「築古」に値がつく仕組み — 買取再販拡大と価格転嫁モデル事業
中古住宅買取再販市場が急拡大する一方、リフォーム市場は横ばいが続く。国交省は耐震・断熱性能を価格に反映させるモデル事業を2026年度に始動し、築古物件の適正流通を目指す。
はじめに
中古住宅を買い取り、リフォームを施したうえで再び市場に送り出す「買取再販」というビジネスが、日本の住宅流通の中で存在感を増している。事業者が中古の戸建てやマンションを取得し、耐震補強や設備更新、内外装の刷新を行ったうえで一般消費者向けに販売する仕組みであり、2024年の成約戸数は前年比13.3%増の52,800戸に達したとされ、2025年には62,700戸まで拡大する見通しとされる [1]。新築住宅価格の高騰・高止まりが続くなかで、割安かつ「新築同様」に住める中古住宅への需要が広がっていることが背景にあるとされる。
一方で、住宅のリフォーム市場そのものは横ばい圏で推移している。2024年の国内住宅リフォーム市場規模は前年比0.5%減の7兆3,470億円とされ、工事件数の減少を単価上昇が相殺する構造が続いているとされる [2]。買取再販という「出口」の市場が伸びる一方で、リフォームという「入口」の市場が伸び悩むという、やや捻れた状況が生じている。
こうしたなかで国土交通省は、2026年度から新たなモデル事業を開始する方針を示している。耐震性や断熱性を高めるリフォーム、適切な維持管理によって住宅の寿命を延ばす取り組みを、売買価格に適正に反映させる仕組みづくりを進めるとされる [3]。従来、築年数だけを基準に建物価値を一律にゼロと見なす評価慣行が中古住宅の適正な流通を妨げてきたとの指摘は以前からあり、今回のモデル事業はその課題への対応を制度として具体化する試みと位置づけられる。
買取再販市場とリフォーム市場、そして国の制度設計は、それぞれ独立した現象のように見えて、実は「築古住宅をどう値づけし、どう流通させるか」という一つの問いにつながっている。本稿では、買取再販市場の拡大とリフォーム市場の現状、そして国が仕掛ける価格転嫁の仕組みについて、それぞれの構造を整理する。
買取再販市場の拡大
市場規模と成長率
中古住宅買取再販市場の成約戸数は、2024年に52,800戸となり前年から13.3%増加したとされる。さらに2025年には62,700戸、前年比18.8%増まで伸びる見通しが示されている [1]。この市場は、事業者が中古の戸建てやマンションを買い取り、性能向上や意匠面のリフォームを施したうえで再販するという形態を取る。単なる仲介とは異なり、事業者自らが物件を取得し在庫として保有するため、価格変動や売却期間の長期化といったリスクを負う一方、リフォーム内容や保証を統一的に付与した状態で商品化できる点に強みがあるとされる。
上場企業の実績にもこの拡大傾向は表れている。中古住宅買取再販を主力事業とする企業の一つでは、2026年3月期の販売件数が前年比13.7%増加し、営業利益は182億円と前年比28.5%増の過去最高益を記録したとされる。同社は中間決算時点で上方修正した計画をさらに上回る形で着地したとされ、翌期についても販売件数・営業利益ともにさらなる増加が見込まれているとされる [7]。個々の企業業績の背景には十分な在庫確保や営業人員の拡大、粗利向上に向けた各種施策の実行があるとされるが、その前提として市場全体の取引需要が着実に増加していることが読み取れる。
市場が拡大する過程では、事業者が物件を仕入れる段階での競争も強まりつつあるとみられる。買取再販事業は、良質な中古物件を適正な価格で仕入れられるかどうかが収益性を大きく左右する。成約戸数の伸びが今後も続くとすれば、仕入れ市場における競争環境や、事業者が物件のリフォーム内容をどこまで差別化できるかが、各社の収益力を左右する要素になっていくとみられる。
新築価格高騰という追い風
買取再販市場が拡大する最大の背景要因として挙げられているのが、新築住宅価格の高騰・高止まりである。建築資材費や人件費の上昇によって新築住宅の価格は高い水準で推移しており、同程度の立地・広さであれば中古住宅の方が相対的に割安になりやすい状況が続いているとされる [1]。買取再販物件はリフォーム・リノベーションが施され新築同様に入居できる場合が多いため、価格を抑えつつ住み心地を確保したい層に支持されているとされる。
加えて、預金金利よりも高い利回りが見込めることや資産形成を目的として、個人・法人投資家が買取再販物件の取得に参入する動きも指摘されている [1]。住宅取得層の実需と投資需要の双方が重なり合う形で、成約戸数の押し上げ要因になっているとみられる。
もっとも、この成長が新築価格の高止まりという外部要因に強く依存している以上、資材費や金利動向が変化すれば市場の伸び率も変動しうる構造であることには留意が必要である。矢野経済研究所は2030年の成約戸数を75,600戸、2024年比で43.2%増と予測しているが、この長期予測もあくまで新築価格の高止まりが継続することを前提とした見通しであり、住宅ローン金利や建築コストの動向次第で軌道が変わりうる点は踏まえておく必要がある。
リフォーム市場の現在地
市場規模とその停滞
買取再販市場の勢いとは対照的に、リフォーム市場全体は横ばい圏にとどまっている。2024年の国内住宅リフォーム市場規模は7兆3,470億円で、前年比0.5%減とされる [2]。内訳をみると、増改築に関わる費用が前年比3.5%減、家具・インテリア費用が同5.6%減となる一方、設備修繕・維持関連費用は同0.4%増とされ、分野によって明暗が分かれている。
市場が横ばいにとどまっている要因として、物価上昇の影響でリフォームへの意欲そのものが低下し、工事件数が減少傾向にあることが挙げられている [2]。他方で、建築資材費や人件費の上昇、さらには省エネやグリーン住宅に関する政府の補助事業を契機にリフォーム工事の内容を拡充する動きがみられたことから、1件当たりの工事単価は上昇したとされる。件数の減少を単価の上昇が相殺する形で、市場規模全体としてはほぼ横ばいの水準が維持されている構図である。
増改築のような大規模な工事に対する消費者の意欲が相対的に弱まる一方で、水回りなど生活に直結する設備の修繕・維持については底堅い需要が続いていることがうかがえる。買取再販事業者が手掛けるリフォームは、内外装の刷新や設備更新を含む比較的大規模な工事になりやすく、この分野の動向とも重なりが大きい。市場全体としては横ばいでも、買取再販向けの性能向上リフォームのように、特定の用途に絞れば底堅い伸びを示している領域があるとみられる。
耐震・断熱工事という新しい付加価値
市場全体としては伸び悩む一方、耐震性や断熱性を高める性能向上リフォームは、政策的な後押しを受けて存在感を増しつつある分野とされる。国土交通省はかねて、長期優良住宅化リフォーム推進事業などを通じて、性能向上を伴うリフォームへの支援を行ってきたとされる [4]。省エネ性能の底上げやグリーン住宅化を目的とした補助事業も、リフォーム工事単価の上昇を後押しする一因になっているとされる [2]。
こうした性能向上リフォームが評価される背景には、単に古い設備を更新するだけでなく、建物の基礎・躯体を維持しながら耐震性や断熱性を引き上げることで、住宅としての資産価値そのものを回復・向上させられるという考え方がある。実際に国土交通省は2014年の時点で、住宅を「基礎・躯体」と「内外装・設備」に分けて捉え、基礎・躯体の機能が維持されている限り、リフォームによって住宅価値が回復・向上したものとして評価に反映すべきとの指針を示している [5]。長期優良住宅に相当する性能を備えた建物であれば、基礎・躯体の耐用年数を100年超として扱う余地も示されており、築年数のみに依存しない評価の枠組みが模索されてきた。この考え方が、後述する価格転嫁の仕組みづくりの土台になっているとみられる。
国が仕掛ける価格転嫁の仕組み
国土交通省モデル事業の狙い
国土交通省は令和8年度(2026年度)予算の概算要求において、既存住宅の流通量増加や住宅取引時の情報開示強化などを目的とした新規事業に関連経費を計上したとされる [3]。この事業では、耐震性・断熱性を高める性能向上リフォームや、日常的な維持管理の状況を、中古住宅の売買価格に適正に反映させるための査定ルールづくりとモデル事業の実施が予定されているとされる。
背景には、築年数だけで一律に建物価値をゼロとみなす従来の評価慣行が、中古住宅の適正な流通を妨げてきたという長年の課題認識がある。国土交通省はすでに、中古戸建て住宅の建物評価を改善する指針を策定し、不動産流通推進センターが定める既存住宅価格査定マニュアルの改訂にもつなげてきた経緯がある [5][6]。今回のモデル事業は、この考え方をさらに一歩進め、築年数が古い物件であっても耐震・断熱性能や維持管理の実態を証明できれば、それに見合った価格で流通させられる仕組みを具体化しようとするものと位置づけられる。
具体的には、2026年度中に住宅の性能や維持管理状況を査定に反映させるためのルールを整備したうえで、実際の取引を対象としたモデル事業を実施する計画とされる [3][4]。既存住宅の流通量そのものを増やすことに加え、住宅取引の際に維持管理履歴やリフォーム履歴といった情報を開示する体制を整えることも、事業の目的として掲げられているとされる。買主が物件の性能や履歴を把握しやすくなれば、価格交渉や住宅ローンの審査においても、これまで以上に具体的な根拠に基づいた判断が可能になるとみられる。
業界・消費者への波及
価格転嫁の仕組みが機能すれば、リフォーム事業者にとっては、性能向上工事が単なるコストではなく物件価格に反映される投資として説明しやすくなる可能性がある。買取再販事業者にとっても、耐震・断熱改修を施した物件の価値を査定上より明確に主張できるようになれば、リフォーム内容の差別化が販売価格に結びつきやすくなるとみられる。
消費者側から見ても、性能や維持管理の状況が価格に反映される仕組みが整えば、築年数だけでは判断しにくかった中古住宅の品質を、より客観的な基準で比較検討できるようになる可能性がある。特に耐震性や断熱性は、居住してからでなければ体感しにくい要素であるため、購入前の段階で数値や証明書として確認できる意義は大きいとみられる。
もっとも、査定ルールの整備やモデル事業の実施はこれから本格化する段階であり、実際にどの程度まで価格に反映されるか、対象となる地域や物件の範囲がどこまで広がるかは、今後の制度設計次第という段階にある。耐震診断や断熱性能証明を取得する手間や費用を、売主・買主・仲介事業者のいずれがどの程度負担するのかといった実務上の課題も、今後の検討課題として残されている。
注意点・展望
買取再販市場の拡大とリフォーム市場の横ばいという二つの動きは、いずれも新築価格の高止まりという共通の構造要因の上に成り立っている面がある。仮に建築資材費や金利動向が変化し新築価格の上昇圧力が緩和されれば、中古住宅への需要シフトの勢いが弱まる可能性も否定できない。また、買取再販市場の成長率自体も、2025年の18.8%増という高い伸びがそのまま持続するとは限らず、在庫となる中古住宅の仕入れ競争が激化すれば、事業者の採算にも影響が及びうる。
国交省のモデル事業についても、2026年度はあくまで査定ルールの整備とモデル事業の実施が中心であり、全国一律の制度として定着するまでには相応の時間を要するとみられる。耐震診断や断熱性能の証明にかかるコストを誰が負担するのか、性能評価の客観性をどう担保するのかといった実務上の論点も残る。老朽化した集合住宅の法制度をめぐる議論とも重なる部分があり老朽マンションが直面する法改正の議論と合わせて、既存住宅ストック全体をどう資産として機能させるかという課題の一部として捉える視点が求められる。
Newscoda の見方
本サイトが注目するのは、この動きが単なる「空き家問題」の延長ではなく、築古住宅を値づけ可能・融資可能な資産に変換する仕組みづくりであるという点である。買取再販事業者やリフォーム会社のビジネスモデル、そして国が用意しようとしている価格転嫁の制度設計は、放置されがちだった中古ストックを取引可能なフローへと転換する試みとして理解できる。
他の解説が見落としがちなのは、性能を価格に反映させる仕組みが定着した場合、それが実質的に中古住宅の格付け・鑑定制度に近い機能を持ちうるという点である。耐震・断熱性能が数値として査定に組み込まれれば、住宅ローンや保険の設計にも波及しうる。空き家というストック過剰の問題を扱った空き家900万戸をめぐる制度と市場の動きとは異なり、本稿が扱うのは実際に取引・再生されている物件群の話であり、両者は補完的な関係にあるとみるべきだろう。
今後6〜12か月で観察すべき変数としては、以下が挙げられる。
- モデル事業の対象地域・対象物件の範囲がどこまで拡大するか
- 買取再販市場の2026年通期実績が見通し通りの伸びを維持できるか
- リフォーム市場が横ばいから反転増加に転じるか、それとも縮小基調に入るか
- 住宅ローン減税やリフォーム関連減税の制度見直しが査定制度とどう連動するか
- 主要買取再販事業者の仕入れ競争が採算にどう影響するか
まとめ
中古住宅買取再販市場は新築価格の高止まりを追い風に急拡大を続けており、2025年には成約戸数が前年比18.8%増の62,700戸に達する見通しとされる。一方でリフォーム市場全体は7兆3,470億円前後で横ばいが続き、件数減少を単価上昇が相殺する構図にある。こうしたなかで国土交通省は2026年度から、耐震・断熱性能や維持管理の状況を価格に反映させるモデル事業を始動させる方針であり、築古物件であっても性能を証明できれば適正価格で流通させる仕組みづくりを目指すとされる。買取再販業者のビジネス拡大とリフォーム市場の構造変化、そして国の価格転嫁の仕組みは、いずれも既存住宅ストックを「使える資産」として市場に戻す動きの一部として捉えることができる。
Sources
よくある質問
- 中古住宅の「買取再販」とは具体的にどのようなビジネスモデルを指すのか?
- 不動産会社が中古住宅を自ら買い取り、耐震補強や内外装のリフォームを施したうえで一般消費者に再販する事業形態を指す。仲介と異なり事業者が在庫リスクを負う一方、性能や保証を付与した状態で流通させられる点が特徴とされる。
- なぜ新築住宅価格の高騰が中古住宅への需要を押し上げているのか?
- 建築資材費や人件費の上昇により新築住宅価格が高止まりし、同程度の立地・広さであれば中古住宅の方が割安になりやすいためとされる。リフォーム済み物件であれば新築に近い住み心地を確保できる点も需要増加の要因とされる。
- 国交省の価格転嫁モデル事業は具体的に何を変えようとしているのか?
- 耐震・断熱性能の向上や適切な維持管理といった要素を、中古住宅の査定・取引価格に反映させる仕組みづくりを目指すとされる。2026年度に査定ルールの整備とモデル事業を進める計画とされる。
- 国内の住宅リフォーム市場はなぜ横ばいの状態が続いているのか?
- 物価上昇の影響でリフォームへの意欲が低下し工事件数が減少する一方、資材費・人件費の上昇や補助制度を背景に工事単価が上昇し、両者が相殺した結果とされる。件数の減少を単価上昇が補う構造とされる。
- 空き家問題とこの買取再販・リフォーム市場拡大はどう違うのか?
- 空き家問題は活用されず放置されるストックの過剰という構造課題を指すのに対し、買取再販・リフォーム市場は既存住宅ストックのうち実際に取引・再生されて市場に流通する部分の拡大を指す。前者が滞留、後者が流動の話であるという違いがある。
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