

仕組み

欧米諸国における管理職ポジションの多くは、特定の職務(ジョブ)に対する採用という性格が強く、社内からの内部昇進だけでなく、他社での管理職経験を持つ人材を外部から登用する流動性の高い労働市場が機能している。管理職という職務は、一般職とは明確に異なる職務記述書(ジョブディスクリプション)と報酬体系によって定義され、管理職に就くことは「昇進」というよりも「異なる職務への転換」として扱われる傾向が強い。

メリット・デメリット

このモデルのメリットは、管理職としての適性・専門性を評価基準にできる点、そして管理職ポジションに見合った報酬プレミアムを設定しやすい点にある。ジョブ型雇用が浸透した労働市場では、管理職への転換は明確な処遇改善を伴うことが多く、昇進を回避する誘因が生じにくい。一方でデメリットとしては、外部労働市場への依存度が高いため、組織固有の暗黙知やチームの結束が内部昇進モデルに比べて蓄積されにくいこと、また管理職の流動性が高いことによる組織運営の不連続性が挙げられる。

OECDの分析が示す管理職に占める女性比率の国際比較は、この制度的な違いを裏付けている。ジョブ型雇用が浸透した米国・英国・フランスでは、管理職への登用が内部昇進のみに限定されないため、多様な人材を評価基準に基づいて登用しやすい構造になっている [1][2]。一方で、内部昇進モデルが根強い日本・韓国では、既存の従業員構成やこれまでの評価の蓄積がそのまま管理職の構成に反映されやすく、多様性の面で不利になりやすい。もっとも、ジョブ型モデルにも課題がないわけではなく、外部登用に伴う採用コストの増大や、短期的な成果を求められる管理職の心理的プレッシャーの高さは、欧米企業でもしばしば指摘される論点である。

両者の比較

主要指標による横並び

指標日本型(内部昇進モデル)欧米型(ジョブ型・外部登用モデル)
管理職に占める女性比率約13%(2020年)米国41%・英国37%・仏36%・独28% [1]
管理職への登用経路主に内部昇進内部昇進+外部登用の併用
管理職の職務規定曖昧・現場業務との兼務が多い職務記述書で明確化
昇進に伴う処遇変化プレミアムが限定的明確な処遇改善を伴うことが多い

OECDの雇用アウトルック分析でも、日本の労働市場における管理職層の流動性の低さと、それに伴う人材配置の硬直性が指摘されている [3]。ジェンダー平等に関する国際比較でも、日本は管理職登用における多様性の欠如という点で他のOECD諸国から後れを取っている構造が繰り返し確認されている [2][4]。この差は単年度の偶然の結果ではなく、内部昇進という登用経路が長期にわたり同質的な人材構成を再生産し続けてきたことの帰結であり、制度を変えない限り自然に縮小することは考えにくい。

適合ケースの違い

内部昇進モデルが機能しやすいのは、事業環境の変化が緩やかで、組織固有の知識・関係性の蓄積が競争力に直結する業種・企業だ。一方、ジョブ型・外部登用モデルが強みを発揮しやすいのは、専門性の陳腐化が速く、外部から新しい知見を取り込む必要性が高い業種である。日本の労働市場全体がすべてジョブ型に移行することが最適解とは限らないが、少なくとも管理職という職務については、内部昇進のみに依存する現行モデルの限界が露呈しつつある。人的資本開示義務の全貌が示すように、女性管理職比率の開示義務化が進む中で、企業は登用経路の多様化を制度的に迫られる局面に入っている。

選択判断の軸

企業が管理職モデルを再設計する際の判断軸は、大きく三つに整理できる。第一に、管理職の職務内容を現場業務と明確に切り分けられるかどうか。プレイングマネージャー化を解消できなければ、外部登用モデルを部分的に導入しても機能しにくい。第二に、管理職ポジションに見合った処遇プレミアムを設計できるかどうか。処遇面での魅力が乏しいままでは、内部・外部いずれの人材からも敬遠され続ける。第三に、女性を含む多様な人材の登用実績を、単なる目標値ではなく実際の職務設計の変更に反映できるかどうかである。高齢化労働力と生産性のパラドックスが示す人口動態の制約下では、管理職候補となる中核世代自体が先細る中、登用経路を柔軟化する必要性は今後さらに高まる。

これら三つの軸は独立した課題ではなく、相互に連動している。処遇プレミアムを引き上げても、プレイングマネージャーとしての過重負担が解消されなければ実質的な処遇改善効果は薄まる。逆に職務範囲を明確化しても、それに見合う報酬が伴わなければ、優秀な人材ほど管理職以外のキャリアパス(専門職コースなど)を選好する結果になりかねない。両方を同時に手当てして初めて、内部昇進モデルの利点を保ちながら欧米型モデルの柔軟性を部分的に取り込む「ハイブリッド型」への移行が現実味を帯びる。実際に、一部の日本企業では管理職コースと専門職コースを分離する複線型人事制度の導入が進んでおり、これは内部昇進モデルの枠内でジョブ型的な処遇設計を試みる折衷的なアプローチと位置づけられる。

Newscoda の見方

本サイトとして注目するのは、日本の管理職なり手不足が「個人の意欲の問題」として語られがちだが、実際には報酬体系・職務設計・登用経路という制度設計の問題である点だ。プレイングマネージャー化と処遇プレミアムの欠如という二つの構造的欠陥を放置したまま、従業員の意識改革だけを求めても解決は難しい。

多くの解説は女性活躍の遅れという切り口に集約しがちだが、Newscodaとしては性別を問わない管理職忌避という現象全体の背後にある「内部昇進モデルの制度疲労」を重視する。世界経済フォーラムが指摘する日本の中小企業における採用・定着の改善傾向 [6] は、大企業の硬直的な管理職モデルとは異なる、柔軟な人材活用の可能性を示唆している。中小企業では大企業に比べて管理職と現場の距離が近く、職務の線引きよりも実質的な裁量権の付与によって人材のモチベーションを引き出しやすいという構造的な違いがあり、これが大企業とは異なる形での「管理職の魅力化」につながっている可能性がある。

男性育休40%達成の内実が示すように、働き方に関する制度改革は数字上の達成率だけでなく「実態としての運用」が問われる局面に入っている。管理職の職務再設計も同様に、複線型人事制度の導入や女性管理職比率の目標設定といった制度面の整備だけでなく、実際に管理職として働く人々の労働時間・裁量権・処遇が伴っているかという運用面の検証が欠かせない。

今後6-12か月で観察すべき変数:

  • 人的資本開示義務化を受けた女性管理職比率の各社開示状況
  • プレイングマネージャー解消に向けた管理職の職務再設計の事例数
  • 管理職ポジションへの外部人材登用(中途採用)の比率の変化
  • OECD・IMFによる日本のジェンダー・雇用構造に関する次回評価

まとめ

日本企業の管理職に占める女性比率がOECD諸国で最下位水準にとどまる背景には、内部昇進を前提とした管理職モデルが抱える構造的な限界がある。欧米のジョブ型・外部登用モデルとの比較から見えてくるのは、管理職への昇進を「意欲の問題」ではなく「制度設計の問題」として捉え直す必要性だ。プレイングマネージャー化の解消と処遇プレミアムの再設計なくして、なり手不足の解消は難しい。

Sources

  1. [1]Why Such Few Women in Leadership Positions in Japan? — IMF Selected Issues Papers 2024
  2. [2]Women Still Lag Behind Men in Reaching Leadership Roles — OECD, Gender Equality in a Changing World
  3. [3]OECD Employment Outlook 2025: Japan — Country Note
  4. [4]Current Status and Challenges of Gender Equality in Japan — 内閣府男女共同参画局
  5. [5]管理職の働き方に関する調査 — JILPT調査シリーズNo.212(労働政策研究・研修機構)
  6. [6]Japan's SMEs Are Receiving a Recruitment and Retention Boost — World Economic Forum

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