ビジネス

トラック新法とCLO義務化:2026年4月、荷主責任と運賃転嫁の仕組みが変わる

2026年4月施行の改正物流効率化法とトラック適正化二法により、大手荷主約3000社にCLO選任と定期報告が義務化される。運賃転嫁の制度設計と業界の対応を整理する。

Newscoda 編集部

背景

出発点となった状況

2024年4月、トラックドライバーの時間外労働に年960時間の上限規制が適用され、いわゆる「物流の2024年問題」が広く認知された。だが規制の効果はドライバー側の労働条件是正にとどまらず、輸送力そのものを縮小させる副作用を伴った。国土交通省は、規制が徹底された場合、輸送能力が中長期的に大きく不足しうるとの見通しを示し、荷主・物流事業者双方に対応を求める姿勢を明確にしてきた。

ドライバーの労働時間を制限するだけでは、荷待ち時間の長さや契約外の附帯作業、多重下請けによる中間マージンの発生といった構造的な非効率は解消されない。むしろ運べる量が減った分、誰がコストを負担し、誰が非効率を是正する責任を負うのかという「配分」の問題が前面に出てきた。これが2026年4月から施行される一連の制度改正、通称「トラック新法」および改正物流効率化法の出発点である。

構造的な前提

日本の物流業界は、荷主(発注者)とトラック運送事業者(受注者)の力関係が非対称であるという構造的な課題を抱えてきた。運送事業者の大半は中小・零細事業者であり、大手荷主や元請け事業者に対して価格交渉力を持ちにくい。国が2018年の貨物自動車運送事業法改正で「標準的な運賃」の告示制度を創設したのも、この非対称性を是正する狙いがあった。しかし標準的な運賃はあくまで目安であり法的拘束力を持たず、実際の契約運賃を下支えする効力は限定的だったとされる[7]。

2024年3月には標準的な運賃が平均8%引き上げられ、荷役や待機の対価を個別に加算する仕組みも導入されたが、これも告示に法的強制力がない点は変わらなかった[7]。この限界を踏まえ、政府は2025年から2026年にかけて、荷主側に直接の義務を課す制度と、運送事業者側の許可制度を同時に見直す二段構えの改革に着手した。これが今回のトラック新法と改正物流効率化法である。

加えて、多重下請け構造も長年の課題として指摘されてきた。実際に荷物を運ぶ事業者にたどり着くまでに何次もの下請けを経ることで、中間マージンが積み重なり、末端の実運送事業者に渡る運賃が目減りする構造である。トラック適正化二法では、この再委託の次数を2次までに制限する努力義務や、利用運送事業者に対する書面交付義務・実運送体制管理簿の作成義務を新設し、取引の透明性を高める方向に舵を切った[1]。運賃を引き上げても、その原資が実際に運転する事業者まで届かなければ規制の実効性は乏しい、という問題意識が制度設計の随所に反映されている。

2024年: 第1局面

2024年は、ドライバーの時間外規制という「供給制約」が顕在化した局面である。国土交通省をはじめとする関係省庁は、規制の施行に先立ち「物流革新緊急パッケージ」や荷主・物流事業者向けの取り組み指針を整備し、荷待ち時間の削減や積載効率の向上を促した。標準的な運賃の8%引き上げ告示(2024年3月)は、コスト増加分を運賃に反映させる最初の政策的シグナルだったが、あくまで努力を促す仕組みにとどまり、拘束力のある義務化には至らなかった[7]。

この局面ではまだ、規制の中心は「ドライバーの働き方」であり、荷主側の義務は明文化されていなかった。結果として、運賃転嫁が進む企業と進まない企業の差が広がり、制度の実効性を高める必要性が政策論議の焦点になっていった。

2025年: 第2局面

2025年は、荷主責任を法制度に落とし込む立法作業が本格化した局面である。同年6月11日、貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律と、貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律の2本、通称「トラック適正化二法」が公布された[1]。同時に、物資の流通の効率化に関する法律(物流効率化法)の改正も進み、2025年4月1日には基本方針の策定や荷主・物流事業者の努力義務化という第一段階の施行が行われた[2][3]。

制度設計の柱は明確だった。第一に、一定規模以上の荷主・連鎖化事業者(フランチャイズ本部など)を「特定事業者」に指定し、中長期計画の作成・提出と定期報告を義務付ける。第二に、その特定事業者に経営幹部レベルの「物流統括管理者(CLO、Chief Logistics Officer)」の選任を義務付ける。第三に、トラック運送事業者側には許可更新制の導入や、国が示す「適正原価」を下回る運賃・料金を禁じる規制的措置を段階的に導入する[1][2]。

指定基準も具体化された。年間の取扱貨物重量が9万トン以上の荷主(特定第一種荷主・特定第二種荷主)、事業用自動車を150台以上保有する運送事業者、年間入庫貨物量が70万トン以上の倉庫業者などが「特定事業者」の対象とされ、業界全体の物流量のおおむね半分をカバーする水準に基準値が設定された[4]。この基準に該当する荷主は約3000社規模と見込まれており、対象は食品・小売・製造業など貨物量の多い業種に広く及ぶ[3][4]。

指定対象には、コンビニエンスストアやドラッグストアの本部のように、自らは輸送を行わないものの多数の店舗への配送を統括する「特定連鎖化事業者」も含まれる点が特徴的である。物流を外部委託しているからといって規制の対象外になるわけではなく、発注側としての責任を問う制度設計になっている。前年度の実績値をもとに毎年度指定の要否が判定される仕組みであるため、貨物量が基準に近い企業は、年度ごとに指定・非指定が変動しうる点にも留意が必要とされる[4]。

2026年4月〜: 第3局面

2026年4月1日、改正物流効率化法の第二段階が全面施行される。特定事業者の指定、中長期計画の提出・定期報告、そしてCLOの選任が正式に義務化される段階である[3][4]。CLOには、事業運営上の重要な意思決定に関与する経営幹部クラスの人材を充てることが求められ、調達・生産・販売・物流など複数部門を横断してサプライチェーン全体を統括する役割を担う。選任義務に違反した場合は100万円以下の罰金、指定の届出を怠った場合は20万円以下の過料が科されるとされ、努力義務だった段階から一歩踏み込んだ強制力を持つ制度に変わった点が特徴である[3]。

同じ2026年4月1日には、トラック適正化二法のうち第一弾の措置も施行される。具体的には、許可を持たない自家用車両が有償で荷物を運ぶ、いわゆる「白トラ」への規制強化と、荷主等が違法な白トラに運送を依頼すること自体を規制対象とする措置、利用運送事業者に対する書面交付義務や実運送体制管理簿の作成義務などが対象になる[1]。年間トラック利用量が100万トンを超える事業者には、運送利用管理規程の作成と運送利用管理者の選任も新たに求められる[1]。一方、許可更新制度や適正原価を下回る運賃を禁じる規定は、公布から3年以内の施行が予定されており、2026年4月時点ではまだ全面適用に至っていない[1]。

つまり2026年4月は、荷主側の義務(CLO選任・計画提出)と、違法運送・多重下請けの是正に関わる措置がそろって走り出す一方で、運送事業者の許可制度そのものを揺さぶる規制はなお準備期間にあるという、非対称なタイミングで制度が動き出す局面である。荷主側から先に規制の手が伸びる構図は、これまで交渉力で劣勢だった運送事業者側の立場を、制度面から後押しする狙いがあるとみられる。

制度の施行と歩調を合わせる形で、運賃水準の見直しも動いている。JR貨物は2025年10月17日、コンテナ貨物・車扱貨物の基本運賃をそれぞれ9%引き上げると発表し、2026年4月1日から実施するとした。燃料費・人件費の高騰や輸送機材の維持更新費用の増加を、経営努力だけでは吸収しきれないことが理由とされる[6]。トラック輸送だけでなく、鉄道貨物という代替輸送モードでも同時期にコスト転嫁が進んでいる構図は、物流コストの上昇が特定の輸送手段に限られた現象ではないことを示している。

直近の動き

2026年に入り、国土交通省が主導する「標準的な運賃・標準運送約款の見直しに向けた検討会」は、運賃制度そのものの再設計に向けた提言をまとめている。提言は、平均約8%の運賃引き上げと燃料費基準の見直し、待機時間だけでなく積込料・取卸料などの対価を個別に設定する仕組み、多重下請け構造是正のための下請け手数料の明記、運賃・料金を記載した電子書面交付の義務化、共同輸配送向けの「個建運賃」やリードタイム短縮に応じた「速達割増」など多様な運賃体系の導入を柱としている[5]。標準的な運賃という努力目標型の制度から、適正原価を下回る取引を禁じる規制型の制度へと軸足が移りつつある流れが、この提言にも表れている。

トラック新法の枠組みでは許可更新制と適正原価規制の施行がまだ先であるため、企業側はCLO選任や中長期計画の策定といった足元の義務対応と、数年後に控える運賃規制強化の両方を見据えた準備を並行して進める必要がある局面にある。

今後の展望

今後の焦点は、義務化された制度が実際にどこまで運賃転嫁と労働条件改善につながるかという実効性の検証に移る。特定事業者に指定された約3000社が提出する中長期計画と定期報告は、国土交通省が積載効率や荷待ち・荷役時間の実態を継続的に把握する基礎データとなる。計画が形式的な提出にとどまるのか、実際の商慣行の見直しに結びつくのかは、施行後数年の運用実態を見なければ判断がつかない。

また、許可更新制と適正原価規制は公布から3年以内、すなわち2028年前後までに施行される見込みであり、トラック運送事業者にとっては、更新のたびに労働条件の適正性が審査される新たな緊張感を伴う制度になる可能性がある[1]。適正原価を下回る運賃契約が明確に違法となれば、荷主側の価格交渉における前提も変わる。標準的な運賃の見直し提言にある多様な運賃体系の導入が実現すれば、輸送距離やリードタイム、共同配送の有無に応じてきめ細かく運賃が設定される市場へと移行する可能性もある[5]。運賃転嫁が進み経営体力に余裕が生まれれば、トラックの電動化・水素化など次世代車両への投資判断にも波及しうる。

一方で、指定基準に届かない中堅・中小の荷主企業への波及も見逃せない論点である。特定事業者に指定される約3000社は業界全体の物流量のおおむね半分をカバーする水準にとどまり、残り半分は基準未満の企業群が担っている構図にある[4]。大手荷主がCLOを設置し、積載効率や荷待ち時間の是正に取り組む一方で、指定を受けない企業がこれまでの商慣行を維持すれば、業界内での取引条件の差が広がる可能性がある。定期報告の集計結果が公表されるようになれば、指定対象外の企業に対しても、取引先や投資家からの視線を通じて間接的な行動変容を促す効果が生まれることも考えられる。

Newscoda の見方

Newscoda としては、今回の一連の改正が「ドライバー保護」から「荷主の経営責任」へと規制の重心を移した点に注目している。CLO義務化は単なる肩書きの新設ではなく、物流を経営アジェンダの一部として扱うことを法律上求める仕組みであり、対象となる約3000社の経営体制そのものに影響を及ぼす制度変更である。

他の解説の多くが2024年問題の延長線上でドライバー不足や自動化投資を論じるのに対し、本記事は運賃転嫁の制度設計と荷主側の法的義務という、より川上の構造変化に焦点を当てている。運賃が上がるかどうかは、自動化投資の進捗以上に、荷主責任を定めた法制度がどこまで実効性を持つかに左右される側面が大きい。国際貨物運賃の変動が国際海上輸送コストに連動する構図と同様、国内トラック輸送でもコスト構造の透明化が進むかどうかが今後の分水嶺になる。

今後6〜12か月で観察すべき変数は次の通りである。

  • 特定事業者に指定された企業がCLOに実際にどのような人材・権限を与えるか
  • 中長期計画・定期報告の内容が形式的なものにとどまるか、商慣行の見直しに結びつくか
  • 標準的な運賃・約款見直しの提言が具体的な告示改正としてどの時期に実現するか
  • JR貨物の運賃改定など代替輸送モードのコスト転嫁が荷主の輸送手段選択に与える影響
  • 許可更新制・適正原価規制の施行に向けた業界の準備状況

まとめ

2026年4月は、日本の物流政策にとって「ドライバーの働き方」から「荷主の経営責任」へと軸足を移す節目となる。改正物流効率化法によるCLO選任義務化と定期報告制度、トラック適正化二法による白トラ規制強化、そして標準的な運賃制度の規制型への転換という三つの動きが同時並行で進んでいる。許可更新制や適正原価規制の全面施行はなお数年先だが、荷主側の義務はすでに法的拘束力を伴う段階に入った。物流コストの負担配分をめぐる制度設計は、今後も段階的に強化されていく見通しである。

Tags

Sources

  1. [1]物流:トラック適正化二法について - 国土交通省
  2. [2]物流:改正貨物自動車運送事業法(令和7年4月1日施行)について - 国土交通省
  3. [3]物流統括管理者(CLO)の選任 - 「物流効率化法」理解促進ポータルサイト
  4. [4]特定事業者の指定 - 「物流効率化法」理解促進ポータルサイト
  5. [5]報道発表資料:「標準的な運賃・標準運送約款の見直しに向けた検討会」の提言を公表します - 国土交通省
  6. [6]運賃改定に関するお知らせ - 日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)
  7. [7]一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃(令和6年3月告示) - 全日本トラック協会

関連記事

最新記事